2032年には供用後半世紀を経る路線が全体の5割に達する
NEXCO中日本 中井 俊雄 保全企画本部長インタビュー
ASRによる損傷 橋梁上部工約90基、下部工約400基、カルバート約150基
水をどう止めるか、ジョイントにどのように対応するか
――アルカリシリカ反応(ASR)について
中井 北陸道や中央道でASRによる劣化を確認しています。例えば、北陸道では、橋梁上部工約90橋、下部工約400基、カルバート約150基で劣化の確認をしています。経過観察をしながら、膨張が収束したものから順次補修を行っています。
ASRの傾向
――ASRを起こす骨材は、即効性と遅効性の反応を示す骨材があり、遅効性は対応がなかなか難しいということを文献で読んだことがあります。JH時代の富山管理事務所の取材で橋脚や橋台、上部工の一部がバキバキに割れているのを見たことがありました。同箇所は補修されていましたが、橋台の場合は背面から水が入ってきます。前面を補強・補修しても背面からの水を遮断できないので、どうしようもないという話をその取材で聞きました。それについて、どう考えていますか
中井 橋台の背面はどうしても水にさらされます。そこについて特別な対策が難しいためモニタリングしています。20年ぐらい前からご指摘の問題は分かっていますが、モニタリングの結果、幸いに劣化は進んでいません。しかし今後、そういうものが出てくる可能性もあります。建設時に防水措置を施しておくということもあるかもしれませんね。
――背面以外の水の供給源は止水構造を失ったジョイントがらみが多いが、橋台部においては延長床版で対応できます。新設や床版取替の一部ではそのような取組みも行っていますが、追加で何かあれば教えてください
中井 2022年度末時点のジョイント漏水に起因するA1以上の変状は1,941箇所で確認しています。
ジョイント損傷個所数
――ジョイントは本体の伸縮機能が失われているわけでなく、止水機能が失われているだけなので、ジョイントの取替えは必要なく、シール材の取替えなどで対応しているケースも出てきています
中井 ジョイントの伸縮機能が失われているわけではありませんので、取替えるということではなく、漏水対策として、ジョイント下面に樋や乾式止水材を設置しジョイント上面からの水を排水させる、ジョイントの遊間部に弾性シール材を設置し上面からの水が漏れないようにする、小遊間の橋梁においては発泡シールを設置しジョイント上面からの水が漏れないように止水するなどの工法を採用しています。
ジョイントの損傷対策
――取替が必要なジョイントは1,941箇所のなかでもかなり少ないということですね
中井 基本的にはジョイント機能は問題なく、水をきちんと処理する対策を行わなければならないということです。
特定更新等工事の事業規模は現時点で約1兆5,000億円
2022年度末の工事契約額は8,425億円 契約ベース進捗率は55%
――特定更新工事についてNEXCO中日本内の概要から教えてください
中井 当社の特定更新等工事の事業規模は現時点で約1兆5,000億円です。橋梁更新は約108kmで約1兆850億円、橋梁修繕は約183km、約1,700億円、トンネル修繕は約35kmあります。
現在、設計が完了し、お客さまへの影響を最小とした施工計画、関係機関との協議が整ったものから順次工事を進めています。2022年度末までの工事契約額は8,425億円(189件)で、契約ベースの進捗率は約55%となります。契約済工事189件の内訳は、橋梁更新が108件で半分以上、橋梁修繕50件、土構造物修繕26件、トンネル修繕5件です。
特定更新工事の事業規模
特定更新工事の発注実績
契約中の特定更新工事一覧(拡大して見てください)
今年度発注予定の特定更新工事一覧(拡大して見てください)
――NEXCO東・西日本と比べて、スタートは少し遅れたと聞きましたが、2021、2022年度はすごい契約額になっていますね
中井 契約ベースですが。頑張って進めています。
――現場は大変そうですが、どのような対応を
中井 やはり大変ですが、使命感に燃えてやっています。
――人の手当てや施工の効率化、DXの活用は
中井 施工の効率化というよりも、一番頭を悩ませているのはお客さまへの影響です。これをいかに最小にするかということですが、現況車線数を確保しながら床版取替を行わなければならない区間がどんどん増えてきます。そのなかで、受注者の皆さんが開発しているDXを含めた新技術を駆使しながら進めています。
2023年度時点の保全・サービスセンターの工事担当者の人員は、耐震補強工事や通常修繕工事の担当も含めてになりますが、特定更新等工事スタート直後の2016年度比で約1.9倍(約130名→約250名)という状況です。
平準化を促すために通年施工の現場も増やしたい
今年度は約50件の大規模更新・修繕工事を発注
――床版取替では、お盆や年末年始、GWなどの混雑期を回避して施工しなければならないので、施工時期がNEXCO3社および阪高で集中します。PC建協に話を聞くと、床版製作は、繁忙期においては100%を超えるが、それ以外は工場への発注があまりないとのことでした。現状はアンバランスなので、通年施工であれば工場の平準化にもつながるとのことでした
中井 その話は伺っています。そのためということではありませんが、現況車線数を確保している区間では通年施工で工事を進めています。
長期にわたる交通規制を行う特定更新等工事の計画(2023年度)
――通年施工だと、製作で助かるという会社はかなりあります。施工は大変かもしれませんが
中井 高速道路会社からすると、現況車線確保のためには事前に拡幅を行ったり、車線毎の施工となったりしてコストと時間が嵩んでしまうことが課題です。
――通年施工の弥富高架橋を取材しましたが、考えられないくらいアクロバティックなことをやっていますね
中井 東名阪道弥富高架橋の床版取替は、名二環の名古屋西JCT~飛島JCTが開通し、伊勢湾岸道と接続したことでネットワークが完成し、東名阪道から伊勢湾岸道にお客さまを迂回誘導することで、1車線規制での通年施工ができるようになりました。
――それでも桁の上に工場を作っているようなもので、よくここまでNEXCOさんが許可したと思いました。それが他の箇所にも広がっているのですよね。NEXCO西日本も九州道でおなじようなことを行おうとしています。現在しゅん功した大規模更新の数は
中井 特定更新等工事全体で2022年度末までに契約した工事は189件で、そのうち60件がしゅん功済みです。このうち、床版取替が完了した工事は28件(51橋)です。比較的規模が大きい橋梁としては、北陸道の福井北JCT・IC~丸岡IC間にある九頭竜川(橋長約450m)が2019年度から約4年間で上下線の床版取替を完了しました。
――昔は4、50件が普通だったのに、現在は動いている数が100件を超えていますね
中井 今年度発注予定の特定更新等工事は全部で50件あります。内訳は、橋梁更新が15件、橋梁修繕が23件、土構造物修繕が9件、トンネル修繕が3件です。土構造物修繕では、北陸道のグラウンドアンカーを施工する工事を2件(全体で120本規模)発注予定です。トンネル修繕では、長野県・岡谷トンネルの炭素繊維による覆工補強と背面空洞注入を行う工事を発注予定です。
手取川橋 耐海水性ステンレス皮膜を採用した開断面箱桁
開断面桁状態でPC桁を吊切り撤去
――今年度の目玉はやはり手取川橋ですか
中井 同橋は目玉の1つになります。
昨年度から継続して施工している橋梁が11橋あります。東名多摩川橋、中央道多摩川橋、東名(袋井~掛川間)菅ヶ谷高架橋、長野道鎖川橋、名神長良川橋の上下線(5橋×2)と下り線のみ施工の東名阪道弥富高架橋です。上下線施工の10橋は現況車線数を原則確保して、通年施工を行っています。今年度、新たに床版取替に着手する橋梁は東名、中央道、北陸道の3路線で30橋です。
昨年度から継続して施工している橋梁が11橋ある
架替えが進む手取川橋
床版取替事例①
床版取替事例②
床版取替事例③
その他、グラウンドアンカーを施工する土構造物修繕は115箇所、トンネル覆工コンクリートの補修、補強を行うトンネル修繕は東名・三ケ日トンネルで施工を進めており、いずれも今年度完了させる予定です。
北陸道・小松IC~美川IC間の手取川橋は今回の特定更新等工事で、PC箱桁から鋼箱桁に架替えます。2023年5月20日から下り線を昼夜連続対面通行とし、上り線側の架替工事に着手しています。荒天時には波浪による飛沫が直接上部工にかかるほか、強風で砂が飛来して部材が摩耗するなど、橋梁の耐久性にとって極めて過酷な環境となっています。更に、上部工の高さが海面から低いため航路高さ制限から維持管理用の足場設置が難しく、希少生物が生息する地上からアクセスもできないというような維持管理上の制限も厳しい状況にあります。そのため、架替えを行います。桁は、耐海水性ステンレス皮膜を採用、開断面箱桁になります。
手取川橋架替え概要
手取川橋架替え工事、内部は一部に超厚膜塗装(中写真)、外部はステンレス皮膜(右写真)を施している
――NEXCOで開断面箱桁は珍しいですね。床版構造は合成床版ですか
中井 8径間連続鋼開断面箱桁橋で場所打ちコンクリートの無い壁高欄一体型プレキャスト2方向PC床版としています。
――合成床版を使わないのですね。
中井 そうです。既設桁上に新設桁を地組・架設してから、既設桁を撤去し、先に桁だけの状態で橋脚上にジャッキダウンします。その後、プレキャストPC床版を架設し、床版どうしをPC鋼材で縦締めします。
――新設の鋼箱桁を仮設桁として利用し、PC桁を切断撤去し、仮設する手法は阪高の喜連瓜破高架橋の架替施工に似ていますね
中井 喜連瓜破高架橋は単純に撤去のための仮設桁を渡し、新設桁は後から架設しています。本工事は、撤去作業に使用する桁が将来の新設桁になります。新設桁を撤去作業に使って、既設桁の撤去後にそのままジャッキダウンしますので、少し異なります。
――開断面桁の状態で仮設桁として使用するのですか
中井 そうです。
――横断部の仮設補剛材が横方向の剛性を確保して、架設桁として使用しているという考え方でいいですか
中井 そうです。
――施工計画を考えた人はすごいですね
中井 詳細設計付きで工事を発注しています(JFE・ピーエス三菱JVが受注)。現在の計画では、2023年度に上り線、2024年度に下り線の架替えを行い、2025年度に工事完了の予定です。
――耐海水性ステンレス皮膜は耐候性鋼材のように無塗装ですか、それとも塗装をするのですか
中井 塗装は内面のみと聞いていますので、外面は行いません。
――既設桁がPCなので、喜連瓜破でも切断するのに手間がかかっていました。さらに、手取川橋は下に希少生物がいるとのことなので、PC桁を囲うしかないと思います。切断方法は
中井 建設時のブロック単位で切断していくと聞いています。そこに定着部があると理解しています。
「新たな知見」に基づく更新計画(概要) 延長約130km、事業費が約4,000億円
激しい塩害にさらされているコンクリート橋にどう対応するか
――新たな知見への対応は
中井 当社の新たな知見への対応は、延長約130km、事業費が約4,000億円です。
新たな知見
PC橋の損傷状況(グラウト充填不良)
広帯域超音波法によるグラウト調査
――西湘バイパスの滄浪橋は補修中ですが
中井 滄浪橋は現在、塩害対策を行っています。
――将来的に架替を考えませんか
中井 まずはグラウト充填不足の課題があるので、その対策を行っていきます。
――新たな知見では桁の架替にも触れています
中井 個別検討です。充填不足が確認された場合は、充填材の再注入等を実施していくことになると考えていますが、中でも変状が著しいものは架替等の対策も検討することになるのではないでしょうか。
――東名の由比高架橋も同様ですが、どれだけ塩害対策を行ってもこうした厳しい環境下のコンクリート橋はいったん損傷してしまうと直しても再損傷する可能性が高いと現場の方が言っていました。滄浪橋も目の前が海の状況で、がんばって塩害対策を行ってきましたが、損傷が発生しています。最終的には架替えたほうがいいのではないですか
中井 変状の状況を踏まえて検討することになると思いますが、現在、架替計画があるのは、手取川橋だけです。
――NEXCO東日本の関越道・土樽地区での舗装路盤部の高耐久化のようなものは御社でありますか
中井 舗装を修繕してもすぐに損傷が発生する箇所は当社でもあります。そのようなところは高耐久化が必要と考えています。
――NEXCO西日本の山陽道・木津地区での切土区間の高速道路本線上へカルバートを設置しそのカルバート上に抑え盛り土を構築するような更新事業は御社でありますか
中井 当社にはありません。
――舗装路盤部の高耐久化が必要な具体的な箇所は
中井 具体的な箇所は現在精査中であり、引き続き精査検討の上で具体化していきます。舗装厚の比較的薄い等の脆弱化しやすい箇所において、疲労ひび割れにより水が浸透することで下層路盤に永久変形が発生し変状が出やすい状態になっていることから、路盤部の変状が確認されている箇所について高耐久路盤へ変更する必要があると考えています。