阪神高速道路の維持管理報文連載
④大規模更新・修繕事業 技術開発(その1) ―RC床版防水材料の評価と新材料開発の方向性―
阪神高速道路株式会社
技術部 技術推進室
谷口 惺 氏
4.性能試験
防水便覧に準拠し、防水性試験Ⅱ、せん断接着試験、引張接着試験およびひび割れ開閉負荷試験を行った。試験結果を表-2に示す。
① 防水性試験Ⅱ
各材料3体ずつ試験を行い、すべての試験体で漏水しない場合を合格、1体以上漏水した場合を不合格と照査した。グレードⅡ型のすべての材料、従来型のシート系防水層の一部材料、低粘度型の複合防水層の一部材料が合格と判断できる結果となった。
② せん断接着試験
各材料3体ずつ試験を行い、試験により算出したせん断接着強度の平均値が防水便覧に規定された規格値以上となることを照査した。シート系防水層従来型の一部の材料のみ、せん断接着強度が規格値以下となった。
③ 引張接着試験
各材料3体ずつ試験を行い、試験により算出した引張接着強度の平均値が防水便覧に規定された規格値以上となることを照査した。塗膜系防水層従来型の材料6を除き、規格値を満足する結果となった。
④ ひび割れ開閉負荷試験
コンクリート平板に幅0.18mmのひび割れを設けた試験体を2体作製し、ひび割れを開閉させる負荷を加えたのち、そこから合計3体のコアを採取して防水性試験Ⅱを行い、ひび割れ開閉負荷後の防水性を照査した。照査方法は防水性試験Ⅱを同様である。グレードⅡ型のシート系防水層及び塗膜系防水層反応樹脂型(瀝青ウレタン)のみ、ひび割れ開閉負荷後の防水性試験Ⅱで合格と判断できる結果となった。
5.阪神高速道路に適した床版防水の方向性
① 方向性
性能試験の結果、グレードⅡ型の材料4及び9は、凹凸面での防水性、接着性といった初期性能に加え、ひび割れ開閉負荷に対する耐久性を有しており、検討した材料の中で最も性能が優れることを確認した。しかしながら、これらの材料は多層構成で、施工に長時間を要するため、規制時間に制約のある阪神高速道路への適用は困難と考える。
シート系防水層中間型の材料3は、耐久性に課題があるものの、凹凸面での初期性能を有することを確認した。しかしながら、シート系防水層は重ね部からの水の浸入を防ぐため、横断勾配の下側から施工する必要があるが、阪神高速道路の舗装補修工事は車線単位で舗装を打ち換えており、工程によっては横断勾配が上側の車線から施工する場合もあるので、適用は好ましくないと考えられる。
複合防水層の材料10は、耐久性に課題があるものの、含浸系防水材が切削によりコンクリート平板に生じたひび割れを充填したことで初期性能が向上したと推察している。含浸系防水材の効果で初期性能は向上したと推察しているが、その上に施工する塗膜系防水層は従来型と同一なので、耐久性の向上は図れなかったと考える。施工性については、阪神高速道路での実績の多い塗膜系防水層(アスファルト加熱型)と比較して施工時間は延びるが、阪神高速道路の舗装補修工事で適用が検討できる範囲である。また、防水機能を有する層が含浸系防水材と塗膜系防水層の2層になるため、冗長性が向上すると考える。
以上より、1層目に含浸系防水材を用いたうえで、2層目に用いる塗膜系防水層の耐久性を施工時間と両立できる範囲で向上させることが望ましいと考える。
② 取り組み例
阪神高速道路では、含浸系防水材と塗膜系防水層(アスファルト加熱型)を組み合わせた複合防水層の開発に取り組んでいる。本開発では、低粘度(10~15MPa・s/5℃~20℃)の水性エポキシ樹脂を主成分とする含浸系防水材に着目し、特に比較的大きなひび割れ(0.1mm以上)への充填性の向上と、切削面の凹凸を滑らかにすることでの塗膜系防水層の品質向上を期待して、水性エポキシ樹脂にセメント系紛体を混合した含浸系防水材を開発した。切削したJIS平板に含浸系防水材を塗布した例を写真-3に示す。
防水層としての基本的性能を確認するため、各種性能試験を実施している。試験の結果より、防水性、せん断接着性および引張接着性については、阪神高速道路で実績の多い塗膜系防水層(アスファルト加熱型)と比べて性能向上が図れることを確認した。含浸系防水材が切削により平板表面に生じたひび割れを充填することで表面性状が改善し、これらの性能が向上したと推察している。このほか、副次的な効果として含浸系防水材が床版の耐久性改善に寄与できるか検証するため、要素試験に基づきひび割れが入ったコンクリートの曲げ強度の回復およびせん断疲労寿命の向上効果を確認した7)8)。
6.まとめ
本検討では、複数の防水材料を対象に、舗装補修工事を想定した試験体を用いて性能試験を実施した。試験の結果、グレードⅡ型の材料は、凹凸面での防水性、接着性といった初期性能に加えて、床版上面にひび割れが生じた状態での耐久性を有しており、他の材料と比較してより性能が高いと評価できる結果になった。一方で、これらの材料は塗膜系防水層従来型と比較して施工時間が長く、都市高速道路の舗装補修工事をはじめとする施工時間に制約のある現場での使用は困難な状況である。また、複合防水層のうち一部の材料は、床版上面にひび割れが残る条件での耐久性に課題はあるが、凹凸面での初期性能については、塗膜系防水層従来型と比較して性能が優れる結果となった。
今後は、ビジョン2030に示された構造物の長寿命化を実現するため、より性能の高い防水材料の基準化を行い、大規模修繕事業等でこれらの材料の現場適用を図るとともに、切削機により床版表面に生じる凹凸を軽減できる既設舗装撤去方法についても検討していく所存である。
謝辞:本検討を行うにあたり、首都高速道路株式会社、名古屋高速道路公社および福岡北九州高速道路公社に防水に関する情報をご提供頂きました。防水メーカー各社には、材料のご提供、試験体作製において多大なご協力を頂きました。また、一般社団法人日本建設機械施工協会施工技術総合研究所には、本検討業務にご協力頂きました。株式会社アイゾールテクニカ、大阪市立大学角掛久雄准教授には、複合防水層の開発において多大なご協力を頂きました。ここに深く感謝の意を表します。
参考文献
1) 松井繁之:移動荷重を受ける道路橋 RC 床版の疲労強度と水の影響について,コンクリート工学年次論文報告集,1987.
2) 社団法人日本道路協会::道路橋示方書,2002.3.
3) 社団法人日本道路協会::道路橋床版防水便覧,2007.3.
4) 阪神高速道路株式会社:土木工事共通仕様書,2015.10.
5) 東日本高速道路株式会社,中日本高速道路株式会社,西日本高速道路株式会社:構造物施工管理要領,2014.7.
6) 社団法人日本道路協会:舗装調査・試験法便覧,2007.6.
7) 小瀬詠理,盛岡諒平,新名勉,谷口惺,田村悟士,角掛久雄:道路橋RC床版に対する含浸系防水材による補修効果に関する研究,土木学会第72回学術講演会概要集,2017(投稿中).
8)田村悟士,新名勉,谷口惺,盛岡諒平,角掛久雄:含浸系床版防水工法の開発と適用性に関する研究,第17回コンクリート構造物の補修,補強,アップグレードシンポジウム論文報告集,2017(投稿中).