道路構造物ジャーナルNET

阪神高速道路の維持管理報文連載

⑥赤外線による鋼道路橋に発生する応力計測

阪神高速道路株式会社
建設・更新事業本部 
神戸建設所 設計課

藤林 美早

公開日:2017.07.18

1.はじめに

 鋼道路橋の維持管理において、実構造物に発生する応力状態を確認する必要が生じた際には、ひずみゲージを用いた計測が一般的に行われる。図-1に阪神高速道路での一般的な鋼桁橋を示す。このような橋梁を対象にひずみゲージによる計測を行う場合、予めゲージを設置する部位を絞り込み、高所作業車等で対象部位に接近した後、ゲージ貼り付け作業を行う。このため、対象部位が限定されることに加え、対象部位へのアクセスが容易でない場合が多く、実作業は手間のかかる作業である。

 そこで、より簡易に実構造物に発生する応力を計測するため、ひずみゲージの代替手法として、非破壊・非接触で計測可能な赤外線技術に着目した。赤外線カメラにより応力変動が生じている部材を図-2のように撮影すると、図-3のように発生応力を面的に可視化することができる。この応力可視画像より、き裂の検出や応力集中部位の有無を確認し、さらに、発生応力を数値化して抽出することができる。よって、鋼道路橋でのひずみゲージによる計測の代替手法として、赤外線技術を活用することができれば、より簡易に実構造物に発生する応力を計測することができるため、非常に有効である。

 ここでは、赤外線技術を活用した応力計測がひずみゲージによる計測の代替手法となり得るかどうかを判断するための基礎データ収集を目的とし、実橋にて計測した結果を紹介する。なお、本件に関してはパナソニック(株)との共同研究を実施しており、ここに紹介する内容はその成果の一部である。

2.赤外線による応力計測の概要

 赤外線による応力計測の原理は熱弾性理論に基づいており、「固体の弾性変形が断熱的に起きるとき、固体内部に熱弾性効果にもとづく微小な温度変化が生じる」という概念である。赤外線カメラによる計測は、連続した温度画像を撮影しており、この温度画像の一定時間の変化ΔTを熱弾性効果による応力変換式(式1)へ代入し、発生応力Δσとして算出している。また、カメラの計測視野内はピクセルに分割することができ、ピクセル毎に発生応力を算出することで図-3に示すような応力可視画像を抽出している。この際、撮影した温度画像には対象物に作用する荷重変動に伴った温度変化に加え、気象条件等の外乱による温度変化が含まれる。このため、荷重変動に伴い変化する温度成分を信号処理で抽出することで外乱によるノイズを除去し、温度変化成分を取得している。
 なお、赤外線カメラにより計測できる応力値は、表面の温度変化により求めた主応力和である。また、温度変化を捉えているため、常時生じている応力集中を捉えることは難しく、発生応力に変化が生じている場合、その変化分を捉えることができる。
ΔT=-Km・T・Δσ            (式1)
ΔT    :温度変化
Km :熱弾性係数
T   :絶対温度
Δσ     :応力変化

ご広告掲載についてはこちら

お問い合わせ
当サイト・弊社に関するお問い合わせ、
また更新メール登録会員のお申し込みも下記フォームよりお願い致します
お問い合わせフォーム