道路構造物ジャーナルNET

大規模更新や大型伸縮装置、PC橋の支承交換などを進める

NEXCO中日本桑名 「とにかく補修しまくる」がコンセプト

中日本高速道路株式会社
名古屋支社
桑名保全・サービスセンター
所長

福島 邦夫

公開日:2022.04.22

 NEXCO中日本桑名保全・サービスセンターは東名阪、新名神、伊勢湾岸、東海環状の4路線の一部124.3kmを管理している。とりわけ伊勢湾岸道では伸縮装置の損傷、東名阪道では床版の損傷が著しく、「とにかく補修しまくる」というキャッチフレーズの元、その対応に全力を挙げている。そうした話題を中心に、事務所内に作った4つのプロジェクトチームについての詳細や、その他、野登トンネルの盤膨れやPC橋の一部でみられる支承の劣化などの課題も加え、福島邦夫所長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)

※1P目は管内状況、2P目は弥富高架橋(下り線)床版取替工事などの大規模更新3P目はジョイント取替や塗装塗替、法面の補修事例などが掲載されています。

2年半前はA1以上が5,700箇所以上、現在は4,200箇所まで減少
 「生産性向上・業務平準化」PTで事務・技術の繁閑差を解消

 ――事務所玄関の「とにかく補修しまくる」(右写真、井手迫瑞樹撮影)という標語は衝撃でした
 福島 私が所長になった2年半前、管内ではA1以上の損傷が5,700か所に達していました。そのため、「とにかく補修しまくる」というキャッチコピーを掲げた上で、事務、技術職、若手、ベテラン関係なく、補修しまくるということに主眼を置いて対応を図っています。その成果として、ここ1年間以上、損傷数が右肩下がりになっており、直近の要補修個所は4,200か所まで落ちています。点検で発見される数よりも、多くの補修を行うことが出来ているということです。
 ――事務系と技術系社員をどのようにリンクさせて「とにかく補修しまくっている」のですか
 福島 工事や補修を担う技術系社員が、それらに集中できる体制を整えようというものです。例えば工事に伴う警察協議や工事広報、一般道である県道や市道の協議(看板設置)などは事務系社員が主体となって行い、技術系社員が工事や補修そのものに集中できるようにしています。
 ――ほかの事務所では行えていることなのですか
 福島 十分には出来ていないと思っています。当事務所では昨年、社内の業務研究発表会で現在の取組みについて発表し、グランプリを頂きました。とりわけ社員間の労働時間の繁閑差の解消による生産性向上が評価されたものだと考えます。事務系と技術系社員ではどうしても後者の労働時間が多くなる傾向にあります。それを解消するため、技術系社員が行っていた事務的な業務を事務系社員が担うことによってその格差を解消しています。
 ――これにより技術系社員の負担はどれだけ減っていますか
 福島 約2割程度減少しています。また、リニューアル工事の広報ビデオもリニューアル工事の課長は担当させずに、事務系社員が担当して作成しています。
 ――業務の仕分けは今もやり続けているのですか
 福島 続けています。例えば沿道の草刈り業務は、今までは維持修繕を担当している課長が担当していました。しかし草刈りは特別な技術力を必要としません。そのため草刈り対応は総務担当課長が担うことにしました。その分、維持修繕を担当している課長が、草刈り作業をしなくて良くなるわけです。そして「とにかく補修しまくる」ということにまい進できるわけです。
 最近は、意識も高くなり、事務系の課長が何か手伝えることはないか? と言ってくれることも増えてきました。工事に起因する苦情なども管理担当課長が担っています。事務系社員が円滑な工事や補修の下支えをしてくれている状況です。
 ――なぜこういうことをやろうとしたのですか
 福島 私の前職は名古屋支社保全企画統括チームリーダーでした。チーム内には事務系と技術系社員が混在していました。チームとして仕事をするわけですが、どうしても技術系社員に過多の方向で繁閑差が生じていました。そこで防災系の業務に目を付けました。これは今まで技術系社員が担っていたのですが、必ずしも技術を伴う業務ではないと判断し、それを事務系社員に割り振りました。その結果、何ら支障がなく繁閑差を改善することが出来ました。
 桑名に所長として赴任した際も、当初は大きな繁閑差がありました。勤務が終わり所長室を出るとオフィスには技術系社員が全員残り、事務系社員は全員帰宅している状態でした。その状態に疑問を感じ、4つのPTを立ち上げました。4つのPTを立ち上げたのはその数だけ課題があったからです。
 ――どのようなPTを立ち上げたのですか
 福島 1つ目は損傷数の多さを減らすために「とにかく補修しまくる」PTを立ち上げました。2つ目は今話した技術系と事務系社員の繁閑差を縮めるための「生産性向上・業務平準化」PTです。
 3つ目は休憩施設に止めるところがないというお客様からの声に対応するため「休憩施設拡張・改善」PTを立ち上げました。いわゆるシンデレラ待ち(午前零時以降の深夜通行割引)のため午前0時までSAやPAで待機して、零時が過ぎて通行料金が半額になったら一斉にトラックやトレーラーが走り出します。

 管内でも亀山ICで午前零時に抜けると半額になり、その先が名阪国道という無料路線となります。そのため至近に位置する亀山PAは、大型トラックの待機により混乱しています。その状況を大きく改善させるためです。その結果、後でもお話ししますが、亀山PAと湾岸長島PAは拡張工事を今年度中に完成させることが出来ました。

PAを大幅に改良した

 そして4つ目が「リニューアル推進」PTです。
 ――リニューアル推進PTについて
 福島 当事務所はリニューアル工事が未着手でしたので、まずは初段となる弥富高架橋のリニューアルを、なんとしてでも成功させないといけないと感じました。そのために立ち上げたPTです。PT以外でも受注者(支社、事務所)と発注者間で50回以上打ち合わせを重ねました。ただ議論するだけでなく、毎回決断することが必要でした。

4路線124.3kmを管理
 休憩施設の改善に尽力

 ――さて、管内の地勢的特徴と道路網の現状からお願いします
 福島 当事務所は、東西を結ぶ東名阪自動車道54.3km(名古屋西IC~伊勢関IC)と新名神高速道路(四日市JCT~甲賀土山IC、亀山JCT~亀山西JCT)45.7km、伊勢湾岸自動車道16.5km(湾岸弥富IC~四日市JCT)、東海環状自動車道7.8km(大安IC~新四日市JCT)の合計124.3kmを管理しています。
 関西圏から中京圏への西の玄関口として、また四日市港や名古屋港といった中京工業地帯から全国または世界へ物資を運ぶ物流の重要路線を管理する事務所として、安全・安心な高速道路空間を提供すべく日々道路保全を行っています。
 2019年には新名神の新四日市JCT~亀山西JCTが開通し、東名阪道と併せてダブルルートを確保することにより、より信頼性の高い道路ネットワークを構築することが出来ました。また、この開通により東名阪道の渋滞が大幅に緩和され、関西圏と中京圏の往来、さらには伊勢方面へのアクセスがスムーズになり観光の活性化にも寄与しています。災害発生時におけるリダンダンシーも確保され、東西の交通を断絶することなく、災害リスクの軽減や早期復興への寄与が期待できます。
 新名神においては、2019年に6車線化が事業化し、亀山西JCT~甲賀土山ICの拡幅工事を実施中です。22年度から順次完成を目指しており、完成した際には、よりスムーズな通行ができるようになります。
 東名阪道においては、2012年から四日市東IC~鈴鹿IC間で暫定3車線運用を継続しています。本来は暫定的な渋滞対策として開始したものですが、新名神開通後も東西を結ぶ重要路線として多くのお客様にご利用いただいていることから現在も運用を続けています。現在よりもより安全に利用していただくため、22年度から非常駐車帯の増設工事に着手する予定です。
 管内各地の休憩施設では、2019年の改善基準告示(4時間ごとに30分以上の休憩)などの影響もあり、駐車エリア全体の混雑が顕在化している状況です。これを改善すべく、管内休憩施設の大規模な駐車マス改良に昨年8月から着手しました。22年夏ごろまでに管内で普通車マスを220台、大型車マスを123台増設する予定です。
 工事に際しては、拡張工事を行うとPAが一時的に使えなくなることから、その前に、旧鈴鹿TBを臨時駐車場としてPA化しました。同PAは目論見通り、夜は毎日、満杯の状態です。
亀山PAの改善を申し上げますと、同PAはトレーラーの比率が多いにもかかわらず、その駐車マスが圧倒的に不足していた状態でした。そのため、今回の改善工事では一列全部をトレーラーおよび大型車の兼用マスとなる箇所を設けました。
 ――それだけ、大型車の需要があったということですね
 福島 以前はトレーラーが大型車マスに止まり切れず、2台分のマスに車の首部分をまげて止めていました。それを解消するため、斜めのトレーラーマスを1列作りました。亀山PAだけでなく、大山田PAや湾岸長島PA、土山SA、鈴鹿PAも拡張します。

構造物は110橋、10チューブ 伸縮装置でシリアスな損傷
 路線的には、東名阪道が著しく老朽化 桑名東~名古屋西の区間

 ――現在の管内橋梁・トンネルの内訳は
 福島 橋梁は東名阪道で52橋、伊勢湾岸道で19橋、新名神で31橋、東海環状道で8橋の計110橋です。トンネルは東名阪道で1トンネル(2チューブ)、新名神で4トンネル(8チューブ)、計5トンネル(10チューブ)です。
 供用年数別を橋梁から申しますと、50年超が25橋、40年以上50年経過した橋梁も25強あり、全体の45%を占めます。トンネルは全て20年弱となっています。
 橋種別割合は長大橋(50m超)では鋼橋が最も多く、次いでPC橋の順となっています。長大橋の中には3橋でPCエクストラドーズド橋を採用しています。中小橋はPC橋が最多で、次いで鋼橋となっています。

路線別の橋長別延長および総橋梁延長(NEXCO中日本提供、以下注釈なきは同)

路線別の橋種別延長

 トンネルは、4,000m超~5,000mが2トンネル4チューブ、2,000m超~3,000m、1,000m超~2,000m、1,000m未満がそれぞれ1トンネル2チューブずつとなっています。NATMが4トンネル8チューブで1トンネル2チューブのみアーチカルバートとなっています。
トンネルの路線別延長

 ――管内の構造物について、点検を進めてみて感じた管内各路線の劣化状況について詳しく答えてください
 福島 橋種別で損傷を受けているのは殆どが鋼橋です。鋼桁に腐食や孔食が起きている個所も多く見受けられます。
 トンネルでは、最近開通した新名神野登トンネルにおいて盤膨れ現象が生じています。
路線的には、東名阪道が著しく老朽化しています。損傷が顕著であった橋梁では床版増厚や部分打ち換え等が実施されていますが、重交通の影響で床版の変状が進んでいます。床版の変状は路面にポットホールとして表れており、路面補修時に床版上面の補修を合わせて行っています。損傷数が本当に多い状況で、事務所のキャッチコピーにしていますが「とにかく補修しまくる」ことを行っています。
 ――特に東名阪道など供用年次が古い区間の桁支間や床版厚はどの程度なのですか
 福島 桑名東から名古屋西までの約18kmの区間は全て高架橋で、全て鋼橋となっています。弥富高架橋もここに含まれています。弥富高架橋だけでなく津島高架橋や佐屋高架橋など大規模リニューアル工事を発注している個所は、金太郎飴のように同じ構造を有しています。支間長は殆どが30~40m程度で、3~4径間連続の非合成鋼鈑桁が続いています。主桁間隔は2.5~2.9mです。床版厚が220mmとなっています。
 ――床版増厚をしている箇所はありますか
 福島 増厚している個所もあります。但し増厚施工箇所は界面に接着剤を塗布していないので、界面剥離の危険が潜在します。桁高も1.2~1.6mと比較的低くなっています。損傷が多いのはこの桑名東~名古屋西の区間です。それ以外の東名阪道では橋梁は疎に点在する状態です。それらも損傷が出ています。しかし7割方は桑名東IC~名古屋西IC、残り3割が他の区間という感じです。
 ――伊勢湾岸道などでの橋梁の損傷や劣化は
 福島 路面のポットホールなどはぽつぽつと出ていますが、シリアスな損傷があるのは伸縮装置です。平成12年から16年ぐらいにかけて造った区間では、当時大遊間の鋼製フィンガージョイントを禁止した期間でしたので、箱型フィンガージョイントに切り替わる前で、ビーム型のマウラー・マゲバジョイントを使っていました。想定を超えた交通量、とりわけ大型車が多く走っており、疲労損傷が卓越しています。さらにビーム型ジョイントは部品点数が多いため、一か所不具合があると、全体の機能不全に繋がる恐れがあります。そのため維持管理に苦労しています。
当管内ではビーム型ジョイントが77基あります。それを全部取り替える予定です。取替が完了したのは未だ20基程度であり、道半ばの状況です。ジョイントは1基あたり20t強に達します。本線では1方向(上りあるいは下り)を2分割、ランプの広幅員部では3分割して取り替えています。

ジョイント損傷例

伊勢湾岸道におけるサポートビームの破断(左、中)/ミドルビームの破断(右)

フィンガージョイントの折損状況

 ――先ほど孔食という話がありましたが、どのように損傷しているのですか
 福島 凍結防止剤の散布によって鋼材が腐食・孔食しているものです。桁端部からの漏水、また走行車両が巻き上げた凍結防止剤入りの水が下に落ち、桁に付着して生じています。腐食・孔食による損傷は桁端部の他、下フランジとウエブの溶接部など水が溜まりやすい箇所や対傾構などで生じています。基本的に当て板で直します。どうしても当て板が入らないような箇所については、今以上の腐食を防止するために、金属を含んだ特殊なパテを塗布した上に保護シートを張るような工法を採用しています。
 また、伸縮装置からの漏水などによる鋼桁端部や支承の腐食が進んでいることから、5年に一度の点検の中間で点検を行うことにより状況を把握し、迅速な補修対応を行っています。 

鋼桁の腐食や孔食状況

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