道路構造物ジャーナルNET

シリーズ「コンクリート構造物の品質確保物語」㊷

北海道におけるコンクリートの品質確保の取組み

国立研究開発法人 土木研究所
寒地土木研究所
寒地保全技術研究グループ 耐寒材料チーム
主任研究員

吉田 行

公開日:2021.02.24

1.はじめに

 北海道は日本最北に位置しており積雪寒冷地であるとともに四方を海で囲まれているため、北海道のコンクリート構造物は厳しい気象・使用環境作用を受けています。このため、長期的にその機能や役割を果たすには、コンクリートの品質や耐久性を十分確保する必要があります。一方、同じ積雪寒冷地である東北地方においては、この連載でも多数紹介されていますが、震災に伴う復興事業を契機として品質や耐久性確保の取組みを実践され、品質や耐久性確保の方向性や実践するために必要な事項を示した多くの技術資料が提案されています。しかし、北海道と東北地方では気象・使用環境が異なる点も多く、北海道単独でも地域により異なることから、適切な対策を講じるには地域特性を踏まえた議論が必要となります。

 図-1はコンクリート構造物の品質確保小委員会(土木学会350委員会)の活動と連携した、北海道と全国の活動状況を示したものですが、本稿では、北海道におけるコンクリート構造物の品質・耐久性確保に関する議論状況と、平成29年度から北海道開発局と沖縄総合事務局を含め国土交通省の各地方整備局に通達された、「コンクリート施工状況把握シート」及び「表層目視評価シート」の活用によるコンクリートの品質向上に向けた試行工事の北海道における取組み状況について紹介します。

2.北海道土木技術会における品質確保関連の活動状況

 北海道において土木学会350委員会に関連する品質や耐久性確保について議論を始めたのは、350委員会の第1期活動期間中の2016年3月になります。筆者が第1期350委員会に参加したのは2015年11月に開催された中間ワークショップからですが、施工状況把握チェックシートや表層目視評価など、表層品質向上のために一見手間がかかりそうなことを産官学が一体となって実践していたことに衝撃を覚えた記憶があります。設計段階におけるコンクリートの耐久性等の照査は初期欠陥がないことを前提として行われるため、初期欠陥がない構造物をつくるための取組みは大変重要と考え、各地域で実践されている品質確保の取組みを北海道で広げるための契機と議論方法を模索していました。そのような中、北海道の土木技術の向上、発展を目的として産官学で構成された北海道土木技術会において議論する機会をいただきました。そのきっかけは、北海道土木技術会の中に設置されているコンクリート研究委員会設計仕様小委員会の井上雅弘幹事(当時、株式会社ドーコン、現在、株式会社長大札幌支社)から、北海道の地域特性を踏まえたコンクリート構造物の高耐久化について議論する場として、設計仕様小委員会の中に新たにWGを立ち上げることを提案いただいたことに始まります。井上幹事は、東北の震災後の2011年10月~2015年5月まで株式会社ドーコン東北支店で勤務されており、東北地方における品質確保の取り組みを間近で見て東北の実情に詳しく、筆者の350委員会での活動状況と併せて、①コンクリート構造物の高耐久化に関する全国の動向把握、②北海道おける「高耐久化」の目的、③北海道の特性を考慮した高耐久化のあり方、について議論することを当面の目標としました。

 2016年10月に開催した第1回目のWGを皮切りに、2017年5月開催の北海道土木技術会コンクリート研究委員会平成29年度総会・講演会では、横浜国立大学大学院細田暁准教授(当時)に「山口県発コンクリート構造物のひび割れ抑制・品質確保と過酷環境下での耐久性確保の実践」と題して講演いただいたことや、後述する国土交通省の品質確保に関する試行工事1年後の構造物調査と意見交換会(北海道土木技術会と350委員会の共催(2018年7月))を含め計6回WGを開催しています。WGでは、350 委員会の動向、東北の耐久性確保に関する動向および北海道における品質確保の試行状況などについて勉強会を中心に活動してきたところですが、これらの議論の途中で、2017年7月に国土交通省でコンクリートの品質向上に向けた試行工事が開始され、2017年9月には土木学会350委員会2期目の活動が開始されています。
 一方、今後は設計、施工、維持管理の相互関連を踏まえて議論する必要があり、設計仕様小委員会の枠組みの中で議論を継続するには限界があるため、今後の小委員会のあり方について議論するための特別WGが別途設置されています。第1回目の特別WGは2019年8月に開催し、北海道でも品質確保の取組みは必要なのか等が議論され、北海道としてあるべき姿を検討するには、先ずコンクリート構造物の現状(劣化実態)把握が必要なこと、北海道で独自に行われてきた対策等があればそれらの整理が必要等の意見が出されました。また、後述する日本コンクリート工学会北海道支部の委員会と検討内容、参加メンバーなど共通事項も多いため、北海道土木技術会との相互の連携・分担についても議論しました。特別WGでは北海道のコンクリート構造物の点検や劣化調査を実施している実務者を招集していたため、北海道のコンクリート構造物の劣化の一例が報告されています。このように、北海道土木技術会においては、次のステップへの移行段階であり、北海道としてのあるべき姿について議論すべく活動を継続しているところです。

3.日本コンクリート工学会北海道支部における品質確保関連の活動状況

 2019年度単年度で、日本コンクリート工学会北海道支部において「北海道における品質確保のあるべき姿委員会(特別委員会:委員長 北海道大学 杉山隆文 教授)」が設置されています。設置のきっかけは、八戸工業大学の阿波稔教授から、日本コンクリート工学会東北支部の「寒中コンクリートの品質確保に関する研究委員会」活動成果をもとに北海道支部と講習会を共催できないか、という提案が同北海道支部長の室蘭工業大学濱幸雄教授にあったことによります。この提案を受けて北海道支部で検討した結果、東北と北海道の環境条件が異なるため、東北支部の活動成果をそのまま北海道で講習すると現場での混乱を招く懸念があり、共催するのであれば北海道としての考え方を同時に示す必要があるとの結論に至り、その前段として委員会の設置が決まりました。

 活動内容は、北海道における構造物の品質確保のあるべき姿の基本方針の検討、北海道土木技術会で行われている品質や耐久性確保に関する活動と本委員会との関係の整理、および北海道としての検討結果をふまえて東北支部との講習会の共催について検討することです。なお、この委員会では、寒冷期に建造された構造物は耐久性が低いため特別な凍害対策が必要という誤解が生じないように、「寒中コンクリート」と「寒中のコンクリート」を分けて議論することとしました。すなわち、「寒中コンクリート」とは、「寒冷期におけるコンクリートの施工」であり、JASS5や土木学会コンクリート標準示方書施工編に記載されているように、初期凍害の防止(強度の確保)を主として、通常期と同等の品質を確保するために留意すべき施工方法に関する課題です。一方、「寒中のコンクリート」とは、「寒冷環境下に曝されるコンクリート」であり、通常期の施工か寒冷期の施工かに依らない積雪寒冷地での耐久性の課題です。

 全体委員会は3回開催され、その間に土木WGが2回と建築WGが1回開催されています。土木WGでは、北海道の現状把握に焦点をあて、実環境下における構造物の劣化状況の把握(特徴的な劣化形態の有無、建設年次での特徴(材料、製造・施工技術との関連))、使用材料、生コンの現状(骨材事情、生コンの単位水量など)、対策の整理(北海道独自の寒冷地仕様、排水・防水対策(表面含浸材等))、製造・施工上の工夫(生コンプラント、運搬、寒中施工)などについて情報収集しました。収集できた劣化事例は少なかったものの実構造物の劣化状況の一例として、図-2に示す2箇所の橋梁はいずれも凍害危険度4の地域で気候的には同様の環境ですが、1954年に建設された町道橋の橋台角部は凍害によるひび割れで断面欠損が生じていますが、1986年に建設された国道橋の橋脚はコンクリート表面のスケーリング劣化が特徴的であり、同じ凍害でも劣化形態が異なっています。このような劣化の違いは、経過年数だけで無く凍結防止剤の散布状況や空気量(AE剤使用の有無)が異なっていることによると考えられるため、東北と同様、これらを整理する必要があることを確認しています。

図-3は使用材料の実態と北海道独自の仕様等について情報収集した一例ですが、北海道内の生コン工場を対象として行われた実態アンケート調査から、現状においては良質な骨材が多く使われており、生コンの単位水量も道外に比べて少ないことがわかりました。また、北海道開発局の道路設計要領では、海上大気中や飛沫帯の塩分環境下で凍結融解作用を受ける場合には、水セメント比45%以下で空気量を6%とするコンクリートの品質条件が示されているほか、コンクリート剛性防護柵や地覆コンクリートには建設時に予防保全として表面含浸材が施工されているなど、北海道独自に対策が取られていることを確認しています。なお、対策の適用実態や効果については不明な点も多いため、実構造物の劣化状況と併せて整理する必要があります。他に、トンネル覆工コンクリートの材料、設計施工技術等の変遷や劣化事例についても情報収集を行っています。寒中コンクリートについては、冬期における工場設備や運搬時の保温対策および養生に関する留意事項が通常期に比べ多いことを確認し、東北支部で提案された寒中コンクリートの施工状況把握チェックシートの活用は初期欠陥防止の一方策として有効であることを確認しました。建築WGでは、主に寒中コンクリート工事の取扱いについて議論があり、建築と土木の相違点や同じ寒冷地でも極寒冷環境の北海道では別途考慮が必要なこと等が整理されています。1年間の活動で今後検討すべき方向性が整理され、現在2期目の活動を開始しており、耐久性WGと寒中工事WGに分かれて議論を進めています。今年度の終了時には北海道としてのあるべき姿について提言できればと考えています。

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