チーム敦賀で一体となって効率的に道路を維持管理
NEXCO中日本敦賀 長大トンネルの抜本的対策に覆工再生工
橋梁 健全度Ⅲは26橋 損傷部位は桁端部、RC床版など
1日8,000台の大型車が通行
――点検を進めてみて、管内の構造物の状態は
谷口 2021年度迄の点検結果によると、橋梁は健全性の診断の判定区分Ⅲが26橋です。橋種別内訳は鋼橋が13橋、PC橋が8橋、RC橋が5橋で、損傷部位は桁が5橋、床版が6橋、橋脚が11橋、橋台が20橋になります。
鋼橋では散布された凍結防止剤の影響から桁端部やRC床版の劣化が生じています。北陸道では疲労による床版の損傷も見られます。RC橋は伸縮装置からの漏水により桁端部の劣化が生じており、PC橋も伸縮装置からの漏水によってひび割れ等が発生しています。
塩水に起因した桁端部の損傷状況
塩水に起因した鋼桁RC床版の損傷状況
――北陸道の床版の損傷要因として疲労を挙げていましたが、どれくらいの大型車が走っているのでしょうか
谷口 区間によっては1日8000台以上の大型車が通行しています。
RC床版の疲労損傷
トンネル 健全度Ⅲはなし 内装工、覆工コンクリートに変状
毎朝通勤混雑時に氷柱落としが必要なほどの漏水
――同様にトンネルは
谷口 判定区分Ⅲはありません。
損傷傾向としては、内装工、覆工コンクリートに変状が生じています。内装工については、取付金具の腐食が顕著で、漏水・凍結防止剤など環境に起因するものと考えられます。
トンネル損傷状況 覆工コンクリートのひび割れ、漏水、内装工の取付金具の腐食など損傷要因は多岐にわたる
覆工の変状は主にひび割れや漏水であり、経年劣化に起因するものと考えられますが、北陸道のトンネルは全て矢板工法のため、防水シートが施工されていないことの影響も大きいでしょう。気を付けて見ていただければ、北陸道のトンネルの覆工には漏水対策で設置した樋が無数にあることが分かります。
冬季にはトンネル内の漏水から1m近い氷柱ができるため、ほぼ毎朝、交通規制(先頭固定規制)を行って、人が氷柱を落とす作業を行っています。氷柱が成長し終わり、溶け始めて落下する前の温度条件が朝の通勤時間帯と重なるため、多くのお客様にご迷惑をおかけすることになります。
氷柱落とし作業
――トンネルに生じているひび割れは目地方向のひび割れだけですか、道路軸方向の鉛直土圧によって生じているシリアスな損傷はありませんか
谷口 管内には現在そのようなひび割れはありません。しかし、覆工コンクリートも老朽化しており、耐力低下は否めません。そこで背面空洞注入により地山と覆工コンクリートを一体化させ、土圧に対してもアーチアクション効果が期待できるようにする補修工事を数年かけて実施してきました。
――背面空洞に使っている充填材はどのようなものですか
谷口 NEXCOではウレタン系とモルタル系に充填材に分別されます。ウレタン系は材料費が高く、比較的小規模な空洞に用いられます。管内の背面空洞の体積は比較的大規模なものが多く、モルタル系の充填材を使っています。
背面注入作業
――比較的大規模なものが多いということですが、充填確認方法はどのような手法を採っていますか
谷口 NEXCOの要領に基づき、注入時の圧力管理と隣接する漏出孔からのモルタル漏出状況により充填を確認しています。
――上半と下半の矢板の継ぎ目箇所の状態については
谷口 心配するような変状はありませんが、同箇所の漏水から変状が生じることはあります。点検などの際に浮いているコンクリートを落とすようにしています。
覆工再生工を技術開発
ロックボルトで補強し、部分的に覆工コンクリートを削る
――その後の補修はどのように行うのですか
谷口 管内では矢板工法のトンネル覆工の抜本的な補修には着手できておらず、現状は覆工に樋を設け、必要な箇所には剥落防止工を施しています。
一方で覆工コンクリートの抜本的補修工法として覆工再生工の技術開発を進めてきました。金沢支社で覆工再生工の手引きを作り、昨年10月まで建設会社5社(株式会社鴻池組、前田建設工業株式会社、西松建設株式会社、鉄建建設株式会社、飛島建設株式会社)と共に技術開発を行いました。
覆工再生工イメージ図(飛島建設)
5社と共同開発
――覆工再生工とはどのようなものですか
谷口 まず、既存の覆工補修工法ですが、覆工に繊維シートを貼り付けて補強する方法や強制的にエポキシ系材料を注入してひび割れを止水する方法があります。繊維シートは背面からの水の影響で接着面の付着が低下する可能性があります。また、止水も顕在化した漏水箇所を止めても別のところから新たに漏水することがあります。
他に覆工への内巻工もありますが、トンネル内空が狭くなり、建築限界が確保できない場合があります。
そこでこれらの課題を踏まえた覆工再生工の開発に着手しました。
覆工再生工断面イメージ図/覆工再生工断面図例
まずは既存の覆工にNATMのパターンボルトと同じピッチでロックボルトを打って補強します。このとき、覆工に少し座掘りをしてロックボルトを覆工内に固定します。
次に覆工コンクリートを削ります。矢板工法の覆工厚は550~700mmですので、建築限界に合わせ最大で200mmほどを切削します。
切削試験状況
切削した後はNATMと同じように全面に防水シートを貼り、現場打の覆工再生コンクリート(中流動タイプ)を200mm厚で打設します。
覆工再生工の対象範囲は覆工アーチ、側壁部です。また、適用条件として、覆工背面が地山と密実になっていることが必要です。
さらに技術開発にあたっては、2車線トンネルの中央に1車線の走行空間を確保しながら切削以降の施工ができる防護工の開発も行っています。
防護工設置イメージ
削った後は防水シートを貼りつけ、さらに覆工再生コンクリートを打設
長距離圧送を前提としたコンクリートを開発
――NATMでいう2次覆工的なものを覆工再生コンクリートとして打設するという考え方ですね
谷口 その通りです。矢板工法のトンネルをNATM化するイメージです。200mmの厚さは二次覆工としては薄いと思われるでしょうが、コンクリート強度は36N/mm2あり、剥落防止のため合成短繊維を混入します。
――これはどうやって打設するんですか
谷口 既存の切削機械、防水シートの設置機械や覆工型枠を流用し、防護工と既設覆工の間で施工できるようなっています。覆工コンクリートの打設には、坑口からトンネル内の現場まで長距離圧送する必要があり、これに問題がないことを確認しています。
――どのようなコンクリートの性状になりますか
谷口 最終的に筒先では中流動ですが、圧送する前は高流動の状態です。実験した一例ではスランプは70cm程度、圧送後の筒先では50cmほどです。
――すごい距離、すごい性状ですね
谷口 生コン車で搬入できないため、どうしても圧送距離は長くなります。
――配管方法も難しいですね
谷口 通常の圧送と違い、超高圧で送らなくてはいけないため、特殊な圧力管を使って実物大模擬トンネルの覆工コンクリート打設を850mの圧送距離で実験しました。
実物大模擬トンネルの覆工コンクリート打設を850mの圧送距離で実験
打設試験状況
――これは対象となるトンネル全体を覆工再生するために開発しているのですか
谷口 全体でも施工できますが、実際は部分的な補修が現実的と考えています。
防護工は1スパン10mを5つ程度並べる形
衝突実験など安全も確認済み
――走行車両から施工する人員を守るトンネル状の防護工はどれくらいの長さですか
谷口 1スパン10mが5スパン程度つながるイメージです。走行車線もしくは追越し車線から防護工の真ん中の中央車線に車両を誘導するため、施工するトンネル内や前後の明かり部も1車線に交通規制することになると思います。
――しかし、漏水・損傷している覆工箇所を再生しても防水・覆工による緻密化で逃げ場を失った水はその前後に逃げてしまい、そうした箇所が新たな損傷を被ってしまうのではないですか
谷口 必要に応じて導水樋を設置しますが、前後の覆工コンクリートにすぐに大きな影響を与えることはないと考えています。本来はトンネル全体で覆工再生工をやれればいいのですが、コストや長期の交通規制による交通への影響も考えなければなりません。
管内以外にも矢板工法のトンネルはたくさんありますので、覆工再生工が広く採用されれば、コストも下がり、より大規模な補修が可能になるのではないかと期待しています。
――この工法は1車線を確保しての相互通行規制も可能ですから一般道でも使えそうですね。在来矢板工法は国交省や自治体管理道路でも数多く残っていますからその対策工法としても使えそうです
谷口 そう思います。
――敦賀管内で、具体的に覆工再生工を用いることを考えているトンネルは
谷口 北陸道のトンネルの半数ほどが対象となりますが、まずは木之本IC~敦賀IC間の曽々木トンネル(上り線)と刀根第1トンネル(上り線)で計約0.1kmの覆工再生工に着手する予定です。ただし、覆工再生工を行うためには照明その他のトンネル内の設備類の移設、監視員通路の一時撤去、トンネルの外のコンクリート圧送などに必要な設備とそのヤードの準備工事も考えると、それなりの期間を要しますね。
刀根第1トンネル(上り線)/曽々木トンネル
――防護工の安全性確認は
谷口 壁高欄や仮設防護柵と同様の衝突実験(25tダンプトラックを15°の進入角、規制速度の50kmで衝突)を行った結果、防護工はほとんど動かず、その裏で作業を行っている作業者に対する安全性を確認できました。
衝突実験
橋梁耐震補強 3橋で支承取替や落防設置工などを予定
UHPFRCを用いたRCホロースラブの補強も計画
――橋梁の耐震補強の進捗状況や落橋防止装置の設置状況について教えて下さい
谷口 2016年4月の熊本地震を踏まえ、今後30年間に震度6弱以上の発生確率が26%未満の地域で行う耐震補強に取り組んでいます。緊急輸送道路として上り線を優先するため、北陸道の黒田高架橋上り線、麻生口橋上り線、樫曲高架橋上り線が対象橋梁です。補強対策は支承取替、落橋防止装置や縁端拡幅などによる補強を行う予定です。現在はいずれも設計中で工事は少し先になります。
樫曲高架橋
黒田高架橋(左、中)、麻生口橋(右)
――ロッキングピアやロッカーピアを有する橋梁や耐震補強が必要な古い道示で建設した特殊橋梁は
谷口 ありません。
――長寿命化修繕計画に基づいた対策の進捗状況について構造物の機能強化の観点から教えて下さい
谷口 大規模修繕の対象である橋梁床版は、北陸道などで高性能床版防水(GⅡ)を舗装工事で行います。施工時間が確保できない箇所は、橋梁レベリング層用グースアスファルト(BLG)を用います。
超高性能繊維補強セメント系複合材料(UHPFRC)を床版上面表層に用いた床版補強も今後のリニューアルで施工していきます。
――UHPFRCを用いた床版補強は具体的にどのような形式で用いることを考えていますか
谷口 北陸道の損傷しているRCホロースラブのボイド直上の薄くなっている部分の補強材として用いることを考えています。