【特別寄稿】これでよいのか専門技術者:ミャウンミャ橋崩落事故に見る「点検と修繕」の罠
※この記事は全3ページで構成された寄稿文のうち、一部(第1ページ目)を抜粋・再構成して掲載したものです。
1. 長い鋼製吊り橋が河川に落ちた!
――前回の米国・フロリダでの歩道橋崩落事故に続き、今回はミャンマーで現役の鋼製吊り橋が崩落するというショッキングな事故が起きました。技術者として、非常にやるせない思いを抱かれていらっしゃいますね。
髙木:本当に情けなく、やるせない気持ちで一杯だ。事故が起きたのは、我が国が国を挙げて支援しているミャンマー南部のエイヤーワディ管区、ミャウンミャ(Myaungmya)だ。私の前回の記事がネットに掲載された2018年4月1日(日)の午前1時45分頃、まさにその吊り橋が突然崩落した。
髙木:崩落したのは、主要幹線道路がミャウンミャ川を跨ぐ橋長387.1mの「ミャウンミャ橋」である。橋上を走行していた16トンのトラックと運転手を含む2人が巻き添えとなり、川底へ落下して命を落とした。この橋は1994年に中国の設計で架設され、1996年3月から22年間使われてきた近代的な鋼製吊り橋だった。
――現地では定期点検も行われており、過去の調査では中央部の異常沈下や鋼部材の断面欠損、主ケーブルの著しい腐食などが報告されていたそうですね。2年前から修繕工事も行われていたとのことですが……。
髙木:デッキやボルト、伸縮装置、サスペンダーロッドなどの補修が行われていた。公開されている点検結果が正しければ、管理者の判断として修繕を行ったこと自体は適切といえる。しかし、なぜ修繕したばかりの橋が落ちたのか。
髙木:私が学んだ道路橋管理の原則は、『安全性が担保できなければ人や車両を通してはならない、周囲から何と言われても技術者として倫理観を持って決断しなければならない』ということだ。これを誤れば、どのような対策も意味をなさなくなる。
2. 事故の原因と構造上の致命的リスク
――事故の直接的な引き金はどこにあったと推測されるのでしょうか?
髙木:現地報道によれば、吊り橋の命である「主ケーブル」が床版を貫通し、アンカーレイジに定着している箇所が著しい腐食によって破断したことが崩落の起点となったようだ。現地に行っていないため推測ではあるが、主ケーブルがコンクリート床版を直接貫通するあの構造は、雨水や塵埃が溜まりやすく、腐食しやすい最悪の環境だった。
髙木:ミャンマーは熱帯モンスーン気候で年間降雨量が約3,000mm、最高気温平均32℃という高温多湿な環境だ。ファントホッフの規則(温度が10℃上がると反応速度は2倍になる)や高い湿度・飛来塩分を考慮すれば、鋼材の腐食速度は我々の予測をはるかに超える。高強度鋼線が引っ張り応力を受けた状態で腐食すると、一気に破壊に至る「応力腐食」が加速することは、技術者なら知っていて当然の最低限の知識だ。
――点検や診断、そして実際の修繕にあたった技術者たちの判断に大きな疑問が残りますね。
髙木:点検・診断業務は、利用者や第三者の安全を確保するために行うものだ。「決まりだから」「ルーチン作業だから」と目的を理解せずに行っていれば、今回のような大きなしっぺ返しを受ける。さらに、事故後に行政の責任者が「建設時から主塔が傾いていた」「昔の設計で点検が困難だった」と言い訳めいた発言をしたの聞いて、大変に憤りを感じた。人の命を技術者のヒューマンエラーで奪うことは、絶対に避けなければならない。
3. まとめ:専門技術者が持つべき「倫理観」
――今回の事故は、海外の事例にとどまらず、日本のインフラ管理や技術者に対しても重い教訓を投げかけていますね。
髙木:その通りだ。私は本来、コンクリート構造物の耐久性向上策について書く予定だったが、供用中の橋梁に対し点検や診断、劣化予測、措置を講じたにもかかわらず崩落した今回の悲惨な事故を受け、急遽テーマを変更した。
髙木:技術に公平性はない。条件は同じでも、知識、実績、能力は個人の努力によって異なる。構造物の点検・診断・維持管理に携わるすべての技術者は、思い込みやルーチン作業を捨て、真のプロとしての専門知識と揺るぎない倫理観を持たなければならない。私たちが預かっているのは、無数の人々の尊い命なのだから。
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