橋梁総延長は約284km、トンネル総延長は179km
NEXCO西日本九州支社 19路線1,095kmを管理
NEXCO西日本九州支社は、管内で19路線1,095kmを管理している。橋梁総延長は約284km、トンネル総延長も179kmに達する。供用年数30年を超える橋梁は約7割、トンネルは同5割と老朽化も進む中、どのように高速道路の安全・安心を確保していくのか、河北英彦保全サービス事業部長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
総橋梁数は約1,800橋、トンネル総チューブ数は200チューブ
RC、PC、鋼橋が30~37%ずつ占める。トンネル在来矢板は13%
――現在の管内橋梁・トンネルの内訳は
河北部長 九州支社管内の道路総延長は19路線約1,095kmで、橋梁はその内15%を占めています。
総橋梁数は上下線別で約1,800橋あり、総橋梁延長は約284km(上下線別集計)です。橋種別割合は、RC橋が約30%(延長比、以下同)で、PC橋が約37%、鋼橋が約33%を占めています。
トンネルの総チューブ数は200チューブあります。総延長は179㎞(上下線別集計)であり、NATM工法が約87%、在来工法等は約13%を占めています。
30年を超えた橋梁数は約7割あり、九州道、宮崎道において約9割が30年経過しています。10年後は九州支社管内の橋梁数の約8割が30年を経過することになります。トンネルにおいては、30年を超えたトンネル数が約5割あり、九州道・宮崎道において約8割が30年を経過しています。10年後は九州支社管内のトンネル数の約7割が30年を経過することになります。
また、関門自動車道・九州自動車道(北部)における大型車混入率は、おおむね高い傾向です。
九州道の北部で上部工損傷の割合が高い傾向
管内1トンネルで盤膨れ
――管内の所管地域の構造物の管理状況について、点検を進めてみての管内各路線の劣化状況について詳しくお答え下さい
河北 九州管内で発生している橋梁上部工の損傷は、橋種ごとでは鋼橋、RC橋、PC橋の順で多く、部位ごとでは桁の端部、支承、床版の順で多い状況にあります。
損傷の傾向は九州支社管内で共通するものですが、経過年数の長い九州道の北部(門司IC~みやま柳川IC)が割合として多い傾向にあります。
損傷原因につきましては、伸縮装置や床版防水工の劣化個所から、雨水や凍結防止剤が浸透するためです。さらに九州道の北部(門司IC~みやま柳川IC)では経過年数が長いことや大型車交通量の増加などによる疲労も関係しています。
沖縄では飛来塩分や建設時の内在塩分の影響により床版に損傷がみられます。内在塩分については、建設時が塩分総量規制前であったことや空梅雨であったため、骨材が洗われなかったことによる影響などが出ています。
九州支社管内のトンネルについては、覆工に一部損傷がみられるものの、その数は少なく、健全なトンネルが多い状況です。しかしながら、西九州道の一部で地山の膨張により路面に隆起(盤膨れ)がみられます。具体的に盤膨れが生じているのは、西九州道の天神山トンネル(佐世保市内)[供用:1998年(H10)、工種:NATM、延長:945m]です。天神山トンネルは暫定2車線で運用されているため、現在、佐世保工事事務所で施工している2期線の完成後、工事規制における社会的な影響を最小化してからの対応を考えています。
――現在の天神山トンネルの状況は
河北 ロックボルトを路面に対し、垂直方向に打ちこんで変位の進行を抑制しており、現在はトンネルの変位を観測している状況です。走行上問題が生じている状況にはありません。
天神山トンネルの応急対策状況(NEXCO西日本提供)
健全性Ⅲ以上は190橋
健全性Ⅱ→Ⅲに転移した橋梁は13橋
――橋梁の長寿命化修繕計画にもとづいた対策の進捗状況についてお答えください。また具体的な損傷状況と補修補強内容についても例を挙げていただけましたら幸いです
河北 橋梁等の構造物については、省令に基づき5年ごとに点検を実施し、橋梁ごとに健全性診断を実施しているところであり、現在2巡目の点検を実施しています。健全性診断の結果で「健全性Ⅲ:早期措置段階」と診断された橋梁については、次回点検までに計画的に補修を進めています。
これらの損傷状況については、桁の端部、支承、床版の損傷が目立っていて、損傷原因としては伸縮装置や床版防水工の劣化個所から、雨水や凍結防止剤が浸透するためです。
――橋梁の健全性Ⅲ以上の数量および比率は
河北 九州支社管内の過去5年間での健全性Ⅲ以上は190橋で全体に対して概ね8%となっています。
――省令点検2巡目で健全性Ⅱが健全性Ⅲ以上になった数量および比率は
河北 1巡目で健全性Ⅱだった橋梁が、2巡目に健全性Ⅲ以上になった数量は13橋で概ね2%です。
――具体的な補修補強内容は
河北 水による劣化が大勢を占めるため、まず始めに伸縮装置の取替や床版防水工の施工等により路面からの劣化因子の供給を遮断して、「元を断つ」ことを基本とします。その後、損傷内容に応じて断面修復工、コンクリート表面保護工、支承取替工等の補修を実施しています。
――Ⅱの段階における取組み内容(予防保全)は
河北 点検時に確認した変状に対し、長期の防錆効果が見込める防錆剤等による応急処置を行いつつ、伸縮装置の取替や床版防水工の施工等により雨水等の劣化因子の供給を遮断し、変状の進行抑制に努めています。
支承取替は2橋5支承線
ジョイント取替は60箇所、70箇所で止水材のみの取替も
――支承取り換えや、ジョイントの取り替えおよびノージョイント化について2021年度の施工個所数と2022年度の施工予定箇所数、取替える際の工法・種類をお答え下さい
河北 2021年度においては、支承取替は関門道の和布刈高架橋、九州道の久留米IC付近にある高良川橋の2橋(5支承線)を施工しており、内容は伸縮装置からの漏水により腐食し機能を失った鋼製支承をゴム支承に取替えるものです。
和布刈高架橋の支承取替状況(NEXCO西日本提供)
ジョイント取替については管内で約60箇所取替えており、内容は既設と同形式(MMジョイントおよび製品ジョイント)での取替になっています。また、取替とは別に伸縮装置の機能は満足しているものの、漏水が生じている箇所への漏水対策として止水材のみを補修する工法(REJ工法)も採用しており、管内で約70箇所(上下線別)施工しています。
ノージョイント化について、2021年度に実施した箇所はありません。
REJ工法の施工状況(当サイト既掲載写真)
――2022年度の支承交換及び施工予定箇所と施工予定数を教えてください
河北 2022年度においては、支承取替は長崎バイパスの第二三ツ山橋の1橋(2支承線)の施工を予定しています。
ASR 九州道や長崎道、沖縄道のごく一部で散見
別府橋では下部工だけでなく、上部工の一部でも生じる
――塩害、ASRなどによる劣化の有無。劣化があればどのような形で出ていますか
河北 塩害による劣化・損傷については、伸縮装置や床版防水工の劣化個所から浸透した凍結防止剤が、桁の端部や床版の鉄筋の腐食、支承の鋼材の腐食を生じさせています。
ASRによる劣化・損傷については、九州道や長崎道および沖縄道のごく一部で発生しており、風雨にさらされる橋台・橋脚部などでASRの進行が速くなっています。
――塩害やASRが生じている橋梁はどのような対策を施していますか
河北 塩害につきましては、伸縮装置の取替や床版防水工の施工等により劣化要因の排除を行うとともに、損傷内容に応じた補修を実施しています。
ASR対策としては、長崎道の別府(べふ)橋(3径間連続PC中空床版橋:1987年度施工)等において、発生したひび割れへの注入工や、反応を抑制するためのコンクリート表面保護工を実施しています。表面保護工は処置後の変状の状況が見えるように透明なコンクリート塗装工(タフガードクリヤー工法)を採用しています。他のASRが生じているあるいは、生じる可能性がある橋についても予防保全的にコンクリート保護工を実施していく方針です。
別府橋のひび割れ状況写真(左)と補修完了状況写真(右)(NEXCO西日本提供)
――別府橋はどのような損傷が生じていたのですか
河北 下部工は橋台部に亀甲状のクラックが生じている状況です。ただ、鉄筋破断はありませんでした。上部工では桁端部と張出部で縦断方向にひび割れが生じています。床版防水は約20年前に現在でいうグレードⅠを実施済です(グレードⅡは未実施)。
――ASRが生じている橋梁における路面損傷状況はありますか
河北 現在のところ路面への変状は確認されていません。