薄型BP支承では支圧板とすべり板間の設計上の摩擦係数を安全側で0.35と設定
(2) 載荷試験による摩擦係数の検討
薄型BP支承では、支圧板(SUS板)とすべり板(SUS板)間がすべり面となりますが、このときの摩擦係数は明らかではありませんでした。そこで、支承の基本特性である支圧板とすべり板間の摩擦係数を把握するため、二軸載荷試験を行いました。
二軸載荷試験装置の概略図を図-3に示します。鉛直および水平方向に油圧ジャッキを設け、一定の鉛直荷重を載荷した状態で水平方向に載荷しました。試験条件として、薄型BP支承ではゴムプレートの許容支圧応力度を20 N/mm2としているため、鉛直荷重は表-4に示す4種類で摩擦係数の面圧依存性を確認しました。また、本試験では水平荷重は片押し載荷とし、載荷速度は人力による油圧ジャッキの操作速度を低速・中速・高速と3段階に変化させて、比較的緩速での摩擦係数の速度依存性を確認することとしました。
試験体はスパン20mの上路桁への適用を想定し、標準的な形状および寸法としました。図-4に試験体の基本寸法を示します(以下、標準型)。また、薄型BP支承のコンセプトとして、摩耗した部材を比較的容易に交換できることを挙げていますが、ここでは支圧板のみ交換するケースを想定し、実橋から取り出したすべり板を用いて、古材と新材を組み合わせた試験体を作成し、摩擦係数を確認することとしました。さらに、支承取替え時の施工誤差として、支承が多少傾いた状態でセットされるケースを考え、橋軸方向に1度の勾配を有するテーパープレートを取付板と下沓の間に設けた試験体を作成し、このときの摩擦係数を確認することとしました。
二軸載荷試験から求めた摩擦係数を図-5に示します。ここでは、支圧応力度やすべり速度と摩擦係数の関係を示しています。載荷試験は同一試験条件において3回ずつ行っており、図ではすべての結果をプロットしています(支圧応力度20 N/mm2については、標準型のみ実施)。
図-5より、支圧応力度の違いによる摩擦係数の変化として、標準型の静摩擦係数では20 N/mm2で他よりも0.03程度低い値を示していますが、その他のデータでは、支圧応力度の違いによる摩擦係数の変化は見られませんでした。また、すべり速度の違いによる動摩擦係数の変化も見られませんでした。試験体別で比較すると、古材、勾配付、標準型の順で摩擦係数が高く、古材の摩擦係数は標準型に比べて平均値で0.13~0.14高い値となっていました。これは、古材は新材と比べると表面が粗いためと考えられます。
支承の設計では、常時状態において支承に作用する水平力として、橋軸方向(可動側)では鉛直反力に摩擦係数を乗じた値を考慮しています。試験結果から、摩擦係数の最大値は、古材時において静摩擦係数が0.318、動摩擦係数が0.306であったことから、薄型BP支承では支圧板とすべり板間の設計上の摩擦係数を安全側で0.35と設定しました。
圧縮リングの仕様変更
(3) これまでに実施した主な構造改良3)
薄型BP支承の開発では、様々な視点から課題を捉え、構造改良を重ねることによって維持管理性や復旧性の向上に努めてきました。
一例として、圧縮リングの仕様変更が挙げられます。図-1で示したとおり、薄型BP支承では圧縮リングによりゴムプレートを上沓の拘束板内に押し込んでいます。圧縮リングは外径を拘束板の内径より2mm大きく製作し、切れ目を設けています。この切れ目を閉じるようにリングを縮めた状態で拘束板内に押し込むことで、圧縮リング外縁を拘束板内面に密着させて隙間を塞ぎ、拘束板内にゴムを密閉する構造としています。密閉ゴムには大きな圧力が作用するため、ほんのわずかな隙間からでもゴムのせり出しが生じる可能性があり、過去に試行箇所で実施した調査では、一部の橋りょうで写真-4に示すようなゴムプレートのせり出しが確認されています。そこで、図-3に示す現行の薄型BP支承(標準型)では、圧縮リングの幅を従来の10mm、1枚タイプ(以下、従来型)から、20mm、2枚重ねに変更しています。この仕様変更により、ゴムプレートのせり出しの抑制が可能か、一軸載荷試験による検証を行っています。
一軸載荷試験の試験体設置状況を写真-5に示します。試験体はすべり板を省略するとともに、支圧板下部の嵩上げを行い、鉛直変位計を設置しています。載荷荷重は、許容支圧応力度(25N/mm2)に相当する荷重の約1.6倍である1500 kNとし、載荷回数は50回としています。図-6に荷重と変位の関係を示します。
標準型、従来型ともに鉛直荷重100 kN程度で勾配が変化し、その後は弾性挙動を示しています。この勾配変化は、ゴムプレートが上沓拘束板内に完全に密着されたことによるものと考えられ、このときの標準型と従来型の変位量の違いは、圧縮リングのサイズの違いにより、ゴムプレートの体積が異なることによるものと考えられます。また、図中では実橋における設計荷重値の一例を示していますが、列車荷重+衝撃による変位量は0.3mm程度であり、列車走行安全性としては問題のない値であることがわかります。
載荷後、標準型では、圧縮リングの切れ目部で僅かなゴムの膨れが見られましたが問題はなく、特に変状は見られませんでした。一方、従来型では、圧縮リングの外縁と拘束板の僅かな隙間からゴムのせり出しが確認されました。試験結果から、圧縮リングの仕様を改良することで、ゴムプレートのせり出しは抑制できることが期待できるため、圧縮リング幅20mm、2枚重ねを標準的な仕様としました。
その他の構造改良として、サイドブロックの取付方法の変更があります。写真-6は、地震時の水平力によってサイドブロックが損傷した事例です。サイドブロックは地震時に被災しやすく、支承周辺のスペースが狭隘で代替の移動制限装置が設けにくい場合は、対応に苦慮する場合があります。そこで、地震などの異常時外力によってサイドブロックが損傷した場合を想定し、サイドブロックの取付方法を写真-7のように溶接取付からボルト取付に変更しました。
ボルト取付タイプは下沓にサイドブロックをはめ込む構造としており、下沓とサイドブロックの接触面で水平力に抵抗します。なお、設計上、取付ボルトに水平力は作用しませんが、偶力として作用する引張力に対して必要なボルト径および本数を決定しています。
この変更により、地震時にサイドブロックのボルトが破断した場合でも、容易に部材交換が可能となります。また、摩耗した部材を交換する際にサイドブロックを取り外せば、部材を橋軸直角方向にも引き抜くことが可能となり、施工性の向上にも寄与しています。
4 おわりに
連載第3回の記事では、線支承の取替え用の支承として開発した「薄型BP支承」について、構造特徴や導入のメリット、また、実橋への導入のために実施した各種検討内容などを紹介しました。
薄型BP支承は支承高さを従来の線支承と同等の高さまで抑え、将来の部材交換が比較的簡易にできる構造としています。そのため、薄型BP支承への取替えは、従来の線支承やBP-B支承への取替えと比較して、労力低減や工期短縮、維持管理性向上につながることが期待されます。
今回、これまでに実施してきた主な構造改良についても紹介しましたが、今後も引き続き薄型BP支承の長期的な耐久性を確認し、必要により改良を検討していく予定です。
参考文献
1) 西田寿生,木村元哉,山田不二彦,古市 亨,松井繁之:鋼鉄道橋における交換用支承の開発について,構造工学論文集Vol.65,pp.419-431,2019.3.
2) 土木学会: 道路橋支承部の改善と維持管理技術(鋼構造シリーズ17), p.39,丸善, 2008.5.
3) 山口真,木村元哉,西田寿生:鋼鉄道橋における交換用支承の開発と改良,日本鉄道施設協会誌,p.962-965, 2022.11.