維持管理のためのデータプラットフォームの構築
パシフィックコンサルタンツは、床版取替を含む橋梁の補修設計業務において既設橋梁の維持管理に資する点群・BIM/CIMモデルを適用した主桁の当て板補強(新設床版厚の増加により補強が必要となる)や部材の追加・交換、支承取替などの設計を行っている。新設においてはBIM/CIMを適用した設計や施工を原則行うことになっているが、補修分野においては、それほど導入例がない。同社では、「補修や補強設計にもBIM/CIMを活用したモデルケースとして業務に臨んでおり、BIM/CIMに様々な属性情報を付与することで、設計や施工における手戻りを無くし、設計や施工精度の向上はもちろん、橋梁の維持管理においても、3Dモデリング化された設計情報に部材ごとの点検データを蓄積していくことで、時系列も加味した4D橋梁台帳(データプラットフォーム)として活用することを提案していく」考えだ。
既設構造物と補強部材を重ね合わせた3Dモデル
補修が必要な多くの橋梁は、供用後かなりの年数が経過しており、しゅん功図面が残っていない場合が多い。復元図作成のために従来行っていた手作業による計測に代えて、3Dスキャナを活用して「実際の形状・寸法、支障物、施工スペース等の状況をありのままに3D化する」(同社)。既設部材は、現地で取得した詳細な点群データにより3Dモデリング化し、別途CADで作成した主要部材の3Dモデルと合成して、既設構造物データを完成させる。この既設構造物データには、定期点検結果や詳細調査結果から、損傷に関する情報(コンクリートの劣化状況、鋼材の腐食状況と過去の診断結果、対象部材番号、点検年度など)を属性情報として入力した。新規に設計した支承や当て板用の鋼材についてもCADでモデリングし、既設構造物データと重ね合わせ、補修・補強後の完成形を3Dモデリング化して設計に活用した。このような手法を取ることで、設計課題が可視化され、設計の手戻りが無くなるとともに、取り合いが可視化されるため施工の精度も確保できる。
支承取替、当て板補強部材の詳細3Dモデル
3Dモデリング化した設計情報及び維持管理情報(BIM/CIM)を時系列も含めた4D橋梁台帳として活用するためには、部材ごとにどのような属性情報を与えるかが重要となる。本取り組みでは取り替える支承やその周辺、当て板などに属性情報を与えている。単に部材寸法や強度だけでなく、その前の点検情報や、設計会社や設計者氏名などの情報、施工手法、施工会社や施工者氏名の情報なども入力できるようにしており、それを3Dモデリング上で部材ごとに確認できるようにした。こうした属性情報は内容や箇所を追加することも可能。今後の点検や損傷の進行性もその都度情報を付加していくことで、「視覚的に分かりやすい橋梁台帳」(同社)としてずっと活用していくことが出来るように、独自のシステム(データプラットフォーム)を設計している。
維持管理に資する属性情報
※国土交通データプラットフォーム(URL: https://www.mlit.go.jp/tec/tec_tk_000066.html)
業界全体のデータ規格統一化
現在、様々なデータのやり取りが円滑でない問題があり、業界内のデータ規格を統一することが急務である。同社では、こうした既設構造物へのBIM/CIM適用に留まらず、鋼やPCの橋梁ファブ、下部工を施工するゼネコン、あるいはそうしたソフトウェアを構築できるベンダーなどとすでに協働して実績を積んでおり、BIM/CIMを含めたデータとシステムのオープン化によって、橋梁の新規建設から維持管理、架け替えまでを一気通貫するBIM/CIMの活用を図るため、建設コンサルタンツ協会を通じて働きかけていきたい方針だ。