道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊷

北海道におけるコンクリートの品質確保の取組み

国立研究開発法人 土木研究所
寒地土木研究所
寒地保全技術研究グループ 耐寒材料チーム
主任研究員

吉田 行

公開日:2021.02.24

4.北海道における品質向上の試行工事

4.1 試行1年目(平成29年度)試行現場の選定
 国土交通省において「コンクリートの品質向上に向けた試行について」の事務連絡が発出されたのが平成29年7月19日でした。対象工種は、橋梁下部工(橋台、橋脚)とトンネル(覆工コンクリート工)であり、北海道開発局と沖縄総合事務局を含め各地方整備局で対象工事1件以上の試行工事を行うというものです。これに基づき、国道交通省北海道開発局では、道南の函館開発建設部管内におけるトンネル覆工工事と橋梁下部(橋脚)工事の2件を選定しました。試行現場を選定したのが7月末であり、当該年度中に試行が実施可能な工事に限定されていたため、既に稼働中の工事に試行が組み込まれ、トンネル覆工工事における試行の1回目は9月7日、2回目が9月11日に、橋梁下部工については1回目が9月8日、2回目が9月27日の予定になりました。

4.1.1 試行現場の事前調査と意見交換会の実施
 本試行における試行要領では、有害なひび割れに代表されるコンクリートの初期欠陥の抑制と表層品質向上が目的であること、および「コンクリート施工状況把握チェックシート」と「表層目視評価シート」を用いて発注者が状況を確認し、改善すべき事項があれば次リフトまたはスパンで改善するよう受注者に通知して対応させるという流れとともに、参考資料として東北地整の「コンクリート構造物の品質確保の手引き(案)(各編)」を参照することが示されていました。一方、この事務連絡が発出された時点では、北海道においては前述のように北海道土木技術会での勉強会が始まった段階であり、品質確保に関する全国的な動向や背景は現場の末端までは周知されていない状況でした。チェックシートはその本質を理解していなければただのチェックで終わってしまう可能性もあり、今後も品質確保に向けた取組みを継続していく必要があることから、試行前に取組みの背景・目的やチェック(点数付け)のポイント説明と意見交換会を開催することで北海道開発局道路建設課と調整し、試行直前の9月6~7日に函館開発建設部において現場視察と発注者職員との意見交換を行うこととなりました。

 トンネル工事は現場稼働の関係から事前視察が困難だったため、9月6日に橋脚工事の現場を視察しました。図-4は橋脚の打設計画を示しており、視察時には既に底盤部と脚柱の第1リフトの打込みが終了し、試行は第2リフトと第3リフトで行われました。写真-1は橋脚視察時のものであり、既に打込まれた第1リフトで表層目視評価の練習を行う予定でしたが、脱型後に養生シートによる延長養生を行っており中止しました。なお、現場ではブリーディング処理への対応準備や、型枠継目に止水テープによる漏洩対策が施されるなど、養生の延長を含め品質確保に対する意識が高いと思われる工夫がいくつか採用されていました。

 翌日は試行工事について監督支援業務技術者を含めた発注者側職員と意見交換を行いました。最初に筆者から試行工事の目的・意義と背景について説明し、続けてチェックシートのポイントと目視評価の点数付けに関する参考動画を確認しました。最後に全体で意見交換を行い、以下のような意見が出されています。
・施工状況のチェックは毎回しないとダメなのか?(全国的な頻度は?)
・今後このような取組みは全国展開するのか?
・トンネル工事でスライドセントルの中の確認が困難(検査窓は施工者も確認しているのでチェックが困難。特に下部のチェックが困難)
・朝7:30から準備工をチェックし、全工程だと14時半くらいまでかかるが、全工事では対応できない
・時間外勤務縮減もありチェックは職員で無くても良いのでは?
・改善策の事例集を委員会等で作成してもらえると有用(ビフォーアフターのように)

 施工前だったため、チェックの頻度や担当職員が現場に臨場することなど、対応の困難さに関する意見が多くありましたが、チェック自体が重要では無く次のステップにつなげて改善を図ることに意義があるため、効果を明確にするには初回打込み時には必ずチェックを実施し回数を重ねるのが良いこと、北海道は現場までの移動時間も長く全国共通の運用で困難な点があれば事後アンケート調査でフィードバックすべきであること、チェックシートを施工者との会話ツールとして使うのが良いこと等を助言しました。

4.1.2 橋脚における試行結果
 コンクリート打込み時の施工状況把握チェックシートには、特に問題は記録されていませんでした。図-5は表層目視評価の実施結果を示しています。グラフ上段が試行1回目の2リフト目の評価点、下段が2回目の3リフト目の評価点です。なお、この現場ではベテランと若手の発注者職員と監督支援業務技術者の3名で評価されています。全体に評価点は高いものの、②表面気泡と⑤砂すじで評価点が下がっており、2回目で改善傾向がみられました(図中○印。△は逆に下がった点)。なお、評価者によるばらつきは小さく、評価点が低い箇所では複数評価者で下がる傾向がありますが、ベテラン職員は厳しめに評価する傾向もうかがえます。写真-2は試行前に打込みを完了していた第1リフトにおける表層の不具合です。第1リフトの不具合も比較的軽微ですが第2第3リフトより評価点は低く、相対的に試行の効果があったことが報告されています。

4.1.3 トンネル覆工コンクリートにおける試行結果
 図-6はトンネル覆工コンクリートの試行工事箇所を示しており、当該工事においては、起点側抗口から150m程度中のスパンから内部に向かって施工が開始され、最後に施工開始点に戻り抗口に向かって施工される計画となっていました。試行は、抗口に向かって施工される12スパン目と11スパン目で実施されています。コンクリート打込み時の施工状況把握チェックシートには、特に問題は記録されていません。図-7は表層目視評価の結果を示しています。表の上段が1回目施工、下段が2回目の評価点です。1回目の評価で、表層の気泡や砂すじの改善指摘があり評価点も下がっています。また、部位としては、アーチから側壁部の気泡、検査窓部の段差の改善指摘があり、対策として気泡の抜けやすい軽便タイプのバイブレータの使用と検査窓の調整が行われています。結果として、2回目の評価で側壁の気泡と砂すじが改善し評価点も上がりましたが、検査窓の部位に関しては課題が残ったようでした。

4.2 コンクリートの品質確保に関する試行工事1年後の現場調査と意見交換
 平成29年度に試行工事を実施した現場と調整し、試行1年後に構造物調査と意見交換(7月30日~31日)を行っているのでその状況を紹介します(主催:北海道土木技術会、共催:土木学会350委員会)。

4.2.1 試行1年後のトンネル覆工コンクリートの調査
 施工者から試行工事の状況説明があり、参加者全員で覆工コンクリートの近接目視調査を行いました。写真-3は試行箇所2スパンであり、1回目の打ち終わり部に色むらがみられましたが2回目はそれも無く、前述の表層目視評価では検査窓の部位に課題が残ったとのことでしたが、特に目を引く不具合は見られず試行対象の2スパンはいずれも良好でした。一方、試行後はトンネル抗口に向かって残りの施工(10スパン程度)が行われていますが、試行対象スパン以降目視評価等は実施されず、2回目の試行時に実施した対策が最後まで継続されています。しかし、試行以降でスプリングライン(SL)下の気泡、打ち終わり側の目地部の欠損(写真-4)、SL上の豆板(写真-5)等の不具合が一部確認され、施工者から最終工区頃にはセントルも痛み、直しながら実施していたのでその影響が考えられると説明がありました。また、試行前に施工されたトンネル奥側においても、写真-6に示すように打ち終わり側の目地部で一部不具合がみられました。横浜国立大学の細田先生から、スパン打ち終わり側の目地部の欠損についてはブリーディング等が最終的にたまりやすい箇所であり、弱点となる可能性が高いためその部分に欠損が生じた可能性があることが指摘されました。なお、表層の透気や吸水性については、トンネル全面が結露しており測定できませんでした。

4.2.2 試行1年後の橋脚コンクリートの調査
前日と同様、施工者から試行工事の状況説明があり、参加者全員で橋脚の近接目視調査を行いました。4.1.1節で述べたとおり、試行は第2リフトと第3リフトで実施され(写真-7)、ひび割れ解析を独自に行ってひび割れ誘発目地を設置したほか、型枠継ぎ目の止水テープの使用と養生シートによる追加養生(材齢28日まで貼付け)は技術提案で行ったとのことでした。目視評価で砂すじがみられたため、意識して施工したと報告がありましたが、全体にひび割れもなく砂すじやノロ漏れもほとんど確認できませんでした(写真-8)。参加者の上北建設の音道氏から、型枠の段差が僅かに見られる箇所でも砂すじ等が確認できないのは、止水テープ等を適切に使用していた結果と思われるとのコメントがありました。

 透気、吸水試験を試行前の第1リフト上部と試行後の第2リフト下部で実施し(写真-9、写真-10)、第1リフト上部の透気係数は1.1(×10-16m2)、第2リフト下部は0.10(×10-16m2)程度で、試行前の第1リフト上部は相対的低かったものの、それでも東北地整の表層品質の目標値程度の品質でした(写真-10)。第1リフト上部の品質が相対的に低いのは、ブリーディング等に起因したものと考えられ、第1と第2リフトの境界から少し下方の透気係数は0.09(×10-16m2)と極めて良好でした。丁寧に施工することで見た目だけでは無く透気性等の品質も良好となることが確認できました。施工者からは、試行により、着眼点を再確認でき、現場作業員が勉強する良い機会になったとの意見がありました。

 以上、試行後の現地調査から、試行箇所はトンネル、橋脚ともに良好で、丁寧に施工することで見た目だけでは無く透気性等の品質も良好となるなど、試行の効果を確認することができました。一方、トンネルのように長いスパンで継続的に工事が行われる場合には表層目視評価を複数回実施し、不具合が生じた場合には適宜対応することが重要と思われます。また、橋梁の場合、1橋脚だけではコンクリート打込みの施工区分が少ないため改善効果を実感しにくいこともありますが、橋梁工事は一般的には複数の橋脚や橋台等の工事が行われるため、1橋梁として情報を共有しながら進める必要があると思われます。そのためには、山口県で行われているようにデータベース化する等により施工状況や表層目視のデータを共有し、受注者が変わった場合や別の橋梁工事においても活用できるシステムの構築が望まれます。

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