道路構造物ジャーナルNET

チーム敦賀で一体となって効率的に道路を維持管理

NEXCO中日本敦賀 長大トンネルの抜本的対策に覆工再生工

中日本高速道路株式会社
金沢支社
敦賀保全・サービスセンター
所長

谷口 寧

公開日:2023.07.31

伸縮装置の取替も進める 2022年度は28箇所320mを発注
 55箇所はリニューアル工事と併せて実施予定

 ――経年劣化の抑制対策としては
 谷口 鋼橋のリニューアル工事と併せて重防食塗装を行っています。
また、桁端部の漏水による損傷対策は、損傷した伸縮装置の取替など漏水対策を基本に、雪氷期間終了後に桁端部の水洗い(散水車による洗浄)により塩分を落とすなどしています。


伸縮装置の止水性能の喪失に起因した桁端部の劣化状況


桁端部の洗浄作業

 ――止水性能の落ちた伸縮装置は装置全体を取り替えるのではなく、止水性のみを回復させる技術もあるが、そうした技術は使いませんか
 谷口 現状は点検で損傷が報告された伸縮装置を遊間に見合った二重止水機能を有する鋼製製品ジョイントに交換しています。供用してから40年を経過するのに交換していないところも結構あります。

 ――40年を超えて1回も交換していない箇所もあるのですか。ある意味それでも持っているというのはすごいですね
 谷口 管内の北陸道は100mを超えるような橋は少なく、遊間があまり大きくないというのも長持ちしている理由だと思います。

 一方、今あるジョイントを生かして止水するにも、狭すぎて補修が困難なため、基本は取替になります。2022年度に発注したものだけでも28箇所(320m)になります。取替が必要な残り67箇所のうち55箇所は床版取替・打換と併せて交換する予定です。


伸縮装置取替状況

大規模更新 1橋で床版取替、2橋で床版打換を発注
 トンネル 覆工再生工を多くのトンネルで実施予定

 ――大規模更新・修繕事業の実施状況と予定について橋梁から教えて下さい
 谷口 橋梁の実績はありません。今後はまず、木之本IC~敦賀IC間床版取替工事(その1)で、笙の川橋上り線P2~A2間で床版取替、余呉川第2橋上り線A1~A2間および寛気谷橋の上り線A1~A2間で床版打換を行います。続いて、鹿蒜川橋他1橋床版取替工事を発注する予定です。

 ――トンネルは
 谷口 背面空洞注入は対象となる16チューブ全てで完了しています。
 覆工再生工は、今後の変状の進行や代替工法にもよりますが、現時点では13チューブを予定しています。
 北陸道は、上下線が別線の区間はもとより、トンネルと橋梁が近接する山間部で道路線形は厳しく、リニューアルのための交通規制の自由度が高くありません。トンネルと橋梁の工事を交通規制の形態や区間に合わせて発注し、安全に事業を進めたいと考えています。
 ――土構造物は
 谷口 切土法面排水溝の取替は老朽化した内幅240mmの排水溝を内幅300mmに取替え、集水ますや縦排水溝などでの跳水や溢水の対策も行っています。対象81箇所のうち、25箇所は実施済みです。
 今後は3段以上を有する高盛土の法尻の横方向への水抜き穴(砕石たて排水工、排水パイプ工、導水ボーリング工)などにも取り組む考えです。これは盛土部の外の地山から水が浸透して損傷が進むことによる崩落を防止するためです。


切土部法面施工例


排水施設取替予定法面

「新たな知見」 PC鋼材の変状が疑われる橋は1箇所
 RCホロースラブ対策は検討中

 ――いわゆる「新たな知見」については
 谷口 PC橋12橋のうち7橋がX線透過法による調査を終えた段階ですが、3橋でグラウトの充填不足、1橋でPC鋼材の変状が疑われる結果です。PC鋼材の変状については、広帯域超音波法を用いた詳細調査等により対策を検討していきます。
 また、RCホロースラブの床版のひび割れについては対策を検討中です。
 舗装路盤部の疲労破壊に関しては、今のところ下層路盤に変状は見受けられませんが、引き続き調査を進めていきます。

 ――塩害、アルカリ骨材反応などによる劣化の有無。劣化があればどのような形で出ているか(劣化部位やその劣化程度、面積)、またその対策工法などを具体的な橋梁などを挙げてお答えください
 谷口 ASRによる損傷は該当ありません。
 塩害はコンクリート構造物でも橋梁の桁端部で生じています。塩分量調査、拡散シミュレーションを実施し、必要に応じて亜硝酸リチウム入りポリマーセメントモルタルを使って補修しています。
 床版張り出し部など水かかりが多い箇所や桁端部の伸縮装置からの漏水が懸念される箇所には表面保護工を採用し、予防保全を図っています。


表面保護工の施工例

 ――鋼橋の塗替えについて昨年の実績及び今年度の予定は。また既設塗膜除去の施工方法、耐候性鋼材を使用した橋梁の有無とその状況について
 谷口 鋼橋の塗替えは昨年度、今年度ともにありません。
 管内ではPCBを有する既設塗膜はありませんが、鉛分を含む既設塗膜があり、適切に対応しながら塗替えを実施します。塗膜除去方法は、塗膜剥離剤を使用して湿潤化した後に剥離する手法になります。
 耐候性鋼材を使用した鋼橋は、管内にはありません。

昨年8月に集中豪雨で敦賀~今庄間に大規模な土砂流入
 20日かけて応急復旧

 ――全国的に異常気象などによる土砂災害が相次いでいますが、NEXCOでも道路に面する斜面や、古い法面、盛土構造などをどのように補強・補修して道路を守っていくのか具体的な事例や計画などがございましたら教えてください
 谷口 昨年8月4~5日にかけて北陸地方で豪雨があり、敦賀IC~今庄IC間の鹿蒜川橋観測局付近で時間最大雨量88mm、連続雨量(4日5時~5日12時)400.5mmを記録しました。これに伴い北陸道下り線58.35KP付近の山で斜面崩落が発生し、渓流を流下した土砂が北陸道の路面やトンネルに流入する事象が発生しました。
 上り線は、土砂の撤去、大型土嚢や土留め工・横矢板による土砂流入防護壁の設置を行い、8月10日に応急復旧を完了しました。下り線は、土砂流入量が約2万㎥(大型ダンプトラック4千台)あり、さらに沢の上流には不安定土砂が3千㎥ほど見込まれる状況でした。


被災状況①(下り58.35KP)

敦賀IC~今庄ICの被災状況/被災状況②(上り49.70KP)


降雨状況/流入土砂量は約2万㎥に及んだ

被災後の交通規制状況

 ――どのように応急復旧を行ったのですか
 谷口 上流側に大型土嚢を並べ、走行車線の土砂の撤去、渓流へのセンサーの設置、仮排水溝を設けるなど行った後、追越し車線の土砂を撤去し、土留め工・横矢板による土砂流入防護壁を設置しました。さらに追越し車線に大型土嚢を置いて防護壁を補強し、走行車線の通行を再開しました。

――土砂の中には大きな転石も含まれるのが常ですが、どのように撤去したのですか
 谷口 転石の量は大量で、大きいものは直径4mにもなりました。こうした巨岩は、放電破砕工法により小割した後、排除しました。
 ――その後の復旧はどのように行ったのですか
 谷口 土砂で埋まっていたカルバートボックスの内部の土砂を撤去し、再び土石流を流せる状態にしました。その下流には、上り線への土砂流入を防止するための仮設導流工を設けました。その後、防護壁の上流側に透過型防護柵を設けて土石流の衝撃を受け持つ構造とし、高速道路上に残る大型土嚢を撤去して、追越し車線の通行を再開しました。

 8月6日に復旧作業を開始し、1車線での通行再開が8月27日、2車線の通行を確保したのは11月22日でした。


下り58.35KPの応急復旧ステップ図(1車線運用まで)


下り58.35KPの被災状況

下り58.35KPの応急復旧(1車線運用)/下り58.35KPの応急復旧(2車線運用)

 上り線や他の被災箇所の応急復旧も含め、発災直後から建設会社など多数の強力なご支援を頂き、早期の交通確保ができました。ほんとうにありがたく思います。
 現在実施中の本復旧工事完了までは、カメラによる監視や通行止め降雨基準の引き下げなどにより、早期に通行止めができる体制を継続し、お客様の安全確保に努めます。


本復旧施工状況

 ――こうした状況も踏まえて今後の区域外も含めた土石流対策はどのように行っていきますか
 谷口 当社の「土石流対策の手引き」に従って渓流調査を5~10年程度の間隔で実施します。2018~20年の土石流渓流調査では、優先すべき渓流カテゴリーを定め、対策優先渓流を選定して防災カルテを作りました。防災カルテにある渓流は、年1回以上の定期点検を実施しています。また、道路防災点検は渓流面積1ha以上が対象ですが、手引きに従い1ha未満でも土石流発生の恐れがあれば、点検を行っています。
 なお、重要インフラ緊急点検の結果、要対策箇所が舞若道に2箇所ありましたが、大型土嚢などよる応急対策を済ませており、今後、エネルギー吸収型防護柵を設ける予定です。
 ――ありがとうございました

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