凍結防止剤・飛来塩分、富山ではASR
NEXCO中日本金沢支社 北陸道の塩害・ASRへの対応に苦慮
橋梁耐震補強 65 橋で施工予定
特殊橋梁は上下線合わせて5橋で対策を進める
――橋梁の耐震補強の進捗状況は
柳澤 3カ年プログラム対応については完了しています(55年以前の道示適応は完了)。今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の対象はありませんが、それに近いものはあると考えて、優先順位をつけて対応していきます。
――現状の進捗状況は
柳澤 対象となる65橋 のうち38橋で詳細設計に着手している状況です。耐震補強に伴う落橋防止装置の設置予定は、今年度についてはありません。
――トラス、アーチなどの特殊長大橋の耐震補強について教えてください
柳澤 平成6年道示以前が適用されている特殊橋梁は3橋が該当します。北陸道の金沢森本IC~小矢部IC間にある欅谷橋(橋長95m、鋼3径間ローゼ)の上下線と清水谷橋(133m、鋼2径間連続トラス)、同敦賀IC~今庄IC間にある鉢伏川橋の下り線(120m、鋼2径間トラス)です。現在は上り線の欅谷橋と清水谷橋の 2橋について耐震補強設計中で、補強方法を検討しています。
特殊橋梁の耐震補強
清水谷橋(上り線)
欅谷橋(上下線)
健全度Ⅲは約213橋
23年度は30橋を措置予定
――長寿命化修繕計画に基づく対策の進捗状況は
柳澤 平成26年度から点検結果をもとに法令に基づく健全度診断を行っており、早期措置段階(健全性診断Ⅲ)で評価された橋梁は、次回5年後の点検までに措置することで長寿命化を図っています。22年度末までに溝橋を除き、健全度診断Ⅲが213橋で確認されており、23年度に30橋の措置を行う予定です。床版や主桁は主に大規模更新事業の床版取替・打換により対応し、床版端部や下部工は構造物補修工事にて断面修復工などで対応していきます。
具体的な損傷に対する補修補強としては、コンクリート構造物において、剥離などの変状が確認された箇所について、はつり工の施工後、鉄筋ケレン・防錆処理を行い、充填工法および吹付工法により断面修復材による補修を行っています。
鋼構造物においては、塗装塗替えや一部では当て板補修などを行っています。
――橋梁下部工の損傷状況は
柳澤 割合としては、全体の30 %ほどに達します。橋脚、橋台についても被りコンクリートの剥離などの損傷がありますので、はつった上で鉄筋防錆して、断面修復を行っていく方針です。
――塩害やASRによる劣化の有無について教えてください。劣化があれば、どのような形で出ているか(劣化部位やその劣化程度、面積)、またその対策工法についてお答えください
柳澤 ASRは主に富山管内で発生しています。劣化部位としては橋台やボックスカルバートなど、水に接する箇所で顕著に現れています。これまで遮水を目的としたひび割れ注入工やライニングを実施しており、対策による収束傾向をモニタリング中です。
骨材産地 の河川水系ごとにASR膨張が異なるため、骨材産地ごとの潜在膨張率を確認し、潜在膨張率の収束・継続傾向に応じた対策工法を検討中です。
収束傾向の構造物はひび割れ注入、継続傾向の構造物はひび割れ注入+表面被覆などの対策を検討中です。
対策工法を定めた後に、事業計画を策定し計画的に補修を実施していく予定です。
塩害やASRによる損傷状況
――橋台やボックスカルバートなどの土工部と接する 構造物は、いくらコンクリート露出面に表面被覆をしようと、背面からの水の供給により反応は止まりません。そうした箇所に対してはASRリチウム工法などの対策を施すことは考えていませんか
柳澤 そうした箇所があることは理解しています。構造物が置かれた環境特性を踏まえて、既存の対策以上のことが必要な箇所での対応について検討していきます。
――塩害については
柳澤 凍結防止剤の影響などによる塩害が管内全区間で確認されている状況です。また、尼御前SA~金沢西ICまでの海岸近接区間においては、飛来塩分の浸透により鉄筋が膨張し、コンクリートにひび割れ等が発生しています。
変状部のはつり後の塩化物イオンが若干残っているなどの状況を含め、再拡散シミュレーションを行い、必要であれば亜硝酸リチウムを添加した断面修復を実施しています。
なお、手取川橋においては、建設当時から飛来塩分環境下にあり、当時の知見から、断面修復工やライニングによる補修を行ってきましたが、経年による再劣化の状況を踏まえ、現在橋梁の架替えを行っています。
――手取川橋については、橋桁は架替えますが橋脚は残置できました。これは維持管理上の結構大きな成果であると考えます。残置できた理由はどこにあると考えていますか。乾湿繰り返し、飛来塩分、サンドブラストなど悪条件が重なっている中で、補修を施し、さらに一番厳しい箇所にはダクタルボードを設置するなど手を施した結果が奏功していると考えますが
柳澤 橋脚は、一番厳しい暴露環境に位置していることもあり、しっかりと補修しました。
手取川橋下部工の補修状況
的確な補修があったからこそ、今次の架け替えに下部工がそのまま使えたのだ
――同様に塩害などによる地覆、高欄の損傷は
柳澤 最近はこの部位への対策をあまり行っていません。過去には表面被覆を行っています。
――高欄の縁石は除去しているのですか
柳澤 北陸道では縁石が損傷しているところがあります。 縁石を除去し、床版防水をきっちり行っていきます。
――凍結防止使用量はどのくらいでしょうか。名古屋支社管内では、彦根付近で年100t/kmを散布しています。
柳澤 2022年度実績で申しますと、管内平均で年56 t/kmを散布しています。
2023、24年度に46連の床版取替が完了予定
金沢高架橋では交通規制面で厳しさも
――大規模更新、大規模修繕のここ数年の実績と今後の予定について。また、発注の工夫や施工上の対策、新技術・新工法の活用がありましたら
柳澤 床版取替は、2016年度に日野川橋、早月川橋で実施したのを皮切りに22年度までに合計61連を施工完了しました。ちなみに22年度は、富山で2連(和田川橋と常願寺川橋)、金沢で11連(渋江川橋、鴨池橋、金沢高架橋、欅谷橋、清水谷橋、新掘川橋)、福井で8連(九頭竜川橋、北野上高架橋、太田高架橋、金粕川橋、北杣高架橋)を完了しています。
契約済みで23、24年度に施工完了を予定している橋梁連数は全部で46連です。内訳は富山が17連、金沢が17連、福井が10連、敦賀2連です。
大規模更新の過去の施工状況
2023,24の大規模更新予定(橋梁床版)
――技術的に難しい橋梁の筆頭は手取川橋架替えでしょうが、その他に厳しい現場はありますか
柳澤 既設合成桁の床版取替もありますが、事例も増えてきておりそれほど難しいとは考えておりません。
交通 規制的な面で難しいのは金沢高架橋です。両横に国道8号が並走しており、また高架橋内に金沢西、同東の2つのICを抱えております。施工箇所によって(金沢東 IC上り線ONランプの床版取替時など)はICの一時閉鎖を伴う規制が必要になる可能性があります。また、床版取替には大型クレーンが必要になりますが、国道と極めて近接した作業となるため、安全面での配慮も必要となります。
床版取替事例①(左2枚)九頭竜川橋、(右2枚)庄田高架橋
床版取替事例②(足羽川橋)
床版取替事例③(左2枚)森本~小矢部間、(右2枚)加賀~片山津間
床版取替事例④(左、中)富山~立山間、(右)金沢高架橋
昼夜連続作業を昼間施工に改める 週休2日制を全面展開
手取川橋の架替えに設計・施工一括発注方式 を採用
――大規模更新は金沢支社だけでなく、他の支社、NEXCO各社、最近では阪神高速や首都高速などでも進んでおり、事業量は増加を続けています。そうした状況下でどのようにスムーズな発注をしていこうと考えておられますか
柳澤 スムーズな事業進捗を図るべく、リニューアルプロジェクトの工事で基本契約方式を導入しています。高速道路リニューアルプロジェクトでは施工条件が同じような橋梁床版の取替工事が繰り返し行われます。このような場合、先行して実施した工事で得られた技術的な知見やノウハウを後続する工事へ反映させることにより、安全性や品質を向上させ、確実な事業進捗を図ることが期待できます。
床版取替事例⑤ 清水谷橋
床版取替事例⑥ 富山管内 端部の難しい斜角への対応やPC合成桁のRC床版部の取替も行っている
また、床版取替工事を発注する場合、対面通行規制に必要な中央分離開口部や擦り付け舗装などの事前作業は 嫌気される傾向にあります。このため管内の舗装修繕工事と合わせた方が合理的であることから事前作業は分離発注しています。
同様に規制作業もリニューアル工事から分離し、関連舗装工事や維持修繕工事で規制を実施しています。
また、作業員の確保の観点から昼夜連続工事であったのを改め、 作業時間を8~20時の昼間作業に変更しました。
加えて、働き方改革の一環として週休2日制を全面展開しています。
――手取川橋架替え工事では設計・施工一括発注方式 も採用していますね
柳澤 そうです。PC橋の鉄筋やPC鋼材の腐食に対する腐食要因の除去や再劣化対策が確立されておらず、既設橋の架替え工事の標準的な工法が確立されていない状況であり、手取川橋の架替えにおいては、設計・施工一括発注方式(デザインビルド) を採用しました。
手取川橋損傷状況
縦締めPC構造、壁高欄・床版の一体プレキャスト化
規制材も様々に工夫 みちラジで規制情報を適宜提供
――金沢支社管内の大規模更新・大規模修繕事業における技術的対策についても教えてください
柳澤 プレキャスト床版の連続化にPCケーブルを採用することで、床版継目部の間詰め作業を低減すると共に、耐久性の向上を目指した工法を一部の橋梁で採用しています。
縦締めPCケーブルの採用
また、継ぎ目部を少なくすることによる作業性軽減と耐久性向上を目的として、床版・壁高欄一体型のプレキャストPC床版の製作および架設を積極的に採用しています。
床版・壁高欄一体型のプレキャストPC床版
車線規制時におけるお客さまと作業員の安全性確保 にも配慮しています。
規制材の昼夜における視認性向上策として、高輝度大型矢印板、高輝度ラバーコーン、i光太郎・花子、連動式(同時点滅式)の自発光式視線誘導標の採用、中央分離帯(仮設防護柵)への矢印板設置などを行っています。さらに規制の注意喚起強化策として、薄層舗装、導流レーンマークの設置、3km手前からの工事規制表示、渡り線部手前の注意喚起強化(走行注意表示)、みちラジの活用による規制情報の適宜提供を行っています。
規制状況
お客さま側の有事の安全対策として、非常駐車帯で の♯9910案内を行っています。
ジョイント交換は148車線・74箇所で実施
23年度は15支承線の支承を取替予定
――支承取替について
柳澤 2023年度は、15支承線の支承取替を予定しています。いずれも鋼製の支承板支承を同様の支承に取替える予定です。
――ジョイント交換は
柳澤 2023年度は148車線・74箇所の取替を予定しています。タイプは基本的に同じものに取り替える予定です。内訳はRC連結ジョイントが68車線・34箇所、フィンガージョイントが12車線・6箇所、製品ジョイントが68車線・34箇所です。
ジョイントの取替状況
――ジョイントは当然止水性を有する製品に交換すると思いますが、止水部が劣化したときにも直ちにジョイント下の桁や橋脚、橋台の天端部に水がかからないように、下に排水枡や排水構造をフェールセーフで仕込ませる構造を、中央道の調布のあたりや東名道で行っています。北陸道では、とくに凍結防止剤による損傷が発生しているとのことでしたので、取替時に水がかからないようなフェールセーフを行っていきますか
柳澤 止水性を有するジョイントの採用を行っており、さらにバックアップの樋を伸縮装置の下に入れて下部工や支承に漏水が掛からないようにする構造も検討しています。さらに床版取替時は延長床版を採用することで、伸縮装置を土工側に置き橋台部の損傷を招かないように配慮しています。
鋼橋塗替 2023年度は8橋約37,000㎡で予定
22年度は8橋約57,000㎡で実施
――鋼橋の塗替え実績は
柳澤 2023年度は8橋約37,000㎡(うちリニューアル工事で約31,000㎡)で施工する予定です。22年度は8橋約57,000㎡(同52,000㎡)で実施しました(下記詳細表)。
――どのような塗替え方法を採用しますか。また素地調整は1種ケレンですかそれとも3種ケレンですか
柳澤 素地調整はブラスト(1種ケレン)を採用します。
――既設塗膜に PCBや鉛の含有はありますか
柳澤 含まれているケースもあります。
――既存塗膜の処理方法は
柳澤 PCBを含有する既存塗膜については、労働安全衛生法等関係法令に従い、塗膜剥離剤を使用した剥離作業を実施しています。
鉛を含有した既存塗膜については、鉛中毒予防規則等関係法令に従って、塗膜除去工を実施しています。
――NEXCO中日本管内では湿潤化施工もあれば、循環式ブラストも行っています。今後はどのように考えていますか
柳澤 湿潤化ではなくブラストを提案してくる受注者もいますので、現場状況や作業員の安全も含めて協議しながら、現場に合った施工工法を採用していきます。
――塗替え時の熱中症対策をどのように考えておられますか
柳澤 塗膜剥離剤施工時は、送気マスクを着けて、さらにタイベックを着用するなど過酷な現場です。今後の地球温暖化の加速や気象の激甚化を考えると、夏の施工はある程度限定しなくてはいけないと考えています。ただ、金沢支社管内はどうしても冬季施工休止期間をとらなくてはいけない箇所もあるため、完全な夏季施工休止はできない状況です。