道路構造物ジャーナルNET

④ロッキング橋脚橋梁の耐震補強

JR西日本リレー連載 鉄道土木構造物の維持管理

西日本旅客鉄道株式会社
鉄道本部 構造技術室 鋼構造グループ

北 健志

公開日:2023.01.16

5 時刻歴応答解析モデル

(1)  構造全体系モデル
 図-2に示したとおり、耐震診断および補強検討においては、構造全体系モデルでの時刻歴応答解析を行うことが推奨されており、今回の検討においてもこれに従っています。ただし、対象橋梁を1橋ずつ詳細にモデル化することは、合理的でないと考え、類似する橋梁をグループ化し、それらを包絡するダミーモデルを作成して、その解析結果をグループ対象橋梁すべてに適用することとしました。例えば、複線3主下路プレートガーダー11橋のうち2径間もしくは3径間であるものは9橋あり、これらの9橋を1つのグループとしました。これら9橋についてはスパンや重量、斜角度等の諸元が異なることから、文献4)の知見をもとに、ロッキング橋脚橋梁の弱点箇所である桁支承とピボット支承の応答がそれぞれ最大になる2つのダミーモデルを作成しました。一例として複線3主下路プレートガーダーの解析モデルを図-4に示します。

(2)  各部材のモデル化と照査指標
(a) 上部工の鋼桁部材
 鋼桁部材については、鋼桁各部材をモデル化せず、図-4に示すとおり、桁を1本の梁要素としてモデル化し、断面力に対する照査を行いました(表-1)。鋼桁の大規模地震時の損傷としては、過去に支承部周辺において主桁下フランジ等に局所的な変形が発生した事例5)がありますが、桁全体が座屈するといった大規模な損傷は考えにくいことから、モデルを単純化しています。

(b) ロッキング橋脚
 ロッキング橋脚については、文献4)にて提案されている線形梁要素としてモデル化し、上下端がピン構造であるため、軸力に対する照査を行いました(表-2)。

 なお、橋脚間にブレース補強を施した場合には、橋脚に曲げやせん断力も生じることになるため、剛性の大きいブレース材をピボット支承近傍に取付けることでこれらの影響を小さくし、曲げおよびせん断で損傷しないようにしました。また、ブレース補強を行った場合、鋼桁本体とピボット支承との連結部において水平力が増加するため、連結部の照査を行うこととしました。

(c) ピボット支承
 ロッキング橋脚上下端のピボット支承については、ピボット支承の交番載荷試験等に基づく、図-5に示す部材構成則4)を設定したばねを、ロッキング橋脚上下端の節点に設けました。また、損傷レベルは、いずれの地震動に対しても損傷レベル3を要求性能としました(表-3)。
 なお、ピボット支承の損傷レベル3とは、橋脚がピボット支承から逸脱しない限界値で、図-5に示す支承の回転角θ4に相当します。

(d) 桁支承および落橋防止装置
 桁支承については、交番載荷試験等に基づき提案されている部材構成則6)を設定したばねを鋼桁両端の節点に設けました。桁支承の構造は線支承(鋳鉄製)であり、支承配置は固定・可動方式です。また、L2地震動において支承本体が損傷する可能性が高いと考えられたため、桁支承の損傷レベルは、表-4のとおり設定しました。

 なお、桁支承の損傷レベル3とは、耐震標準が示す「桁ずれや一部の装置の破壊を含む損傷はあるが、落橋はしない」状態であり、具体的には線支承本体において、ソールプレートもしくはサイドブロック(図-6参照)のせん断破壊が生じている状態を許容しています。この線支承が損傷した状態において、「落橋はしない」ことを満足するかどうかについては、落橋防止装置の照査を行うこととしました。本検討では、落橋防止装置として桁座拡幅と鋼製装置の2種類を想定し、それぞれの損傷レベルおよび照査指標を表-5のとおり設定しています。

 落橋防止装置のうち桁座拡幅については、要求性能と目標性能を設定し、目標性能を満足させることを目標に検討を進めました。具体的には桁ずれ量について、要求性能(損傷レベル3)では、橋軸方向は桁かかり長以下、橋軸直角方向は線支承の線支持幅(420mm)以下に収めることとし、これは桁が線支承からは落ちている可能性があるが、落橋はしていない状態を想定しています。次に、鋼製装置とは、既設落橋防止装置のことであり、一般には橋軸直角方向の落橋防止対策として設置しているものです。鋼製装置の目標性能は、耐震標準に定める損傷レベル2(桁ずれの少ない比較的軽微な損傷)としました。鋼製装置が設置されている橋梁については、図-4に示すように、鋼製装置に相当するばねを桁支承ばねに並列して設けました。

(e) 下部工
 在来線のロッキング橋脚橋梁の両端を支持する下部工(コンクリート製)は、建設年代が古く、明瞭な配筋図が残っていないものが多くありました。そのため、本検討の時刻歴応答解析において下部工の損傷レベルを考慮するために、図-4に示すように下部工の挙動を簡略的に模擬した完全弾塑性ばねとしてモデル化することとしました。このばねのモデル化において、上記の降伏震度に有効重量を乗じて求まる下部工の降伏点荷重、および初期剛性を設定する必要があり、これらの算定は、「鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造物(1992年10月)」7)の付属資料9に準じることとし、RC下部工の照査指標を表-6のとおり設定しています。

 以上、本節で述べた、本検討における設計地震動と耐震性能レベル、およびそれに応じた各部材の損傷レベルの限界値についてまとめたものを表-7に示します。

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム