2032年には供用後半世紀を経る路線が全体の5割に達する
NEXCO中日本 中井 俊雄 保全企画本部長インタビュー
中日本高速道路は、2023年度期首で2,183kmの高速道路を管理している。開通後の経過年数が50年以上の路線延長は約1/4におよび、東名・名神の全線、中央道の調布~河口湖、東名阪道の桑名~亀山などがある。また、40年以上を超える路線延長は5割を超え、2032年度には半分以上が開通後50年を迎えることになる。損傷は疲労によるものもあれば凍結防止剤による塩害由来のものもある。また富山県域ではアルカリシリカ反応(ASR)由来の損傷も多いなど、要因は多岐にわたる。加えて橋梁だけでなくトンネルにも手当てが必要であり、さらには新たな知見に基づく劣化事象が確認された構造物や土工、舗装路盤への対応も今後は行わなくてはならない。そうした状況にどのように対応していくか、取締役常務執行役員保全企画本部長の中井俊雄氏に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
事業エリアと開通後の経過年数(NEXCO中日本提供資料より抜粋、以下注釈なきは同)
橋梁6,072橋、トンネル441チューブ、大型カルバート988基などを管理
2巡目点検の結果は、橋梁、トンネルともに約12%がⅢ判定
――管内の概要について
中井 NEXCO東・西と比較して営業延長は短いですが、交通量や経年数は大きくなっています。2022年4月16日時点(それ以降の開通区間はなし)で営業延長は2,183kmです。そのうち、234kmが暫定2車線、118㎞が暫定4車線(完成6車線となる箇所)での営業となっています。新規建設延長は81kmで、新東名の静岡県から神奈川県に至る区間、東京外環、東海環状道が主なものです。また、新名神6車線化、東海北陸道、東海環状道、紀勢道の4車線化といった拡幅事業区間が73kmあります。
開通後の経過年数で見ると、2022年時点で50年以上の路線延長が約25%となっています。東名・名神の全線、中央道の調布~河口湖、東名阪道の桑名~亀山、北陸道の小松~金沢西、小田原厚木道路、西湘バイパスなどです。40年以上経過区間となりますと、中央道の全線、北陸道の滑川~朝日を除く全線、東名阪道のほとんどの区間に拡がります。北陸道の滑川~朝日も39年が経過しており、2023年には40年を迎えます。
道路延長別経過年数
現在、開通後の経過年数が40年を超える路線延長は50%を超えていますので、10年後の2032年には50年以上が半分以上を占めることになります。
車両の大型化や重量制限を超える車両もまだ走行していること(ひどいものは2倍の積載)、スパイクタイヤが禁止され凍結防止剤の散布量の増大もあり厳しい使用環境に置かれて老朽化が進む状況において、道路機能を発揮し続ける重要性がますます高まっています。
当社では、現在は、笹子トンネル天井板崩落事故を起こした当事者として、「二度とこのような事故を起こしてはならない」という深い反省と強い決意を胸に、『経営計画チャレンジV2021-2025』において、安全は当社グループにおける経営の根幹かつ全ての経営方針につながるものとして、「安全性向上に向けた不断の取組みの深化」を経営方針の最上位に位置づけ、道路構造物の安全はもとより『安全性向上への「5つの取組み方針」』(下表)に基づく取組みを持続的に進めています。
管内の構造物数は、橋梁6,072橋、トンネル441チューブ、シェッド11基、大型カルバート988基(詳細は下表)などとなっています。
2巡目(2019~2023年度)点検の実施率は、橋梁、トンネル、大型の構造物(シェッド、大型カルバート、横断歩道橋、門型標識等)ともに約8割です。2巡目点検の結果、Ⅲ判定となった構造物は橋梁、トンネルともに約12%といった状況です。
点検2巡目の実施状況
経過年数と判定区分の関係
建設経過年数と判定区分の関係では、橋梁で40年以上が経過するとⅢ判定のものが増えていて、41~50年で約30%に達しています。トンネルも30年以上経過すると約2割がⅢ判定となっています。大型構造物ではⅢ判定になった構造物は今のところありません。
1巡目点検(2014~2018年度)では、橋梁の14%、トンネルの25%がⅢ判定となっていました(下左表)。それに対する修繕等の措置状況ですが、2017年度点検実施までのものは基本的には措置が完了しており、2018年度点検実施のものが残っています。その結果、橋梁では708橋が完了して92%の進捗率となっています。トンネルでは1巡目点検のすべてのものの補修が完了しています。大型構造物は98%の進捗です(下右表)。特定更新事業や耐震補強工事と一体的かつ効率的に修繕を行っていくことを考えていますが、それに限らず、5年以内に確実に補修するために機動的に粛々と補修を進めていきます。
1巡目の2014~2017年度に点検を行い、Ⅰ・Ⅱ判定だったもののうち、今回2巡目の点検でⅢ判定にどれだけ移行したかということですが、橋梁では1巡目にⅠが8%、Ⅱが92%であったものが、2巡目ではそれらのうち約11%がⅢ判定となりました(下表)。トンネルでも約10%がⅢ判定となりました。橋梁では、名神や北陸道の床版関係でⅠ・ⅡであったものがⅢとなっています。トンネルは覆工コンクリートの損傷の進展が見られます。
延長比換算では約32%の橋梁が供用後40年を経過
――橋梁で損傷が進展しているのは名神や北陸道のみですか。東名阪道は
中井 東名阪道も少し損傷が進展していますが、多いのは名神や北陸道です。
床版の損傷状況
――構造物の内訳をもう少し詳しく教えて下さい
中井 橋梁数は先ほど申し上げたように6,072橋ですが、連数としては9,434連となります。そのうち、鋼橋3,613連、PC橋2,612連、RC橋2,531連、PRC橋666連、その他12連です。それを経過年数別でみると下記の表で40年以上が55%となっています。また、延長比では右側の表となります。当然、鋼橋はスパンが長いので、鋼橋の比率が大きく、RC橋の比率が小さくなっています。延長比では約32%が経過年数40年以上となります。
路線別の橋梁連数では、東名、東名阪道、中央道、北陸道、東海北陸道がいずれも600連以上と多い状況です。
橋種別割合
覆工コンクリート損傷 北陸道と東海北陸道で顕著
在来矢板工法は4分の1強を占める
――覆工コンクリートの損傷が多い路線は
中井 覆工コンクリートの損傷が多い路線は北陸道と東海北陸道です。北陸道は一部開削を除いてほとんどが矢板工法により施工されたトンネルです。東海北陸道でも一部矢板工法があります。
小田原厚木道路におけるトンネルの損傷状況(風祭トンネル)
――トンネルの内訳をもう少し詳しく教えて下さい
中井 トンネル数はチューブ数で全体441本となります。このうち、在来矢板工法27%、NATM71%、開削1%です。経過年数40年以上が26%を占め、一部開削を除きほぼすべてが矢板工法となっています。延長合計は484kmです。路線別トンネル数では、新東名、東海北陸道、北陸道が多い状況ですが、トンネル数は少ないものの名神や中央道、小田原厚木道路も多くのトンネルは矢板工法で施工されています。
トンネルの工種別割合
凍結防止剤、海岸線……塩害対応に電気防食や脱塩工法など採用
――路線の劣化状況
中井 開通後40年を経過している路線で車両大型化、大型車両の増加と経年劣化、区間によっては凍結防止剤散布の影響もあって、RC床版のひび割れや遊離石灰を伴う漏水、鉄筋露出、床版内部の水平ひび割れ、床版上面の土砂化などによる舗装路面のポットホール発生などが見られています。トンネルは覆工コンクリートの経年劣化によるひび割れが確認されています。小田原厚木道路の風祭トンネルでは2019年度から断面修復、ひび割れ注入、背面空洞注入、炭素繊維シートによる覆工補強などを約4年かけて施工しました。
床版の様々な損傷状況(当NET既掲載写真(NEXCO中日本所管RC床版))
海岸線に近接している北陸道の片山津~金沢西間や西湘バイパスなどでは飛来塩分による塩害由来の損傷が出ています。
手取川橋の塩害による損傷状況(2019年6月、井手迫瑞樹撮影)
北陸道平瀬川橋の状況(2019年6月、井手迫瑞樹撮影)
西湘バイパス滄浪橋の損傷状況(2022年12月、井手迫瑞樹撮影)
――塩害対策の事例を教えて下さい
中井 内部鉄筋の腐食を抑制する電気防食工を採用しているほか、2019年度からは西湘バイパスでコンクリート中に侵入した塩化物を電気の流れによってコンクリート外部に排出し、塩化物量を低減させる脱塩工も採用しています。
上部工端部の電気防食工施工状況
上部工の電気防食工施工状況/上部工の脱塩工施工状況
脱塩工法施工状況/塩害対策が完了した状況(いずれも滄浪橋)
また、塩害対策としてプロピオン酸ナトリウムを使用した凍結防止剤の開発も進めているところです。作業性や環境影響、構造物に与える影響などは問題ないことを確認しており、現在、金属腐食の防止効果の確認を進めています。次期降雪期も一部区間で試行的に散布する予定です。課題はコストがかかることですね。
――補修コストと比べて、約30年で考えるとどうなのか、ということですね。
中井 プロピオン酸ナトリウムを使用した凍結防止剤にすると、管内で年間十数億のコスト増となります。それが50年間での補修費と釣り合うのかどうかということですね。その意味でも、鉄筋腐食防止効果を確認していかなければなりません。
――たくさん使用すれば、それだけコストも下がるでしょうが
中井 そういうこともありますね。そのためにも効果確認が重要と考えています。
伊勢湾岸道で鋼橋の疲労亀裂の応急対策進める
SFRCだけでなくUHPFRCの採用も検討
――鋼橋の疲労亀裂について
中井 鋼橋の疲労亀裂は伊勢湾岸道で2014年に確認され、その後の追跡調査でもデッキプレート厚が薄い鋼床版で新たな亀裂の発見、進行を確認しています。鋼板当板補強やストップホールなどの対策を2019年度から順次実施しており、2023年度に応急的な対応は完了予定です。今後の恒久対策として、フェーズドアレイ超音波探傷結果を踏まえて、デッキプレート部への鋼繊維コンクリート(SFRC)舗装を含めた補修方法などを検討していきます。
鋼橋の疲労亀裂対策①(名港西大橋、井手迫瑞樹撮影)
鋼橋の疲労亀裂対策②(名港西大橋/名桜中央大橋)
――桁下からの補修補強は名港トリトンで取材させていただきました。SFRCではなく超高性能繊維補強セメント系複合材料(UHPFRC)を使用して補強する方法もあると聞いていますが、検討されていますか
中井 要するコストと効果のバランスだと思います。そこまでやらなくても十分といったこともあると思いますので、特にUHPFRCの採用を考えているわけではありません。構造的なメリット・デメリットはあると思います。SFRCでは厚くて駄目だが、UHPFRCでは薄くてもできる、などを総合的に考えて判断していくことになると思います。
――規制中の交通量も多く、かなりの速度でトラックなどが通過していくなかで作業をしなければならないので、作業性も重要になりますね
中井 重量制限を超過する大型車両がまだたくさん走行しています。橋梁へのダメージは重量の3乗で効いてきますので、お客さまへの啓発、取締り強化、違反に対する措置の見直しなどを行っています。取締り強化については、当社だけでなく並行する一般道の道路管理者や隣接するNEXCO東・西との同時取締りを実施しています。違反者に対しては、その場で減載などの厳格な措置命令を行うことに加えて、車両総重量が基準の2倍以上超過している悪質違反者については即時告発を実施しています。また、大口多頻度制度の割引の停止措置なども行っています。更に、計測データによる取締りが可能な本線軸重計の整備も進めていて、管内では33箇所設置しています。
過酷な使用環境
――軸重計の精度管理で行っていることは
中井 毎月、真値計測した散水車などの試験車両を複数回走らせて、計測データが一定の範囲内にあることを確認するなどし、精度管理を行っています。また、周辺環境の変化や、経年劣化等による精度低下を発見した場合は補修等を実施しています。