道路構造物ジャーナルNET

③橋脚

橋梁構造物のクラック補修工

株式会社 ティ・エス・プランニング
代表取締役社長

佐藤 智

公開日:2023.11.01

はじめに

 国土交通省が定めた5年ごとの近接目視点検が必要な2m以上の橋梁は、国内に約73万橋もあり、来年度からはこれの3巡目が始まります。そのなかで、一番目を引く不具合箇所のトップに来るのが橋梁床版であろうと予想されます。
 この床版クラック調査工法の紹介は、月次で「投稿1.クラック補修材料の紹介」、「投稿2.床版の注入補修工法」、今回の「投稿3.橋脚の注入補修工法」、「投稿4.アバットの注入補修工法」と続き、最終回「コンクリート床版の調査工法」で紹介する予定です。今回は、「投稿3.橋脚の注入補修工法」として石組橋脚を例に紹介致します。

橋脚の注入補修工法

 橋脚によく発生する不具合としては、①材料を起因とした乾燥、温度、ASR等によるクラック、②施工時の不具合である、締固め不足によるジャンカや打継ぎ不良によるコールドジョイント、③供用場所の環境条件や設計条件が原因となる塩害による鉄筋腐食とコンクリートの剥離、等が知られる。ここでは、弊社が得意とする①②の不具合を対象としたクラックや隙間への充填工法について示す。

橋脚内部にあるジャンカ等の補修方法

 ここでは石積橋脚を例に、穿孔+充填による補修方法について説明する。また補修方法の具体的なイメージを、工法の施工手順に沿って示す。

 1. まずは、現状を確認する


まずは、現状を確認する

 ① 石積みは橋梁全体の意匠といえるものであり、特に石に絶対傷をつけないことが要求されることが多く、発注者協議の前に現場への下見が必須となる。
 ② 石と石の間に穿孔機械固定用のアンカー孔の削孔位置と注入用の穿孔孔の大きさを決め、該当現場に対応できる工法の選択が重要となる。
 ③ また石積み橋脚の場合、①②といった理由から、注入口の位置については入念な協議が必要となる。

2. 注入位置の選定
 穿孔においては、周辺の石材に傷がつかない場所を慎重に選定して、バランスよく位置出しを行う必要がある。


穿孔位置のイメージ

3. 穿孔機、ロングビットドリル(形式:LBD-B1)の使用
 穿孔機の固定について、コンクリート面の場合は真空ポンプと専用のゴムパットを使用して真空固定する。一方で、石積み面のように表面が凸凹形状の場合は、ゴムパットが不陸に追従しないため、打込み式アンカーを使用して固定を行う。アンカーを使用する場合も、注入口と同様に石材に傷を付けないよう細心の注意を払って削孔する必要がある。


穿孔機、ロングビットドリル(形式:LBD-B1)の使用

現場での穿孔作業

側視動画によって、ひび割れの幅等の計測が行える
 注水工程は注入材を隅々まで行き渡りやすくする効果

4. 内視鏡による穿孔内部の確認
 穿孔後は、コンクリート内部の状況を確認する。確認する方法は、工業用内視鏡を使用して内部状況を撮影し、画像を記録保存する。その際には、直視動画の他、必要に応じて側視動画を撮影する。側視動画によって、ひび割れの幅等の計測が行えるため、事前に発注者と協議をしておく必要がある。

内視鏡による穿孔内部の確認

5. 注水による孔内洗浄
 ① 穿孔部には専用の注入プラグを取付け、表面のひび割れにはシール材を使ってひび割れ部を目止めシールする。
 ② ジャンカやクラック補修を行う場合、内部には破砕した固形屑や泥水があるため、穿孔後に注水による孔内洗浄を行う。この作業は充填性を担保する上では極めて重要であり、洗浄水がきれいに透き通った水となって排出されるまで行い、その後一旦止めて、数分経過後に再度注水して汚れ水を排出する。汚れ水が出なくなるまでこれを繰返し行う。
 ③ また注水工程は、補修する石材の乾燥による吸水を防ぐと共に注入材(TSクラックフィラー®)のすべり抵抗を極力抑え注入材が隅々まで行渡り易くする効果が大きい。


内部洗浄および注水の施工状況及び概略図

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