道路構造物ジャーナルNET

第4回 ―スイス・日本の事例―

超緻密高強度繊維補強コンクリートによる橋梁の補修・補強

コサカ設計・アソシエーツ代表
(J-テイフコム施工協会理事)

上阪 康雄

公開日:2024.01.01

3.日本のユニークな施工例

 日本の寒冷地において、冬期の施工に関しては、特別な配慮がいる。なるべく冬季施工は避けたいところであるが、種々の事情によって、施工開始が冬季になることは稀ではない。現場打ち超高性能繊維補強コンクリートであるJ-テイフコムの冬季施工も数例あるので、ここで紹介したい。その一つは、北海道岩見沢の二股橋である(径間長2x30m、1972年架設)。ここでは、雪が散らつく中、雪を除去、舗装を切削した後、ウオータジェットで研掃し、ヒーターで床版上面を加熱した直後に、J-テイフコム20mmを施工した(図-11、図-12)。-7℃下の施工にあたっては、練り混ぜ水として、60℃の温水を使用した。施工後の養生にも注意を払い、一晩中、上面をブルーシートで囲った中、図-13右に見るようなジェットヒーターで温め続けた。こうした配慮によって、補修工事は順調に進み、工事の後、床版は徐々に乾燥状態を取り戻し、また、床版剛性も向上したことから、ひび割れの開きはほとんど無くなった。なお、本ジャーナル現場を巡る18/3/30にもレポートがあるので見ていただきたい。


図-11 気温-7℃下の岩三沢・二股橋の補修・補強(2018/3)

図-12 二股橋・補修断面図

図-13 寒冷地におけるJ-テイフコム施工

 筆者が2023年8月29日にブリュービラー教授と床版下面を視察した結果、上面からの水漏れは全く見られず、補修前のような遊離石灰も無くなり、ひび割れも微細にとどまっていることが確認できた。なお、ブリュービラー教授のコメントとして、補修時に伸縮目地にUHPFRC材を充填すれば、さらに耐久性が向上したのに、ということであった。


 (左上下)A1-P1間下面 / (右上下)P1-A2間下面
図-14 二股橋床版下面の状況の変化、上は2017/8で湿潤状態、下は2023/8で乾燥状態

 もう一つの冬季施工の事例は、京都府京丹後市に位置する単純RC桁橋、古川橋(橋長9.7m、昭和4年架設)の補修・補強工事である。古川橋の2019年1月の補強では、床版増厚に加えて、RC外桁の底部補強が追加されている。床版の増厚は20mm、RC外桁の増厚は40mmとした(図-15)。


図-15 古川橋の補修断面図、右はRC外桁下部

 外桁へのJ-テイフコム施工は、橋の側部から斜めに配置した流し込み板と油圧ショベルを用いて行った。チクソトロピー性に優れたJ-テイフコムは、片面から流し込んだ材料が、内側の主桁側面に到達し、外側と同じ高さとなる。この施工状況および施工後の様子を図-16に示す。


図-16 ユンボ(油圧ショベル)による主桁の補強と補強後

 本橋の施工でも、気温0℃下の日中作業の後、夜は-5℃まで気温が下がることから、二股橋に似た熱養生が実施された(図-17)。本橋では、J-テイフコムによる補修効果が、どれほどになるかを調べるために、FEM解析を行っている。補修前(FM1)と補修後(FM3)を比較してみると、補修後の床版コンクリート応力は、ひび割れが生じる引張応力度 1.00 N/mm2 を下回っており、一応の補強効果が期待できる。一方、主桁下面の引張応力は、26%低減され、顕著な補強効果が得られる(図-18)。これは、引張特性を有するテイフコムが鉄筋補強に似た効果を持つことによるものであり、さらにせん断耐力も高まるメリットが期待できる。さらに、J-テイフコムの引張抵抗は、9 N/mm2(マニュアル設計基準値)なので、ひび割れは発生しない


図-17 ジェットヒーターとブルーシートによる温風養生

表-1 古川橋の補強前後のFEM解析結果

 本章の最後に、劣化の著しい端横桁と支承をJ-テイフコムで覆い込んだ施工例を示す。この橋は、筆者の地元である滋賀県大津市にある鋼単純桁とRC床版より成る権現橋(橋長12.0m、1956年架設)であり、日光東照宮のプロトタイプとされる日吉東照宮への参道上にある。これまで、一度も補修されたこともなく、筆者が直々に、施主である山王総本宮日吉大社社務所に安全性の危惧を報告し、補修に持ち込んだ経緯がある。この橋を渡って比叡山高校職員の駐車場があり、時折、比叡山の伐採丸太を満載したトラックも通る。


図-18 比叡山中にある日吉権現橋

 周囲はうっそうとした木立の中にあり、坂道である参道にあるため、冬季は滑り止めとして塩化物が散布される環境にあり、点検の結果、主要部材である鋼桁の腐食、両端部のコンクリート床版の劣化、それに片側支点部の支承板・端横桁が相当腐食していることが判明した。そこで対策として、鋼桁・鋼支承の塗装塗替え補修、鋼桁の当て板補強、コンクリート床版および片側橋梁端部のJ-テイフコムによる補強等を提案し、採択された。端横桁部の施工は、2022年8月、端横桁を型枠で覆った後、床版上面から2か所の穴を開け、そこからJ-テイフコム材を流し込んだ(図-19)。


図-19 権現橋A2橋台側のみUHPFRC施工、端横桁と鋼支承を包み込む

 床版は、舗装を撤去後、ウオータジェットで研掃し、20㎜のJ-テイフコムを施工した。また、鋼桁は、旧塗装を除去後に、外桁下面および端部ウェブは鋼板で補強した(図-20)。これらの補強によって、20トン車の通行が可能となり、さらに排水設備の充実によって、耐久性が向上した。


図-20 権現橋床版のUHPFRC施工と外桁の底鋼板およびウェブ端部補強、落桁防止取付け

 なお、この橋で筆者は、片側の橋端を固定化したにもかかわらず、その上の伸縮目地を埋め込まなかったことを悔やんでいる。来年2月には、日吉大社への唯一の車道入口に位置する神苑橋の補修・補強を予定していて、そこでは、同程度の橋の両端部の伸縮目地を、J-テイフコムで埋め込む予定である。両端部目地を埋め込む方法は、スイスのFerpecle橋でも採用されており、構造系を両端固定とすることで、床版とパラペットがつながってラーメン構造となり、床版・主桁に加わる作用力が低減される。一番のメリットは、目地部からの水漏れを完全にシャットアウトできることである。デメリットは、冬季に床版・主桁が縮んだ際、両端部舗装にひび割れが発生する恐れであるが、30m以下の橋では、温度変化による伸縮量はわずかであり、しかも両側に分散されるので、懸念は少ないと言える。ただし、目地部の固定化は、できれば15℃以下でお願いしたい。

4.あとがき

 本稿では、現場打ち超高性能繊維補強コンクリート(UHPFRC)材料の今後の採用が期待される鋼橋鋼床版の補強、それに床版に加えて、主桁・横桁補強、支承板補強など、その利用範囲は多岐に及ぶことを紹介した。また、UHPFRC材料は比較的新しい材料なので、さらなる改良も期待され、用途に応じての開発も期待される。現在は、コンクリートと比較して、高額であることがネックとなることもあるが、コンクリートより薄い層で、同等の強度が確保でき、さらに引張に対しての強靭性があり、さらに水を通さないという非常に大きなメリットがあるので、今後、広範囲に普及すれば、材料単価も下がると思われる。

 特に、現時点で種々の要因から、補修工法の選択に悩んでいる管理者・コンサルタントの方々には、一度、UHPFRC補修も検討に加えて頂ければ幸いである。なお、本ジャーナルの“現場を巡る”には、高知県上吉野川橋(橋長321mの吊橋、図-21)のJ-テイフコムによる床版補強工事の詳細が取り上げられている。合わせてお読みいただけると幸いである。最後に本掲載にあたり、写真提供などに協力いただいたブリュービラー教授およびJ-テイフコム施工協会の方々にお礼申し上げる。


図-21 上吉野川橋下り線の施工完了状況

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム