凍結防止剤・飛来塩分、富山ではASR
NEXCO中日本金沢支社 北陸道の塩害・ASRへの対応に苦慮
3段以上の法面を対象として大規模修繕を実施
盛土法面の浸透水排除対策を実施
――日本全国で雨の問題でさまざまなところでのり面崩壊や盛土崩壊が起きています。金沢支社管内でも昨年8月4~5日にかけて北陸地方で豪雨があり、敦賀IC~今庄IC間の鹿蒜川橋観測局付近で時間最大雨量88mm、連続雨量(4日5時~5日12時)400.5mmを記録しました。これに伴い北陸道下り線58.35KP付近の山で土石流 が発生し、渓流を流下した土砂が北陸道の路面やトンネルに流入する事象が発生しました。道路に対する斜面や古いのり面、盛土構造などにどのような補修・補強を行って守っていくのかについて、具体的な事例や契約がありましたら、教えてください
柳澤 のり面の要点検箇所のリストがあるので、それに基づいて降雨期前の4、5月に年1回の点検を行っています。また、2018年から区域外の調査を約2年かけて行いました。自己防衛的に、どのようになっているかを調べたもので、損傷部は、国や県、地方 自治体など関係機関に周知しています。
――要対策箇所の具体的な数は
柳澤 金沢支社管内では、3段以上の法面を対象として、小段排水溝、縦排水溝、集水ますの取替、コンクリートシール工などの大規模修繕を実施しているところです。
具体的には内幅300mm未満の排水溝を内幅300mm以上の排水溝に取替えて、維持管理性の向上と 排水断面を確保する作業を実施しています。建設時に設置した幅300mm未満の古いタイプの排水溝では、スコップが入らず掃除もできず、土砂上げも大変な作業となっています。
次に排水溝の取替に合わせて、集水ますを大型化し 、合流部の溢水・跳水対策を実施します。加えて小段にコンクリートシールを施工し、洗堀防止対策を実施します。
取替工事の対象となる法面排水溝は全体で298箇所あり、22年度までに完了したのは65箇所となっています。23年度は101箇所を発注予定ですが、不調・不落が多く、施工前の事前準備工や積算をどのように見直して、受注していただけるようにするか、悩んでいるところです。完了年次は29年度を予定しています。
法面対策状況
一方、今後の計画として、切土法面の長期安定性を確保するために、防食性能が高いグラウンドアンカーの施工、盛土法面の浸透水排除対策を実施する予定です。グラウンドアンカーは金沢管内で1件、福井管内で3件予定しており、22年度までに福井の1件のみ完了している状況です。23年度は残る3件を発注予定で、26年度までの完了を目指しています。
盛土法面浸透水排除対策は、 23年度より随時発注予定です。対象は優先度の高い「盛土3段以上、または、地形条件、変状の進行の有無」で判断していきます。その他、対策が必要となる箇所についても、適宜対応を実施していきます。完了年度は26年度を予定しています。
手取川橋架替でステンレスクラッド鋼『JSL310Mo』を用いる
ステンレス被覆厚は1,500μm、耐摩耗性能は100年以上
――新技術・新製品の活用は
柳澤 手取川橋(547m、PC8径間連続箱桁橋)は手取川河口部に位置し、飛来塩分の影響を強く受けると共に、サンドブラスト状の「飛砂(ひさ)」により、表面が摩耗しやすい環境下にあります。その環境に耐え、長期耐久性を発揮する新材料として、ステンレスクラッド鋼(『JSL310Mo』)を用いた鋼開断面箱桁に取り替えます 。新しく設置する鋼桁は、塩害対策だけでなく、耐摩耗性にも優れています。ステンレス被覆厚は1,500μm=1.5mmという厚さです。また、予め手取川河口部の砂を調査し、冬季の風速なども考慮して、飛砂と同粒径である 6号珪砂を用いたブラスト機による投射実験も行った結果、摩耗は100年間想定で15μm程度という結果となり、試験レベルではありますが、耐摩耗性能は100年以上持つことを確認しました。
新手取川橋
――手取川橋の架替えでは、本設の開断面箱桁と撤去フレームを用いて既設PC箱桁を撤去していますね
柳澤 桁下には絶滅危惧種Ⅱ類に指定されているイソコモリグモ、コアジサシの生息する砂浜があり、重機や車両の進入が制限されていることから、本設桁として使用する新設の開断面箱桁に旧桁用の撤去フレームを設置して 、PC桁を張出し架設とは逆の手順で切断、撤去していく手法を採用しました。そのため鋼橋は、供用時だけでなくPC桁撤去施工時の荷重も考慮した設計となっています。また、対傾構(5mピッチ)や仮設の上横構などを密に配置し、撤去時に鋼桁にかかる荷重を支持しています。
RC床版の上面増厚にUHPFRCを採用
圧縮強度は100N/mm2以上を想定
――床版増厚の薄層化という観点からも新技術を採用する方針ですね
柳澤 薄層でありながら、高耐久な床版構築を目的に、床版増厚の量を最小限に抑えることが出来る高性能繊維補強セメント系複合材料(UHPFRC)を用いた床版増厚工法を現在、福井管内の北陸道(特定更新等)杉崎第1橋床版増厚工事として発注手続き中です。ホロースラブの円筒型枠直上、またPC橋のRC床版の死荷重増を最小限に抑えながら補強できる工法として期待しています。
施工はコンクリート床版上面の劣化部を除去後、鋼繊維を多量に混入したUHPFRCを現場で製造・打設して補強・補修を行うことを予定しています。
――ここで話されているUHPFRCの想定強度はどの程度を念頭に置かれていますか
柳澤 圧縮強度は100N/mm2程度以上と考えています。
トンネル覆工再生工を2025年から着手
敦賀~今庄間は20kmに及ぶ対面通行規制が必要になる箇所も
――敦賀管内ではトンネル覆工再生工についても今後実施していくと聞きました
柳澤 トンネルの特定更新事業において、長期間の通行止めを回避するため、車線規制しながら工事を行う必要があることから、「供用下における矢板工法トンネル覆工再生工に関する手引き(案)」を取りまとめ、2020年1月に公表しました。
この工法を実現するために、「防護工」、「覆工切削」、「再生覆工コンクリート」に関する技術開発を目的として、広く民間企業の技術力に期待した「技術開発・工事一体型調達方式(B型:技術開発・工事分離型)」による「北陸自動車道 覆工再生工に関する技術開発業務」を発注し、21年4月から22年10月までの期間で、技術開発および実証を行いました。
その結果、技術開発内容と実証結果について、契約締結した5社(鴻池組、前田建設工業、西松建設、鉄建建設、飛島建設)全てが要件を満たし、技術開発を完了することができました。今後発注するトンネル覆工再生工事への採用を進めていきます。
トンネル覆工再生工の実験状況
――これは部分的な再生を目指している工法ですか、それともトンネル全体の延長の再生を目指している工法なのでしょうか
柳澤 トンネルの劣化箇所を覆工再生することを目的に技術開発しています。防護工もそのため動けるようにしています。なお、実際の再生工法の適用範囲については、セントル単位で点検結果等を基に判断しています 。
――敦賀~今庄区間は、上下線が非常に離れた「グレート」セパレート区間ですので、トンネルにせよ、橋梁にせよリニューアル事業は非常に長い規制区間が予想されます
柳澤 長い箇所では20kmに及ぶ対面通行規制が必要になる箇所も出てきます。さらに同区間は金沢支社管内の北陸道で一番降雪量が多い区間でもあります。半断面施工や東名阪道弥富高架橋で施工したような取り組みも必要になってくる可能性があります。様々な技術を取り入れ、安全性の確保と交通確保に取組んでいく必要があると考えています。覆工再生工もその1つといえます。
――トンネルの覆工再生工はいつ頃実作業に着手していきますか
柳澤 現在のスケジュールでは、2025年度を予定しています。
東海北陸道4車線化 富山・岐阜県境~五箇山IC間で真木トンネルが貫通
袴腰、城端両トンネルで現場着手
――最後に東海北陸道の4車線化事業(白川郷IC~小矢部砺波JCT)間の進捗状況について教えてください
柳澤 今、一番事業が動いているのは、富山・岐阜県境から五箇山IC付近の2.8km区間です。構造物としては真木トンネル(1,578m)、 北谷橋(50m)があります。真木トンネルは先頃貫通しました。北谷橋は下部工を施工中で、上部工は発注済みです。
――飛騨白川PAから富山 県境に至る10.1kmには飛越大橋(315m)や椿原橋(335m)、椿原トンネル(2,618m)など大きな構造物がたくさんあります。また五箇山IC~城端SA区間は袴腰トンネル(5,912m)と城端トンネル(3,221m)の長大トンネルが予定されていますね。これらの区間はいつ頃着手しますか
柳澤 袴腰トンネルと城端トンネルについては契約が完了し現場着手したばかりです。これから坑口付けを行った後に掘削を始めていくことになります。
飛騨白川PA~五箇山IC 間の構造物は詳細設計中です。トンネルの掘進が終わらないと(トンネルを工事用道路代わりに)橋梁を建設できない区間もあり、また逆に橋梁の上部工まで完了した後は、それを工事用道路代わりにしてトンネルの掘進を行っていく区間もあります。なお、トンネル掘削の片押し、両押しは場所によって異なります。
五箇山橋(Ⅰ期線)/同(Ⅱ期線)の架設場所/同別方角から
椿原橋(Ⅰ期線)
――この区間に特徴的な橋梁はありますか
柳澤 椿原橋は複合トラス、飛越大橋はPC波形鋼板ウエブラーメン箱桁橋を計画しています。
――橋脚高も高そうな地形ですね
柳澤 飛越大橋は橋脚高 が約40mに達します。桁高が9.5m程度となるため、路面高は地上から40~50m程度の高さに達する見込みです。
飛越大橋(Ⅰ期線)
工事用道路を造ることも非常に難しい谷間の地形ですので、施工の難易度は非常に高くなっています。河川内にケーソン基礎を作らねばならない 箇所や工事用道路として長大な仮橋や桟橋を造らなければいけない箇所も出てくる予定です。
――ありがとうございました