第2回 スイスの先駆的な事例
超緻密高強度繊維補強コンクリートによる橋梁の補修・補強
コサカ設計・アソシエーツ代表
(J-テイフコム施工協会理事)
上阪 康雄 氏
1.はじめに
筆者は17~19歳の3年間、夏は穂高涸沢のテント場受付管理員バイトとして、春休みは涸沢ヒュッテの雪かき・荷役バイトとして過ごした。そうした私にとってスイスは憧れの国であり、1968年高専卒業と同時に、ナホトカ航路・シベリア鉄道経由で先ずはドイツに向かった。所持金は5万円ほど。ある人から学生になればアルバイトができると教えられ、ミュンヘン工科大学(TUM)の外国人予備コースにアルバイトをしながら1年間通って、一般6科目ほどのアビトゥア試験を受け、建設工学科の学生になった。
ドイツの国立工科大学9校の1年に入学した日本人は私だけだった。予備コース・大学とも当時、学費はゼロだったのが幸いした。ミュンヘンからツェルマットなどアルプスの麓までは比較的近く、私はヒッチハイクで多くの山に足を運んだ。
2.スイスにおけるUHPFRCの維持管理への適用例
スイスは超緻密高強度繊維補強コンクリート(UHPFRC)の開発・適用で世界をリードしており、今年の3月には“道路建設および維持管理に適用される交通省UHPFRC規準”が発刊された。本ジャーナル6月1日付で示した2004年最初の適用から現在までで、一般道・高速道への適用は実に300件におよび、UHPFRC施工量は12,500m3にもなる。その開発・研究の中心にあるのがローザンヌ工科大学(EPFL)であり、ブリュービラー教授の指導の下ですでに22人のPhDドクターが巣立っている。
ローザンヌの町の中心部FLONにある歴史的な橋梁Grand橋(1844年建設、長さ175m、幅15m)は、当初は180m、高さ25mであったが、1933年に港までのケーブルカーを敷く必要性から、大規模改修で、長さ175m、高さ13m、幅15mになった。FLONから港までのケーブルカーは、現在、地下鉄として統合され、ローザンヌのホテルに宿泊する旅行者は、滞在中無料で利用できる。
図-1 グランド橋 1890年頃(長さ180m、幅10m)/図-2 1935年頃(道路8m、歩道3+4mに拡幅)
グランド橋は、1933年の改築以来、大規模修繕はなされておらず、張出し床版や橋脚上部には、凍結防止剤による塩害劣化が顕著であった。そこで、現在の基準に適合した大規模な修繕が必要であった。ただし歴史的建造物であることから、修繕計画には道路管理者のみでなく、歴史的建造物審議委員会との協議が不可欠であった。
冬季の凍結防止剤の利用が今後も不可欠であることから、道路床版のみならず、アーチ型橋脚、アーチ天井部、アーチとの接合部を将来長期に保護できる補修・補強材として、超緻密高強度繊維補強コンクリート(UHPFRC)の採用が承認された。道路部・歩道部の床版上に30~35mmのUHPFRC層を敷設補強する。また、張出し部端部もUHPFRC製とした(図-3、図-4)。
建設費を抑えるためにおよそ1年間、道路交通は完全に遮断し、歩行者のための仮橋のみ橋に並行して架ける案が採用され、2022年に工事が開始された(図-5)。
図-3 グランド橋 標準部計画断面図
図-4 グランド橋 支点部計画断面図
図-5 グランド橋通行止めと歩行者仮橋/図-6 補修前のアーチ橋脚と張出し部
本橋は都市内交通を通す一般道であり、高速道ではないことから、UHPFRC層の上面補強のみで、鉄筋を配置するR-UHPFRCは採用されなかった。このことは施工の簡便さ・スピードにつながった。UHPFRCの練り作業は、現場にて行われ、クレーンを使用して順次、打ち込み・養生が進んでいった。図-7に現場ミキサー、図-8にUHPFRC打ち込み作業を示す。
図-7 グランド橋 UHPFRCミキサー(左は特殊セメント搬入、右は取出し)
図-8 グランド橋 UHPFRCの打込み、右は特殊振動機による均し作業
図-8左写真の木板は車道中央の施工目地であり、目地鉄筋が配置されている。また図-8右写真に見るように、車道部・歩道部に継ぎ目なくUHPFRC層が施工されている。図-9は、張出し床版端部のUHPFRC縁端部を内側、外側から見たものであり、張出し部が図-6に比べて伸びているのが分かる。
図-9 張出し床版のUHPFRC縁端部。左図黄色線まで歩道嵩上げ、右図の下は仮設足場
図-10 施工時のパノラマと施工写真の提供者・ブリュービラー教授
図-11 2023年改築後のグランド橋