道路構造物ジャーナルNET

凍結防止剤・飛来塩分、富山ではASR

NEXCO中日本金沢支社 北陸道の塩害・ASRへの対応に苦慮

中日本高速道路株式会社
金沢支社
高速道路事業部長

柳澤 敏彦

公開日:2023.11.08

 中日本高速道路金沢支社が管理する高速道路、とりわけ北陸自動車道は、北陸ならではの厳しい環境にさらされている。海岸縁を走る区間は冬季を中心に厳しい飛来塩分にさらされ、その他の区間 は凍結防止剤に含まれる塩分に起因した塩害の影響を受ける。また、富山管内においては骨材起因によるASRが発生し、今なお劣化が進む コンクリート構造物も有している。そうした話題を中心に、大規模更新・大規模修繕、耐震補強なども含め柳澤敏彦高速道路 事業部長に聞いた。(井手迫瑞樹)

橋梁595橋、トンネル61チューブを管理
 延長比は鋼橋が4割超える

――管内の道路管理延長と橋梁とトンネルの内訳は
 柳澤部長 中日本高速道路金沢支社は、北陸自動車道(以下、北陸道という) の木之本IC~朝日IC間258.7kmと、舞鶴若狭自動車道(以降、「舞鶴若狭道」)の小浜IC~敦賀JCT間39.0km、東海北陸自動車道(以降、「東海北陸道」)の白川郷IC~小矢部砺波JCT間42.6kmの計340.3kmを管理しています。
 3路線あわせた構造物の管理延長は約150km(管理延長の27%)あります。構造物の内訳は橋梁が595橋、トンネルが61チューブ となっています。橋梁・トンネルの数は北陸道が490橋約66km、38チューブ約32km、東海北陸道が57橋約9.4km、8チューブ約19km、舞鶴若狭道が48橋約7.3km、15チューブ約16.4kmとなっています。

構造物数及び延長(NEXCO中日本金沢支社提供、以下注釈なきは同)

 ――橋梁延長別の橋種別割合は
 柳澤 鋼橋43%、RC橋33%、PC橋23%、PRC橋1%です。建設年度が古い北陸道では、RC橋が若干多く、鋼橋は他路線と比べて少なくなっています。


 ――トンネルの延長比における工種別割合は
 柳澤 在来矢板工法が約47%、NATM工法が約52%、開削工法が約1%です。


 ――橋梁の供用年次別割合は
 柳澤 橋梁の供用年次割合は、51年以上が2%、41年以上~50年以下が65%となっており、これらは北陸道の橋梁です。31年以上40年未満が17%、21年以上30年未満が7%となっており、これらは東海北陸道です。また、10年未満が9%となっていますが、これは舞鶴若狭道及び東海北陸道の4車線化区間です 。

橋梁(左)およびトンネル(右)の供用年次別割合

 ――経過年別、工種別のトンネル延長比較は
 柳澤 41年以上50年以下が47%、31年以上40年未満が1%、21年以上30年以下が28%、10年以下が24%となっています。41年以上は全て北陸道のトンネルで全て矢板工法です。また、31年以上~40年以下のトンネルは開削工法 ですが、これは北陸道の湯之上トンネルの上下線です。10年以下のトンネルは舞鶴若狭道でこれは全て NATM工法です。

最長は金沢高架橋、単独橋で最長は敦賀衣掛大橋
 橋梁の橋種別変状割合は、鋼橋が約4割、PC橋およびRC橋が3割

 ――橋長別の橋梁数は
 柳澤 100m未満が383橋、100m以上200m未満が119橋、200m以上300m未満が46橋、300m以上400m未満が14橋、400m以上500m未満が12橋、500m以上600m未満が11橋、600m以上700m未満が1橋、700m以上800m未満が4橋、800m以上900m未満が3橋、 8,500m以上8,600m未満が2橋です。 最後の2橋は金沢高架橋の上下線です。単独橋梁での金沢支社管内最長は敦賀衣掛大橋で橋長560mのPC5径間連続波形鋼板ウェブ箱桁ラーメン橋です。

橋長別橋梁数及びトンネル延長別チューブ数


支社管内最大の橋長である敦賀衣掛大橋

 ――トンネル延長別のチューブ数は
 柳澤 500m以下が26チューブ、500 m以上1,000m未満が8チューブ、1,000m以上1500m未満が11チューブ、1,500m以上2,000m未満が6チューブ、2,000m以上2,500m未満が2チューブ、2,500m以上3,000m未満が5チューブ、3,000m以上3,500m未満が2チューブ、5,500m以上6,000m未満が1チューブです。最長は東海北陸道の袴腰トンネルで5,932mです。次いで北陸道の敦賀 トンネル(上り線)が3,225mとなっています。

 ――路線別の橋梁連数は
 柳澤 北陸道では鋼橋149連、RC橋286連、PC橋236連と大多数を占めています。次いで東海北陸道が、鋼橋26連、RC13連、PC25連、PRC5連となっています。舞鶴若狭道は鋼橋39連、RC1連、PC4連、PRC6連です。

路線別橋梁数およびトンネルチューブ数

 ――路線別のトンネル数は
 柳澤 北陸道では、矢板工法36チューブ、開削工法 2チューブ、舞鶴若狭道ではNATM工法15チューブ、東海北陸道ではNATM工法8チューブです。

 ――構造物の管理状況について、点検を進めてみての管内各路線の劣化状況について詳しくお答えください
 柳澤 管内全体としては、橋梁が約4割、トンネルが約3割の変状数の大半を占めています。このうち、北陸道では橋梁が4割、次いでトンネルが約3割、東海北陸道と舞鶴若狭道では、トンネルが約5~6割と多くなっています。

全体変状および路線別変状

 ――橋梁についてもう少し詳しく教えてください
 柳澤 橋梁の橋種別変状割合は、鋼橋が約4割、PC橋およびRC橋が3割を占めており、橋種問わず桁や床版において多くの変状が発生しています。

橋梁の橋種別変状割合

鋼橋桁端部の損傷は殆どが鋼材腐食
 PC鋼材の腐食などの損傷はある

 ――桁部から橋種ごとの損傷状況を教えてください
 柳澤 鋼橋の桁部の変状のほとんどが鋼材腐食によるものです。その要因としては、伸縮装置や排水管からの漏水(桁端部など)や中央分離帯側の桁においては、反対車線からの凍結防止剤(塩化物イオン)を含んだ雨水などが掛かることで鋼材の腐食が進行していきます。
 RC橋の桁部では変状のほとんどがコンクリートの浮き・剥離、ひび割れ、鉄筋腐食によるものです。その要因としては、伸縮装置からの凍結防止剤を含んだ漏水など により、桁端部の変状が進行しています。


RC橋桁端部の損傷

 PC橋の桁部では、浮き・剥離、ひび割れ、エフロレッセンスが多く発生しています。その要因としては、伸縮装置からの漏水によるものです。いずれにしても、維持修繕業務にて、苦労しながら、補修対応をしています。


北陸道のPC桁の損傷事例(井手迫瑞樹撮影)

 ――PC桁でひび割れが生じているのが気になります。PC桁はひび割れを基本的に許容しない構造ですから、比較的シリアスな損傷といえると思います。手取川橋の状況まで行くと架替えも止む無しと考えますが、手取川橋以外でもPC鋼材の腐食などまで至る損傷が起きている橋梁はありますか
 柳澤 リニューアルプロジェクトの『新たな知見』でもグラウト充填不足による損傷が例挙されていますが、金沢支社管内にもグラウト充填不足のPC鋼材に塩害が加わることによる腐食などの損傷はあると考えています。横締め、縦締め両方であります。NEXCO中日本では 、リスクを4段階に分けており、事前調査の中で優先順位を定めて、計画的に施工していく予定です。なお、広帯域超音波法で非破壊検査を行う場合は検査会社(エッチアンドビーシステム)も限られ 、全国で取り合いになっていますので、その辺も踏まえて、適切な時期に適切な対応が取れるように考えています。

 ――床版部は
 柳澤 鋼橋のRC床版部では、エフロレッセンス、スケーリング、剥離、ひび割れが多く発生しています。その要因としては、凍結防止剤を含んだ路面排水 が床版上面より浸透し、塩害の影響で床版下面まで劣化が進行し、このような箇所では路面にポットホールが発生している状況です。


床版部の土砂化

床版部の浮き

 鋼橋、RC橋、PC橋の張出床版部では、地覆と床版の際から凍結防止剤を含んだ水が浸透し、床版張出部の水切り部などで塩害(鉄筋腐食)によるコンクリートの浮き・剥離が多く発生しています。
 また、一部の橋梁では舗装面に排水のための溝を切っている箇所もあり、そうした箇所は劣化しやすい傾向にあります。
こうした箇所については大規模更新事業 による床版取替や床版上面の断面修復、高機能 床版防水工の設置(GⅡないしBLG)などに取り組んでいます。


舞若道の舗装損傷事例(GⅡで施工したが基層のSMAと防水層の接着が不安定なため早期劣化を招いた)

BLG(上3枚)およびGⅡ(下3枚)による再防水および舗装打替え、GⅡの基層は現行のFB13としている
(井手迫瑞樹撮影)

 ――管内における高機能床版防水の設置率(GⅡないしBLG)と今年度の特定更新も含めた床版防水設置面積を教えてください
 柳澤 ※後述

 ――疲労による損傷などはありませんか
 柳澤 北陸道は平均交通量が30,000台弱/日なので疲労による影響は顕著ではありません。なお、管内で交通量 が多い区間は美川IC~白山IC間や金沢森本IC~小矢部IC間で、約34,000台/日 です。

 ――大型車混入率は
 柳澤 約28%です。

背面空洞の注入は順次進めていく
 排水樋 氷柱や漏水対策でどうしても必要

 ――トンネルについては
 柳澤 北陸道の矢板工法で施工したトンネルで漏水に起因する変状(剥離、浮き、エフロレッセンス)が多く発生しています。このような箇所には排水樋を巡り這わせています。そうした樋内にエフロレッセンスが蓄積されて排水機能が低下している箇所も多く存在しています。
 内装板は、供用環境が厳しく凍結防止剤も散布すること、排ガスなどによる汚れや胴縁の腐食が多くあり、経年劣化によりタイルがはがれている箇所も多くあります。点検や維持修繕業務では、これらの箇所に留意して対応をしています。


トンネル損傷状況

 ――エフロレッセンスがそれほどあるという事は、背面空洞などが疑われる箇所はありませんか
 柳澤 あります。後でお話しする覆工再生工を行うためにも背面の空洞を埋める注入工を必要な箇所に施工しています 。

 ――排水樋は維持管理面において点検が煩雑になるデメリットを指摘する方もいます
 柳澤 その通りなのですが、雨が降る時期や雪氷期の氷柱対策としては必要です。トンネルの漏水は、降雨後数日たってから出ることが多く、「晴れてい るのになぜ、トンネル内から水滴が落ちているんだ」という意見をお客さま から頂くこともあります。また冬季の氷柱は、かなりの大きさになり、その除去のために渋滞を招いていることもあります。その抑止のためにはどうしても必要なのです。


氷柱の除去作業

 ――樋の交換はどのように行っていますか
 柳澤 従来の排水樋はグレーのものを用いており、樋内にエフロレッセンスが溜まっていても、確認できません。交換する際は透明な樋の採用も行っています。

 ――はがれた内装板の対策はどのように行っていますか
 柳澤 剥がした後は特に対策を行っていません。というのも、新たに浮かし貼りで内装板を施工しても何年か後にアンカーが劣化して剥がれ落ちてしまう可能性があります。また、他のNEXCO会社 では塗装工で対応しているところもありますが、当管内は水の問題があることから、塗っても直ぐに劣化してしまいますし、壁面清掃に際して塗膜耐久性があるものではないので、現時点では採用には至っておりません。

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