6 耐震補強方法
前述した内容に基づき,現状(補強前)の各橋梁モデルに対する時刻歴応答解析を行った(図-2 (a)の「耐震評価」に相当)結果、全解析モデルの傾向として、L2spcⅠに対しては、所要の耐震性能を満足すること、L2spcⅡに対しては、上部工を支持する桁支承の一部が損傷する恐れのあることを確認しました。以下に、耐震補強方法の考え方と解析結果の例を示します。
L2spcⅡに対しては、桁支承や既設落橋防止装置が損傷し、表-8に示す通り、橋梁両端において著大な桁ずれが生じ、それに伴ってピボット支承の回転角が限界値を超える可能性が考えられたため、写真-2や図-7に示す橋脚間へのブレース補強やピボット支承への逸脱防止装置の設置を基本とし、桁ずれ量が大きい場合には落橋防止装置(桁座拡幅等)による対策を組み合わせることとしました。このように、ロッキング橋脚橋梁の全体構造系を変化させることなく、大規模地震時に弱点となる桁支承部等の損傷レベルが要求性能を満足するように補強設計を実施しました。また、図-2の検討フローに基づき、補強条件を付与した時刻歴応答解析によって補強効果や、補強によって新たな弱点部位が生じていないか等の検証を行いました。
なお、桁下の建築限界の関係からブレース補強等ができない一部の橋梁については、桁支承の損傷後においても桁ずれを抑制できるような補強方法を検討しました。
下部工への影響を考慮すると、制震デバイス(せん断パネル型制震ストッパー8)やブレーキダンパー9))のエネルギー吸収性能により下部工の応答を小さくすることが期待できますが,一方で,十分有効なエネルギー吸収性能を発揮するためには,装置が大掛かりとなり、狭隘な桁座への適用が難しくなることも考えられました。そのため、鉄道総研と連携して新たに開発したコンパクトな制震デバイス10)を採用することとしました(図-8)。
ロッキング橋脚橋梁は、明治~昭和初期に建設され、都市内の線区(緊急輸送道路や鉄道との交差部)に多く存在していることから、補強工事の実施段階においては、関係協議、インフラ(鉄道の電気設備含む)の支障移転、現場施工条件(既設構造物の調査や作業時間帯)など多くの課題がありました。そこで、現地測量においては地上レーザースキャナ(3次元測量)により、ロッキング橋脚の鉛直性(橋脚間の通り)やリベット位置などを入念に測定し、設計・製作段階においてブレース補強部材(連結部ガセットプレートの一部に拡大孔を採用)や、リベットから高力ボルトへの交換範囲等の検討を実施しました。
今回実施した耐震補強方法は、文献11~12に示される道路橋のロッキング橋脚に実施した構造変更の伴う補強ではありませんが、橋梁全体系モデルでの耐震診断を行うことで、橋脚間へのブレース補強等を中心とした対策効果を検証し、落橋防止や復旧性の向上に資する効果的な耐震補強を実施しました。また、道路ジャーナルNETで紹介されている補強事例13)等から設計施工の留意点やノウハウ等を参照するとともに、工事関係者と課題解決に取り組むことで、大きな手戻りを発生させることなく耐震補強工事を計画通り進めることができました。
2022年12月時点で、9割以上のロッキング橋脚において耐震補強を完遂しており、2022年度末までに省令対象橋梁の耐震補強を完了する予定です。
7 おわりに
連載第4回の記事では、JR西日本管内のロッキング橋脚橋梁を対象とした耐震診断および耐震補強の内容について紹介しました。今回の耐震補強により、大規模地震に対する安全性が向上し、地震発生後の早期の運転再開等につながることが期待されます。JR西日本では、南海トラフ地震や自然災害に備え、他の構造物への対策も順次進めています。これからも新技術等を導入しながら、さらなる安全性向上に向けて取り組んで参ります。
次回からは、基礎・トンネル構造物の維持管理について紹介する予定です。(次回は2023年2月16日に掲載予定です)
参考文献
1) 国土交通省:社会資本整備審議会 道路分科会 第5回道路技術小委員会,配布資料4-1(課題・論点に対する今後の対応(橋梁分野)),https://www.mlit.go.jp/common/001136051.pdf
2) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 耐震設計,丸善,2012.9
3) 和田一範,池田学,青木千里,工藤伸司,齋藤聡,黒田智也:ピボット支承を有する旧式鋼鉄道橋の構造形式の違いによる地震時挙動への影響,構造工学論文集,Vol.60A,pp.303-315,2014.3
4) 鉄道総合技術研究所:ピボット支承を有する旧式鋼構造物の耐震評価および耐震補強の手引き,2015
5) 鉄道総合技術研究所:兵庫県南部地震鉄道被害調査報告書,鉄道総研報告,特別第4号,p.151,1996.4
6) 中原正人,池田学:鋳鉄製支承の地震時耐荷力特性と復元力モデル,鉄道総研報告,Vol.22,No.3,2008.3
7) 鉄道総合技術研究所編:鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造物,丸善,1992.10
8) 橋梁用デバイス研究会:せん断パネル型制震ストッパー 設計・施工要領 Ver.2.0,2011.6.14,http://takadakiko.com/products/bridge/earthquake/pdf/sendan_const.pdf (参照2020.7)
9) 大林組:ブレーキダンパーカタログ,https://www.obayashi.co.jp/solution_technology/upload/img/tech004.pdf (参照2020.7)
10) 名波健吾,和田一範,豊岡亮洋,土井達也,福本守:狭あい箇所に施工可能な制震機能を有する 落橋防止装置,日本鉄道施設協会誌,p.283-286, 2022.4
11) 六車晋也,中岡仁志,金光宏司,志熊隆,青山智明,江英二:ロッキング橋脚を有する特殊橋梁の大規模地震対策(追分橋耐震補強工事),橋梁と基礎,2017.3
12) 西谷朋晃,岩尾省吾,工藤昌生:平成28年熊本地震で被災したロッキング橋脚を有する橋梁の構造変更について,土木学会第72回年次学術講演会(平成29年9月)
13) 道路ジャーナルNET
蝉丸橋・追分橋耐震補強https://www.kozobutsu-hozen-journal.net/walks/11338/
第二跨道橋現場記事https://www.kozobutsu-hozen-journal.net/walks/11584/
山家橋現場記事https://www.kozobutsu-hozen-journal.net/walks/11418
首都高赤羽橋現場記事https://www.kozobutsu-hozen-journal.net/walks/16494/
同浜崎橋現場記事https://www.kozobutsu-hozen-journal.net/walks/15945/
中国道安倉橋現場記事https://www.kozobutsu-hozen-journal.net/walks/11485/