大規模更新や大型伸縮装置、PC橋の支承交換などを進める
NEXCO中日本桑名 「とにかく補修しまくる」がコンセプト
支承 オゾン劣化やPC橋で原因が特定できない損傷も
健全度Ⅲ以上の劣化は余裕を見て4年以内に終わらせるよう努力
――支承を取替えている箇所はありますか
福島 伊勢湾岸道では、ゴム支承のオゾン劣化による損傷が課題となっています。変状が顕著な4基については、取替を計画しています。経年変化を観察しているゴム支承もあります。変状進展を防ぐために、詳細点検時に表面保護剤の塗布も行っています。また、4つ支承(1支承線の)があるのに端っこだけやられているケースもあります。
鋼製支承の損傷状況(左)/ゴム支承のオゾン劣化などによる損傷状況(中、右)
――それはオゾン劣化ですか
福島 そうとも言えません。冬(寒い時期)なのになぜこんな伸び方をして、クラックが入ってしまうのか? という損傷の仕方をしているのです。伊勢湾岸道の橋は、長大特殊橋が多いため、少し複雑な損傷が起きています。東名阪道の橋は構造が単純なため、現在の技術力をもってすれば、なんとでも克服できますが、伊勢湾岸道の場合は、当時としては未知の領域にあったため、損傷が顕在化したものと思われます。
――支承が損傷している橋種は
福島 いずれもPC橋です。交換するには、既存支承に架かる応力を開放し、支承を取り替えるジャッキアップ手法から考えなくてはいけません。支点部の補強も含めて詳細な準備が必要になると考えています。
――橋梁など耐震補強の進捗状況は
福島 当管内では、更なる耐震補強の対象工事として、発災時において路面に大きな段差が生じないように段差防止装置の設置を実施しています。全数約1,570基すべてを21年度内に設置しました。管内の耐震補強はこれでひとまず完了します。
――橋梁の長寿命化修繕計画に基づいた対策の進捗状況についてお答えください
福島 伸縮装置や排水管からの漏水が、橋梁の鋼桁腐食、コンクリート剥落などの影響を与えていることから、速やかに補修することとしています。健全度Ⅲ以上の劣化については、5年以内といわず、余裕を見て4年以内に終わらせるよう努力しています。
弥富高架橋 既設RC床版は「絆創膏だらけの状態」
床版取替面積は約19,000㎡ 揚重設備を作って桁外から床版を搬入
――大規模更新・大規模修繕事業について、管内の対象となる工事はどのようなものがありますか
福島 当管内初めてのリニューアル工事となる弥富高架橋(下り線)の主に床版取替を対象とした工事が始まっています。今後は三重県域も含めて、順次事業を拡大させていきます。
弥富高架橋は延長1.6kmの連続鋼鈑桁橋で、既設RC床版は「絆創膏だらけの状態」といえます。現地に行くとわかりますが、路面がものすごく揺れているのがわかります。支間の中央付近に行くと顕著に感じます。桁の常時振動と交通荷重による疲労で床版が大きく損傷している状態です。
弥富高架橋上面の床版損傷状況①(井手迫瑞樹撮影)
弥富高架橋(下り線)の床版上面損傷状況②/増厚部が上端筋に沿って水平ひび割れしている状況がわかる(右)(井手迫瑞樹撮影)
弥富高架橋(床版裏面の損傷状況、一番左)/隣接する佐屋高架橋(中および右)の床版裏面損傷状況(井手迫瑞樹撮影)
弥富高架橋(下り線)リニューアル工事は、東名阪道全体のリニューアル工事におけるパイロット工事として位置付けています。同工事では、①1車線を確保した施工を実現するために半断面施工を行う、②架設方法を工夫することで急速施工を実現する、③資材の搬出入を桁下から実施する、従来と比べて安全性が高い急速施工を実現する工夫を施します。本工事で得られた知見は、今後行われる別の工事にも使用していきます。
――橋梁の構造もだいぶ変えるようですね
福島 プレキャストコンクリート製の延長梁部材を使って既存橋脚の梁を広げ、主桁を1本増設し、橋梁の幅員を1.42m広げます。そうすることで、将来上り線の床版取替をする際、下り線を対面1車線とし、上り線を全断面で床版を取替えることが可能となり全体の工程を短縮することができます。
延長梁架設状況
桁増設状況
弥富高架橋(下り線)リニューアル工事の内訳は、プレキャストPC床版への取替が1,610枚(半断面換算、全断面換算では805枚)、増設桁が403t、床版取替面積は約19,000㎡に及びます。コンクリートを現場打ちする部分はほとんどなく、端部もプレキャスト版と伸縮装置をつないだ状態にして架設する初めての工法を採用します。
端部もプレキャスト版と伸縮装置をつないだ状態にして架設(井手迫瑞樹撮影)
床版は壁高欄一体型ではなく、別々で作っていますが、仮設するときはL字型(半断面のためそうなる)で床版上に高欄を載せた形で施工します。高欄はボルトで繋いでいますが一体化してはおらず、現場で微調整できるようにしています。高欄もプレキャスト壁高欄『EMC』を採用しており、品質の確保と工期の短縮を両立できるよう計画しています。
――搬入出方法は
福島 中間点に搬出用、起終点に搬入用の揚重設備を設けます(写真)。設備の下部は大型トレーラーが入れるようになっています(写真)。搬入出用の設備は桁上の軌条台車(桁延長方向に敷かれる)とリンクしており、中間部では撤去した床版を本線上で吊り、横移動させて本線外に移動し、側道(県道)に吊下ろし、待機しているトレーラーに荷下ろしして、運びます。搬入用の設備はその逆パターンで施工されます。これにより、トレーラーなど車両による本線での運搬をなくしています。床版の撤去・架設は専用の門型撤去機および門型架設機を用います。
中間部に搬出用、起終点に搬入用の揚重設備を設ける(井手迫瑞樹撮影)
スラブカッターによる床版の切断工/切断された地覆及び高欄(井手迫瑞樹撮影)
床版撤去機(左、中)と自走する台車(右) (いずれも井手迫瑞樹撮影)
――揚重設備は鋼製タワーのようですが、形状はいずれも桁を跨ぐような形で設置されているのですか
福島 桁を跨ぐ形で設置されているもの、床版上に片方の脚を置く形で設置されているもの、端部の桁と床版を外して作った間口から顔を出す形で設置されるものの3パターンがあります。
――側道も1車線規制しているのですか
福島 そうです。幸いなことに弥富高架橋は南北両側に側道が存在します。そのうち、北側が主に使われており、南側はほとんど使われていない状況でした。愛知県と協議して、工事期間中、一括して必要な側道部分を当事務所で使用できないかという交渉が成立して、使わせていただいています。だから搬入出の揚重設備を建てられたり、側道2車線中1車線を工事エリアとして通年で使わせていただいたりしています。
中間部の揚重設備から見た弥富高架橋(名古屋方面)。側道を使えるのは大きなメリットだ(井手迫瑞樹撮影)
搬入出用の揚重設備 3重の安全対策を施す
継手は橋軸/橋軸直角ともスリムファスナー工法を採用
――桁下でのクレーン作業をその都度規制して行うことや、本線を使った床版の撤去や搬入をする危険を考えれば、効率面でも安全面でも良いとは思いますが、それにしてもよくこんな設備を考えましたね
福島 本当に側道が使えたことが奏功しました。側道を使えることを前提とした架設計画が作れないか、当社からJVに問いかけた結果、こうした設備を提案していただけました。
――搬入出用の揚重設備は供用中の高速道路直上を跨ぐ形でかかっています。吊っている床版が落下しないような安全対策はどのようなものを施していますか
福島 3重の安全対策を施しています。1つ目は2本で吊るということです。1本が切れても、もう1本でも全ての耐荷重を支えられるようなフォールトトレランスの思想で設備設計をしています。2つ目は万が一2本切れても下に配置している落下防止床(東名阪道にとっては保護天井)で受け止めることが出来るようにしています。3つ目は、阪神淡路級の地震が来てもダメージを受けない設計をしているという点です。
2本で吊る(井手迫瑞樹撮影)
――床版は半断面ずつの施工となりますが橋軸直角方向はもちろん橋軸直角方向の継手はどのようなものを用いますか
福島 弥富高架橋は大林組が筆頭のJVであり、同社のスリムファスナーを両断面の継手として用いる方針です。
プレキャストPC床版(井手迫瑞樹撮影)
先行架設部(左)EMC壁高欄/(右)プレキャストPC床版およびスリムファスナーを使った継手部(雨天および床版表面研掃前)
(井手迫瑞樹撮影)
――UFCを用いる継手ですが、八王子で生じたひび割れが起きない対策を何か考えておられますか
福島 当初設計で不具合が出ないかクリープ・乾燥収縮の検討や更なる対策を検討中なので、当該現場においてもきちんと検証した上で、施工していくことを考えています。
――上り線も鋼製タワーを用いた搬出入設備や軌条設備、門型撤去機および架設機を使った施工になるのですか
福島 その方向で考えています。そのため、今回の工事で本線だけでなく、南側の県道も必要な箇所まで2車線の県道整備も当事務所で行い、上り線をリニューアル施工する際は、北側の側道を規制して、南側に迂回させることを考えています。
今回の手法は、弥富高架橋だけでなく、桑名東~名古屋西間の延長約18km全線で使える工法であると考えています。パイロット的な現場である弥富高架橋で様々な課題を潰し、次の現場がさらに安全性が高い急速施工が可能となるよう検討を加えていきます。弥富高架橋でも施工期間を当初発注工期の3分の2に縮めることが出来る見込みです。
床版を運ぶために使う軌条設備
野登トンネルのインバート未設置区間で盤膨れが生じる
直近集中工事で応急対策 2、3年後めどにインバート設置へ
――新名神野登トンネルの盤膨れはどうして起きたのですか。またその対策はどのように行いますか
福島 野登トンネルについては、検討会を立ち上げて、ボーリング調査をしたところ、路面より下の部分で膨張性の地質が深さ5m以内で発見されました。そこに供用後、水が回って盤膨れを引き起こした、というのが現在の見立てです。インバートがない区間であり、最大18cm隆起し、路面段差が生じました。応急補修として、削って再舗装しています。また、大型トラックが段差部でジョイントのように隆起部を叩くため、段差が再び開いているため、その都度埋めつつ、6月の集中工事でコンクリート路盤をも一部壊して路面の擦りつけ工事を行います。
その上で更に、2、3年後をめどに大規模更新工事として、インバートを設置しようと考えています。幸いなことに損傷が生じているのは下り線だけですので、上り線を対面交通させつつインバートを設置することも検討しているところです。
最大18cm隆起し、路面段差が生じている野登トンネル。応急補修として、削って再舗装している