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第3回 アメリカ、中国、スイス、日本の事例

超緻密高強度繊維補強コンクリートによる橋梁の補修・補強

コサカ設計・アソシエーツ代表
(J-テイフコム施工協会理事)

上阪 康雄

公開日:2023.10.01

1.はじめに

 本ジャーナル6月1日号、8月1日号に筆者はスイス、日本における超緻密高強度繊維補強コンクリート(UHPFRC)の開発の経緯、適用例について述べてきた。本号では、さらにアメリカや中国での取り組みについても紹介したい。また、スイスからブリュービラー教授をお迎えして大阪大学(会場およびウェブナー)および北海道大学(会場のみ)において開催された“橋梁のUHPFRC補修に関するワークショップ”について、その内のUHPFRC関連報告のみ概要を報告し、さらにUHPFRCの今後の展望について述べる。

2.アメリカにおける橋梁のUHPFRC補修への適用例

 米国・カナダの道路は、我々日本人が想像する以上に重要で身近なものである。その使用状況は非常に過酷であり、維持管理への社会の目は、非常に敏感である。そうした状況下では、走行性の良いアスファルト舗装よりも、耐久性を重視したコンクリート舗装が多く使用されてきた。それでも道路路面の損傷は、走行車の重量化や走行頻度の増加に伴って早まる傾向にあり、補修にあたっては抜本的な技術開発が求められている。そうした中で、コンクリート舗装の補修工事において、近年、超緻密高強度繊維補強コンクリート(UHPFRC)のOverlay(上層)利用が増えてきている。連邦道路管理局FHWAも、この材料には大きな関心を寄せており、2019年には場所打ちUHPC充填のための設計・施工指針(FHWA-HRT-19-011)が、2022年には橋梁補修・補強のためのUHPCの設計・施工指針(FHWA-HRT-22-065)が発刊されている。米国ではUHPFRCをUltra-High Performance Concrete(UHPC)と呼んでいるが、先行して利用されているのはスイスで開発されたUHPFRC材料である。

 UHPCを使用した最初の道路橋オーバーレイ工事は、アイオワ州Sheldonの国道US18に架かる1992年に建設されたプレテンションPC桁橋のフロイド河橋(L=62.5m,B=13.4m)であり(図-1)、舗装面には随所に損傷が見られ、またプレテン桁間詰め部下面には、湿潤箇所も多く見られた。2018年6月UHPCオーバーレイ補修のパイロット工事として、DOT技師・FHWA技師が見守る中、この橋梁のコンクリート舗装を、ウオータジェット切削後に厚さ44.5mmの上層を専用ミキサー、運搬車、振動機付き敷均し機を用いて施工していった(図-2,3)。このUHPC層は、防水機能を併せ持ち、さらに橋軸方向にスリットが入れられ、直接の走行面としての機能も持つ(図-4)。走行車は5000台/日、max50t車が通る。なお、施工は片側車線を通しながら、土日を除き、10日で施工された。なお、各UHPC打設面は、3日後には交通開放されている。


図-1 フロイド河橋(L=62.5m)とその位置

図-2 フロイド橋のオーバーレイ施工

図-3 UHPC専用ミキサー / 図-4 スリットを入れた走行路面

 現在も進行中のビッグプロジェクトは、デラウェア州とニュージャージー州を結ぶ吊橋、首都ワシントンとニューヨークの中間にあるデラウェアメモリアル橋のオーバーレイリニューアルである。この橋は、1951年にスイス系アメリカ技師Othmar Ammannによって建設され(全長3281m、東橋)、交通増加に伴って1968年にはほぼ同形のツイン橋(全長3291m、西橋)が建設され、現在の交通量は、東西橋合わせて8レーンで10万台/日に及ぶ(図-5,6)。2019年東橋の床版調査が実施され、損傷が著しいので、対策検討が進められ、コンクリート舗装上層を切削して、代わりにUHPC層を打設する案が、経済性、耐久性、耐荷性の視点から最適であると補修設計コンサルタントの提案があり、管理者側から、先ず試験施工を行ってみようと回答が出された。そこで2020年に数か所において、場所打ちUHPC層の試験施工が実施された。


図-5 デラウェアメモリアル橋の位置(矢印地点)

図-6 デラウェアメモリアル橋 (DRBA hp)

 試験施工のモニター状況および補修費の50年LCC試算の結果から、デラウェアメモリアル橋管理局DRBAは、東橋全体へのUHPCオーバーレイ計画を決定した。この試算によれば、UHPCオーバーレイ案のコストは約80ミリオンドル(約117億円)に対し、プレキャスト床版への取り替え案は145ミリオンドル(約213億円)に及ぶという。

 第1期工事は、2022年9月に開始され、4レーン幅18mの内、2レーンは交通開放する方針で進められた。先ず、交通を部分閉鎖した後、コンクリート舗装をウオータジェットで2インチ(50.8㎜)切削し(図-7)、2方向の補強鉄筋を設置した後、現場付近で材料をミキサーにかけ、同じ厚さのUHPC層を振動機で均しながら打設していった(図-8,9)。


図-7 WJによるコンクリート舗装のはつり

図-8 現場でのミキサー作業 /  図-9 UHPCの振動機付き敷均し

 敷設を終えたUHPCは、即座に珪砂を散布し、シートで養生される(図-10)。そして硬化した後に、走行面として路面にスリットが入れられる(図-11)。

 東橋のオーバーレイ工事は、2023年2月に第2期が始まり、8月に工事を終えた(図-12)。そして、9月から第3期が始められており、本年11月末には完了の予定である。なお、このオーバーレイ工事には、伸縮継ぎ手交換工も含められているとのことである。


図-10 シート養生 / 図-11 走行路面のスリット入れ

 なお、UHPC層の施工継ぎ目には、専用の継ぎ手鉄筋が配置され、施工後の継ぎ目は見られない。この連続性は、UHPCオーバーレイの特徴であり、今後50年以上にわたる防水性・耐久性・耐荷性によって、本橋の維持管理性は、非常に高まると期待されている。さらにUHPCオーバーレイの大規模施工技術は、多岐の面でレベルアップが図られ、東橋(NJ bound)全体のUHPC施工量は3,800m3に及ぶという。


図-12 完成した2つの車線(FHWA hp)

 以上、2件のUHPCオーバーレイ工事を紹介したが、両工事とも、スイスのヴァルチール橋やシオン高架橋オーバーレイ工事を施工した専門工が工事に加わっており、アメリカ人専門工とタッグを組んでいるとのことである。今後アメリカでのUHPCオーバーレイ技術は、より進化していくと期待される。なお、アメリカでは、鋼橋の補修・補強技術に対しても、例えば、腐食し劣化した支点部鋼材の補強技術として、UHPCの利用がパイロット事業として進められている。

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