チーム敦賀で一体となって効率的に道路を維持管理
NEXCO中日本敦賀 長大トンネルの抜本的対策に覆工再生工
中日本高速道路敦賀保全サービスセンターは、北陸自動車道(以降、「北陸道」)の木之本IC~今庄IC間44.7kmと舞鶴若狭自動車道(同「舞若道」)の38.8kmを管理している。北陸地方の南の玄関口に位置しており、山間部が多いため、構造物比率は高い。北陸道の敦賀~今庄は上下線が旧北陸本線に倣ったⅠ期線と完全に新設したⅡ期線に上下線が別線となっており、今後の大規模更新・修繕事業においては、トンネルにおける覆工再生工技術の導入など工夫を凝らす必要がある。そうした話題を中心に谷口寧所長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
事務系社員ができる範囲で技術系社員の業務を肩代わり
業務の平準化に取組むのは当然であるという意識
――敦賀保全・サービスセンターについて
谷口 高速道路のメンテナンスから交通の管理まで幅広く業務を担当しています。「チーム敦賀」という呼び名でNEXCO社員だけではなく、当保全サービスセンターの業務を担っていただいているグループ会社の皆様、さらに受注者の皆様も含めて、みんなで一緒にやっていこうというスタンスで臨んでいます。
――当NETでは、以前、桑名保全・サービスセンターの福島所長(当時)を取材した際、工務に偏在しがちな仕事量を、仕事の内容を考慮して事務に振ることで仕事量の平準化を行った取り組みを紹介しました。こうした取り組みは敦賀でも行われているのですか
谷口 桑名の取り組みは全社的に水平展開しており、当事務所でも同様に取り組んでいます。例えば、舞若道の春・秋の通行止め工事の事前広報は、工務担当に代わり、料金担当が行っています。また、高速道路で工事を行うために必要な交通規制の警察協議も、初回は工事担当が行いますが、以降の変更協議などは管理担当が行っています。他にも、技術系社員が行っていた業務の発注や物品の調達なども総務担当が行っています。
――技術系の負担が軽くなった分、事務系の負担が増えたわけですが、それに関しては
谷口 今まで技術系社員に偏っていた業務を、事務系社員の提案により担ってもらっており、むしろ平準化に取組むのは当然という意識がチーム敦賀内にあります。
交通事故や災害など突発的な事象対応も、事務系の課長が率先して防災対策室に詰めて道路管制センターとやり取りしたり、現場の交通管理隊とやり取りしたり活躍しています。
また、グループ会社とのチームワークも素晴らしいです。例えば、中日本ハイウェイ・パトロール名古屋の隊員は、巡回中に様々な構造物の変状を見つけてくれたり、舗装が傷んでいる箇所があれば応急処置してくれたりと……。
――ハイウェイ・パトロール名古屋がですか?
谷口 そうです。民営化前には考えられなかったし、民営化後も報告までだったと思っていますが、笹子トンネルの事故以降、グループ会社の社員皆にお客様の安全のためにできることを最大限行うという意識が見られます。パトロールの皆さんはもともと危険と隣り合わせの業務を行っていて安全意識が高いのですが、それが構造物の安全に関しても発揮されるようになり、大活躍しています。構造物の変状を積極的に探すだけでなく、ちょっとしたポットホール補修も行うなど、これは敦賀だけではなくて会社全体の話です。
北陸の玄関口 敦賀
構造物比率 北陸道は33%、舞若道は61%に達する
――管内の地勢的特徴と現状について
谷口 当管内は、中京圏、京阪神からの北陸の玄関にあたる場所に位置しており、異なる時期に建設された2つの高速道路を管理しています。
北陸道の木之本IC~今庄IC間約45kmと舞若道の小浜IC~敦賀JCT間約39kmです。
北陸道は、滋賀県と福井県の県境の山間部を、また、敦賀市から福井市方面にかけては福井県を嶺北・嶺南に分かつ山間部を経由します。
舞若道も若狭湾の海沿いを走るように思われますが、実際は若狭国定公園を見渡す野坂山地の北沿に並行した山間ルートが大半です。
いずれも山間部を通過するためトンネルが多く、北陸道の構造物比率は33%、舞若道はさらに61%に達します。
トンネル 1km以上は19チューブ
橋梁 50m以上は51橋 最長は敦賀衣掛大橋
――構造物の内訳は
谷口 北陸道はトンネルが23チューブ、上下線合計の延長は24kmに達します。舞若道は15チューブの18km(鳥浜トンネル部のみ4車線化しているため上下線別、他は暫定2車線)となっています。
工法別では、北陸道は全て矢板工法で、舞若道は全てNATMで建設されています。
管内トンネル一覧(敦賀保全・サービスセンター提供、以下注釈なきは同)
供用年次別は1977年供用が北陸道の8チューブ、80年供用が同15チューブ、2014年供用が舞若道のみで15チューブとなっています。
延長別は1,000m未満が19チューブ、1,000m以上~2,000m未満が11チューブ、2,000m以上~3,000m未満が7チューブ、3,000m以上が1チューブです。
橋梁は北陸道が上り線17橋、下り線21橋、ICランプ橋4橋の合計42橋で橋梁延長は約2.5kmです。舞若道は暫定2車線橋が24橋、付加車線区間の上り線6橋、下り線6橋、OV1橋、IC・JCTランプ橋9橋の合計46橋で、橋梁延長は約5.8kmとなっています。
橋種別では北陸道の上り線が鋼橋6橋、PC橋4橋、RC橋7橋、同下り線が鋼橋10橋、PC橋4橋、RC橋7橋で、ICランプ部がPC橋3橋、RC橋1橋となっています。舞若道は上り線が鋼橋5橋、PRC1橋、下り線が鋼橋5橋、PRC1橋、複合ポータル橋が3橋、PC波型鋼板ウェブ橋が1橋で、OVおよびIC・JCTランプ部が鋼橋8橋、PRC橋1橋、複合ポータル1橋です。
供用年次別は1977年供用が北陸道で17橋、80年供用が同21橋、2014年供用が舞若道で37橋となっています。
延長別では北陸道が50m未満17橋、50m以上21橋、舞若道では同9橋、同28橋です。
管内橋梁一覧
――最長の橋梁は
谷口 舞若道の敦賀衣掛大橋です。橋長560mのPC5径間連続波形鋼板ウェブ箱桁ラーメン橋です。(編注:当時(2014年)としては同形式では国内最大級の長スパン橋。さらに橋脚高は最高で63.5mに達し、陸上部にもかかわらず、ニューマチックケーソン基礎を採用し、国道8号や北陸本線、国道161号、大型送電線などの構造物に近接する施工を余儀なくされた。さらに強風地域のため、通常であれば年間の6割が強風のため施工できない現場であったが、それでは埒が開かないため、現場では風がやんだところを見計らってクレーン作業を行うなど、風との戦いを強いられながら作り上げた橋梁でもあった)。
敦賀衣掛大橋
――複合ポータルラーメン橋も数橋ありますね
谷口 舞若道の若狭美浜ICのランプ橋、清水谷橋、コシキ谷橋、小兵谷橋が2主鈑桁の複合ポータルラーメン橋です。
北陸道 14kmほど上下線が大きく離れ、「捻じれ」た分離部がある
一冬3,500tの凍結防止剤を散布
――北陸道の敦賀~今庄間は上下線が「捻じれている」と言われますが、その意味は
谷口 敦賀IC~今庄IC間の途中14kmほどで上下線が大きく分離している区間があります。管内の北陸道で最初の供用区間は、武生IC~敦賀IC間で1977年12月に開通しており、今庄トンネルの先から敦賀ICまでは暫定2車線のⅠ期線でした。次に供用したのが米原JCT~敦賀IC間で1980年に開通しています。そこから2か月遅れて、今庄IC~敦賀IC間のⅡ期線が開通し、4車線になりました。最初の開通から45年が経過しています。
Ⅰ期線は旧北陸本線に沿ったルートで建設されましたが、急峻な地形により拡幅が難しいため、Ⅱ期線はⅠ期線から大きく離れたルートで建設されました。その経緯から敦賀トンネルの中間部当たりで上下線が交差し、上り線が海側へ、下り線が山側へと逆転している「捻じれ」状態になります。そして敦賀IC付近、木ノ芽川の少し南にある樫曲高架橋で立体交差し、「捻じれ」は解消されます。
樫曲高架橋で立体交差し、「捻じれ」は解消
上下線が別線となる区間は、今後のリニューアル工事を進める際のネックになります。上下線の渡り線を設けられないため、床版取替やトンネルリニューアルに伴い対面交通規制を行う場合、その延長が非常に長くなってしまうのです。その距離は最大で16kmになります。リニューアル工事に伴う交通運用上の課題克服は、チーム敦賀の最重要テーマといえます。
地形的な話に戻りますが、日本海沿いであり、海からすぐに山になっている管内は豪雪地帯でもあります。冬季の山間部はほぼ毎日雪が降っている状況です。
この冬も、ここ5年の平均並みの降雪量でしたが、3,500tの凍結防止剤を散布しました。散布期間は11月中旬から4月中旬までです。この間、散布した日数は72日でした。凍結防止剤をこれだけ散布していますので構造物にとっては厳しい環境といえます。
――敦賀ではなく、嶺北ではありますが、2018年2月上旬にはすさまじい豪雪がありましたよね
谷口 はい。しかし、管内では大雪は毎年のことなので関係者は除雪作業に慣れており、手際よく作業する様子をいつも頼もしく思っています。とはいえ、2018年の経験を踏まえ、大雪が予想される時には、予め出控えを訴える広報を行ったうえで、大規模な車両の滞留を発生させないよう、気象状況に応じて高速道路を並行する国道と同時に通行止めにして集中的に除雪作業を行い、降雪が弱まった後、できるだけ早く通行止めを解除するように、国や県など関係機関と連携して取り組んでいます。
舞若道 供用後10年も経過していない状況で路面損傷
BLGないし高性能床版防水を用いて補修
――舞若道の特徴については
谷口 暫定2車線ですので、交通混雑期を除く春秋に夜間通行止めあるいは昼夜連続通行止めを行い、保全工事や構造物点検を集中的に実施しています。舞若道は2014年の供用なので、まだ10年も経過していないのですが、多くの橋梁で舗装補修が必要になっています。
舞若道の舗装損傷状況
高性能床版防水と当時採用していた砕石マスチックアスファルト(SMA)を用いたレベリング層との密着が上手くいかなかったことなどに起因しています。現在は橋梁レベリング層用グースアスファルト(BLG)ないし高性能床版防水を再施工した上にFB13を用いたレベリング層を舗設し、高機能舗装の表層を舗設する修繕を進めています。
着手前の橋梁(左、中左)、調査工(中右)、車線分離標撤去(右)
切削状況/アスファルト残存部の除去/表面処理
高性能床版防水工の施工(井手迫瑞樹撮影)
BLGの施工状況(井手迫瑞樹撮影)
BLGの材料詳細/BLGと高性能床版防水継ぎ目部の処理状況(井手迫瑞樹撮影)