橋梁総延長は約284km、トンネル総延長は179km
NEXCO西日本九州支社 19路線1,095kmを管理
関門橋で主ケーブルやハンガーロープを塗替え
飯牟礼橋では耐候性鋼材の塗替えを進める
――2021年度の鋼橋塗替え実績(橋数と面積)と、2022年度の鋼橋塗替え予定(同)は。溶射など新しい重防食の採用などについてもお答えください。加えて、耐候性鋼材を採用した橋梁で錆による劣化・損傷が報告されている事例が出てきていますが、NEXCO西日九州支社では採用事例が何橋あり、現状どのような健全度を示しているのか教えてください。実際に飯牟礼橋で行っている対策についても教えて下さい。
河北 鋼橋の塗替塗装は、2021年度に九州道で3橋・約92百㎡実施しています。また、2022年度には九州道で3橋・約65百㎡の実施を予定しています。
また、上記とは別に関門橋及び南九州道の飯牟礼橋でも継続して塗替工事を実施しており、関門橋については2021年度内に桁部の塗替えが完了しました。今後は、引き続き主ケーブルやハンガーロープの等の塗替えを実施していきます。
関門橋 塗装完了履歴の一部(井手迫瑞樹撮影)
関門橋の工事状況(ケーブルの塗装塗替え(左)/アンカレイジ部(中)/ケーブル内送気装置)(井手迫瑞樹撮影)
耐候性鋼材を採用した橋梁は九州支社管内に13橋あります。過去に伸縮装置や排水管の劣化個所からの漏水の影響で部分的に損傷が発生した橋梁がありますが、補修を実施したため飯牟礼橋を除き比較的健全であり、劣化・損傷は軽微な発錆等に留まっています。
飯牟礼橋は橋長365mの鋼4径間連続(箱桁+トラス)橋で、供用後約21年経過している耐候性鋼材無塗装橋梁です。
同橋は、海から直線距離で約5km離れた位置にありますが、路面に散布する凍結防止剤や海からの風(飛来塩分)が谷筋を通って同橋に至る影響と、地理的条件や同橋の構造の特性により雨・霧・結露の影響を受けることから、部材(特に格点部や部材下面)に付着した塩分と水分が腐食を進行させ、層状剥離錆やうろこ状の錆が見られる状態です。
そのため、2019年度に補修工事を開始し、腐食が進行した部材の補修(当て板補修)、腐食した高力ボルトの取替、裸仕様の部材を重防食塗装に塗装する工事を施工しています。
なお、同橋における部材の塗装においては「塩分の除去」が重要であるため、素地調整について試験施工により手順を定めています。
飯牟礼橋の損傷状況(当サイト既掲載、左上のみNEXCO西日本提供、他写真は井手迫瑞樹撮影)
ブラスト工に用いる研創材は硬度が高く粒形が小さい「ガーネット」及び「アルミナ」を選定
試験施工においては「孔食内部の固着錆及び塩分の除去」について、付着塩分量50㎎/㎡以下、除錆度ISO Sa2.5、素地調整後4時間以内に戻り錆が目視確認されない等の条件を満足させるため、ブラスト工に用いる研創材の種類・粒径・使用量及び、高圧洗浄機による洗浄時間等について検証を行いました。
結果、腐食部における素地調整の施工方法は、ブラスト工と洗浄工を交互に3回繰り返した後、仕上げのブラスト工を実施する手順としました。
ブラスト工に用いる研創材は硬度が高く粒形が小さい「ガーネット」及び「アルミナ」を選定し、これをブラスト工の各回で使い分けることにより施工条件を満たしつつ作業環境と経済性に配慮しました。
現在、腐食が著しい下弦材及び横構、垂直材の一部を対象として工事を実施しており約1.5千㎡の塗替が完了しています。工事は2023年度まで実施する予定です(本工事の塗替対象は約4.3千㎡)。
既存塗膜に鉛などの有害物質が含まれているか事前に調査を行い、有害物質が含まれる場合は、厚生労働省局長通達(平成26年5月30日)や関係法令に基づき塗膜剥離剤やIH剥離機による旧塗膜剥離を行っています。
旧塗膜の処理は、有害物質の溶出量試験の結果に基づき関係法令に従い「特別管理産業廃棄物」として処理しています。
――腐食が著しい箇所でのブラスト工に使用する研掃材の硬度・粒形の値を具体的に教えてください
河北 1回目がガーネット#8(使用量:25㎏/㎡、新モース硬度10)、2回目がガーネットType2(使用量:50㎏/㎡、新モース硬度は1回目と同じ)3回目がアルミナ#60(使用量:75㎏/㎡、新モース硬度12)、仕上げにアルミナ#60(使用量:25㎏/㎡、新モース硬度12)を用いています。
――高圧洗浄機械はどのようなものを使用していますか。過去に現場を見た際は特殊な洗浄機械の試験施工をしていましたが
河北 一般的な高圧洗浄機を使用しています。
――洗浄時間、及び洗浄水はどのようなものを使用しているか(真水、アルカリ水、ウルトラファインバブル水など)
河北 真水により1分/mの速度で施工しています。(部材幅55cm)
ウルトラファインバブル水は、試験施工の結果、顕著な違いが確認できなかったため採用していません。
――鋼材に付着した塩分は耐候性鋼材特有のポーラスな部分も含めてきちんと除去できていますか
河北 腐食が著しい箇所においても、ブラスト工と洗浄工を交互に3回繰り返した後、仕上げのブラスト工を行うことで、付着塩分量50mg/㎡以下等の管理基準を満足しています。
――PCBを含有する橋梁はありますか
河北 支社管内では関門橋が該当しますが、今回の塗替え工事で全て除去しました。
排水構造物の清掃や補修を梅雨期前までに集中的に実施
――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、NEXCOでも道路に面する斜面や、古い法面、盛土構造などをどのように補強・補修して道路を守っていくのか具体的な事例や計画などがございましたら教えてください
河北 2020年7月豪雨は、当支社管内にも甚大な被害を齎しました2020年7月3日~7月10日の8日間で、九州道の南関ICにおいて累計雨量約1,100mmを観測し、九州支社管理区間の約1095kmのうち最大約600kmが通行止めとなりました。九州支社管内ではこの豪雨による主な被災は18箇所にのぼり、熊本県が12箇所と最も多く、次いで大分県が3箇所、鹿児島県が2箇所、佐賀県が1箇所でした。また、上記被災箇所の多くが土砂流出によるもので、その教訓を学んで対策を施した結果、2021年8月の大雨では、累計雨量が1,000mm以上を観測した箇所が複数あったものの、車線規制が必要な被災は、コンクリート吹付の切土のり面の被災1か所のみと軽微でした。
これは、土砂災害の発生要因の多くが水に起因することを踏まえ、常日ごろから、のり面点検や排水溝清掃等の維持管理を実施しているとともに、縦断・横断勾配の関係で水が集まりやすい箇所や縦排水溝や集水ますの合流部などの排水構造物の清掃や補修を梅雨期前までに集中的に実施したものだと考えられます。
集水ますの改良状況(NEXCO西日本提供)
また、九州支社では特に重要な結節点であり通行止めの際、広域的な影響が極めて大きい鳥栖JCT を跨ぐ区間、本州と九州を結ぶ門司~下関間において降雨時の災害抑制のため、コンクリート枠工等のり面補強対策を推進し、降雨に強いのり面を目指して工事を施工中です。
――2012年の九州北部豪雨以来、九州は頻繁に豪雨が襲っています。排水能力など、抜本的な見直しは考えていますか
河北 排水管のサイズを大きくするなどの抜本的な対策は考えていません。しかし接続箇所を強化するため、跳水を防ぐ構造を造ったり、水を呑む部分をラッパの様な形状にして水がスムーズに流れるようにする工夫を行ったりしています。また、小段排水溝に関しては、コンクリートの壁を立てて水が法面方向にオーバーフローしないようにする対策を施しています。
遊間部の止水対策にREJ工法やJWS工法を採用
非破壊点検技術も積極的に活用
――新技術や、コスト縮減策または独自の新技術・新材料などの活用について
河北 伸縮装置は健全であるが、漏水が発生しているものが多い状況です。
伸縮装置の漏水補修工法として、既設の伸縮装置の止水材を取替え、止水機能を回復させる「REJ工法」、地覆・壁高欄に止水用のシートを貼付け、遊間部からの漏水を防止する「JWS工法」を採用しています。
REJ工法実施例(NEXCO西日本提供)
REJ工法は、従来であれば製品ジョイントの止水材の劣化等による漏水に対し全取替を行っていましたが、REJ(リフレッシュジョイント)工法は止水材を撤去し鋼材部のブラスト(一種ケレン相当)を行った後、伸縮性・付着性に優れた止水材(弾性シール材)を充填することにより止水機能を回復させる工法で、全取替よりも安価で施工が可能です。管内においては2021年度で約750m施工しており、2022年度は約1,500m施工する予定です。
JWS工法は、地覆・壁高欄遊間部に伸縮性・付着性・耐候性に優れた特殊樹脂(ポリウレア)シートを貼り付けて止水する工法です。この工法により、遊間部の止水材の剥がれによる漏水を短時間の作業(90分程度)で補修することができます。
管内においては2021年度で約25m施工しており、2022年度は約400m施工する予定です。
JWS工法 (左)施工前/(右)施工完了状況(NEXCO西日本提供)
桁端の防錆などについては、引き続きTAPS溶射などを用いています。
――新しい非破壊点検手法については
河北 トンネルの非破壊点検については西日本高速道路エンジニアリング九州のeQドクターT(トンネル覆工点検システム)を用いて覆工コンクリートの画像を撮影し、ひび割れをスクリーニングして、現地の詳細点検に生かす技術を採用しています。
eQドクターTの活用状況
――橋梁でも同様の非破壊点検技術を活用していますか
河北 超高精細画像を用いたコンクリート構造物点検システム「AutoCIMA(オートシーマ)」や、赤外線調査トータルサポートシステム「 Jシステム」を主に第三者被害の可能性があるコンクリート剥落可能性箇所の点検で用いています。
――安全対策分野では、西日本高速道路エンジニアリング九州が点検業務における危険感受性を高めるためのVR技術「eQ危険体感VR」を開発されましたが、九州支社でも活用していきますか
河北 これから活用していくことになろうかと思います。
eQ危険体感VR
――最後に保全上の今後の課題について
河北 災害の激甚化が年を経るごとに顕著になっています。その中でも高速道路を使われるお客様の安全・安心を確保していくことが当支社に課された使命であると考えています。そこを全力で担っていくことが大事です。
――ありがとうございました