塗布前の水分の除去と管理、塗布後の加温継続が大切
冬期におけるシラン系表面含浸材の間違わない塗布の仕方
■ はじめに
シラン系表面含浸材は、コンクリート表面ならびに表層を疎水化させて、コンクリート内部への水や塩化物イオンの侵入を抑える浸透性の保護材料です(図1)。現在、コンクリート構造物の劣化対策として広く使用されています。
図1 シラン系表面含浸材によるコンクリートの改質概念
シラン系表面含浸材は常温下での塗布が望ましいですが、橋梁工事の出水期の回避など工期の制約により、冬期に行われることもあります。冬期のコンクリート表面は温度が低く、川霧や結露で濡れやすい傾向にあります。シラン系表面含浸材は、主成分が加水分解してコンクリート表面や空隙壁面の水酸基と化学的に結合し、吸水抑制機能を発揮します[1]。そのため、コンクリートに水分が多く含まれていると、図2に示すように、塗布後、早期に加水分解し、表面近傍に大半の主成分が固着し、主成分が深く含浸せず、十分な厚さの吸水防止層が形成されにくくなります。
図2 湿潤したコンクリートへシラン系表面含浸材を塗布した場合の懸念
このことに鑑み、前稿では「厳しい環境下でのシラン系表面含浸材の施工の留意点整理に向けて」と題し、室内実験の結果をもとに、シラン系表面含浸材を深く含浸させるには、塗布前にコンクリートの水分を減少させることが大切であることを紹介しました。
本稿では、このことを現場で確認するため、冬期に道路橋のコンクリート主桁下面で実施した検証結果について紹介します。
■ 現場検証の概要
【現場】
現場は、北海道北斗市内の道路橋コンクリート主桁下面です。道路橋は、片側1車線、橋長7mのPC橋で、河川敷からコンクリート主桁下面までの高さは約2mです。写真1は、コンクリート主桁下面での加温の様子を示しています。現場では、単管の足場とビニールシートを使用して、塗布対象のコンクリート主桁下面の長さ3.64m、幅0.91m、高さ1.44mの空間を囲うとともに、囲いの内部にビニールダクトを配置し、熱出力が35kW、吐出口がφ455mm、熱風吐出量が45~52m3/分、暖房適応面積が167~200m2の熱風式ヒーターを使用して加温を行いました。加温のタイミングは、検証の目的にあわせて変えておりますので、これについては後述します。
写真1 コンクリート主桁下面での囲いの設置ならびに熱風式ヒーターによる加温の様子
【水分計】
コンクリート表面の水分状態を調べる方法として、一般に高周波容量式と電気抵抗式があります。ここでは現場検証に先立ち、塗布前のコンクリートの水分状態の管理に適する水分計について、事前検討を行いました。
図3は事前検討で使用した水分計です。
左は、高周波容量式の水分計です。この水分計は、長さ50mm、幅5mmの金属製の電極が35mm間隔で2本配置されており、コンクリート表面に電極を押し当てて20MHzの高周波電流を流し、水分が多いほど誘電率が大きくなる原理を利用して、誘電率の変化から深さ0~40mm範囲の含水率を0~12%の範囲で推定する仕組みになっています。
右は、電気抵抗式の水分計です。この水分計には、長さ20mm、幅5mmの導電ゴム製の電極が10mm間隔で2本配置されています。電極がゴム製のため、少々凹凸のあるコンクリート表面にも密着しやすい特徴を有しています。コンクリート表面に電極を押し当てて電流を流し、電極間の電気抵抗が水分によって変化する原理を利用して、コンクリート表面付近の含水状態を評価する仕組みになっています。この水分計には、乾燥状態のときに最小40、湿潤状態のときに最大990の電気抵抗換算値(以下、カウント値と記す)[2]が表示される機能が備えられています。
図3 使用した水分計
事前検討は、温度20℃、湿度60%の室内で行いました。はじめにコンクリート表面の湿り程度に差をつけ、塗布時(塗布を行う直前)の水分状態をそれぞれの水分計で測定しました。次にシラン系表面含浸材を塗布し、塗布2日後に吸水防止層の厚さを調べました。そして、塗布時の水分計の測定値と吸水防止層の厚さの関係を整理しました。
図4は結果を示しています。高周波容量式の水分計を使用した場合、表面の湿り程度を変えたものの、水分計の測定値は5~6%前後に集中し、同じ5%前後でも吸水防止層の厚さは0~10mmと開きがあるなど、良好に対応しませんでした。
これは、高周波容量式の水分計は深さ0~4cmの範囲を測定対象としており、シラン系表面含浸材が含浸する表層数ミリの水分状態のみ限定的に把握することが難しいことが要因と考えられます。これに対して、コンクリート表面付近の水分状態を評価する電気抵抗式の水分計を使用した場合、カウント値が小さい表面に塗布すると、吸水防止層の厚さは大きくなる傾向が明確に示されています。
図4 塗布時の水分計の測定値と吸水防止層の厚さの関係
そこで、シラン系表面含浸材を塗布する前に行うコンクリート表面の水分状態の管理方法として電気抵抗式水分計が有効と考え、現場検証で使用することにしました。
【シラン系表面含浸材、吸水防止層の厚さ測定】
写真2はコンクリート主桁下面でのシラン系表面含浸材の塗布の様子です。ここでは、国土交通省北海道開発局道路設計要領 第3集 第2編 参考資料B[3]に示されている選定目安を満たす材料A、Bの2製品を使用しました。いずれの製品も、主成分はアルキルアルコキシシランです。なお、塗布量は統一せず、製造会社が指定する標準量としました。
そして、塗布1~2ヶ月後にコンクリート主桁下面からφ2cm×2cm程度のコアを採取し、その後、コアを割裂し、割裂面に水を噴霧して、撥水を呈した範囲をシラン系表面含浸材の含浸によって形成された吸水防止層と判断し、厚さをノギスで測定しました。
写真2 シラン系表面含浸材塗布の様子