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⑨在来線における降雨時の運転規制

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 斜面・土構造グループ

髙馬 太一

公開日:2023.06.16

4 部外気象情報の活用

(1) 過去の災害事例
 近年、鉄道沿線に概ね10km間隔で設置された雨量計のみでは、局地的な大雨などを把握することが困難な状況となっています。例えば、2016年7月14日に、芸備線の西三次~志和地駅間において、渓流から線路内に流入した土砂等に列車が乗り上げて脱線する事故が発生しました(図-9)。前日の夜に雨量計で徐行値に達する降雨を観測したため、運転規制(徐行)を発令していましたが、雨の降り止み後に実施する安全確認のための点検を終えて、始発列車までの間に規制を解除しました。

 しかしながら、その後の運輸安全委員会の調査結果3)によると、図-10に示すように、災害箇所付近において災害発生当時に停止値を上回る局地的な大雨が観測されていることが明らかになりました。つまり、雨の降り止み後に行った点検よりも後に、土砂流入が発生しており、当時は雨量計から離れた場所で発生した大雨を検知するには至りませんでした。こうした近年の降雨特性の変化に対応していくためには、鉄道沿線の正確な雨量分布を隙間なく面的に、かつリアルタイムに把握することが必要であり、こういった降雨観測は激甚化する降雨災害から列車運行の安全性を確保するために非常に重要であると考えています。


図-9 災害発生当時の状況/図-10 災害箇所付近の降雨

(2) 解析雨量の活用
 雨量計から離れた場所で発生する局地的な大雨を把握するために、解析雨量の活用方法を検討しました。図-11に、鉄道雨量(雨量計で観測した雨量)を用いた場合と解析雨量を用いた場合の規制状況の比較を示します。鉄道雨量では、前述の災害事例のように、離れた場所で発生した大雨は観測できていない状況ですが、解析雨量を付加的に利用することにより、沿線1kmごとの雨量分布を把握して、大雨を見逃すことなく検知できるような降雨観測体制へと改善しました。また、運転規制に用いる雨量指標には4つの指標がありますが、解析雨量では、特に雨量計間で発生する短時間の大雨を検知することを期待して時雨量を対象にしています。規制方法は停止のみで、解析雨量を用いた場合の時雨量の停止値は、各規制区間ごとに設定しています。その他の規制区間や規制解除時の点検範囲等の考え方については、従来の雨量計を用いた場合と同様にすることにより、取り扱い誤りに対するリスク低減を図っています。図-12は、こうした解析雨量を実際に活用するために導入したシステムの概要を示しています。


図-11 解析雨量の活用方法

図-12 解析雨量を活用するためのシステムの導入

5 おわりに

 連載第9回の記事では、在来線における降雨時の運転規制について、過去の降雨災害の統計的な情報、再現期間に基づく雨量規制値の設定方法、部外気象情報として解析雨量を用いた規制方法などの内容を紹介しました。

 現在は、制定した「在来線における降雨時運転規制基準作成の手引き」をもとに、降雨特性は概ね5年ごとに、防災強度は1年ごとに見直して、規制区間や雨量規制値を更新しています。また、鉄道のさらなる安全性の向上に向けて、JR西日本管内の全エリアに解析雨量を導入し、鉄道沿線で観測される局地的大雨をいち早く検知できるように備えています。今後も引き続き、ハード対策を進めるとともに、今回の記事で紹介したようなソフト対策の取り組みの精度向上を図り、激甚化する降雨災害から列車運行の安全性を確保していきたいと思います。

 次回は、「落石災害の対応」について紹介する予定です。

参考文献
1) 垣尾 徹・神野 嘉希・香川 清治・吉村 隆一:降雨に対する運転規制の見直しについて、第49回年次学術講演会、Ⅳ-114、pp228-229、1994.9
2) 鉄道総合技術研究所:鉄道構造物等維持管理標準・同解説(構造物編)土構造(盛土・切土)、pp108-115、2007.1
3) 運輸安全委員会:鉄道事故調査報告書、西日本旅客鉄道株式会社 芸備線 西三次~志和地駅間 列車脱線事故、RA2017-4、2017.6

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