付属物
伸縮継手
伸縮継手部の損傷のうち最も多く見られる損傷は、継手遊間部の樋やバックアップ材の損傷・脱落である(図11)。これは直ちに桁端部の漏水につながり、上述したような鋼部材の腐食をはじめ様々な問題を引き起こすこととなる。
損傷の原因は様々であるが、狭隘部であることもあり、補修には困難を伴うことが多い。そのため、まず伸縮継手遊間部の確実な素地調整を目指し、特殊ノズル及び自動遊間ブラスト装置を開発した(図12)。この装置のノズル径が20mmであるため、遊間幅が40mm以上の場合はこれを採用することを基本として、再度桁端部の防食を行うとともに、止水や導水による漏水対策も併せて行うこととしている(図13)。
図12 自動遊間ブラスト装置による桁遊間のブラスト状況
図13 伸縮継手漏水対策例(左:ゴム樋、右:角樋)
また、近年増えてきた事例として、伸縮継手フィンガーの折損がある(図14)。フィンガーは、いずれもフランジ接触端よりやや付根側で破断していた。破面は平坦で、顕著な変形はないことなどから、路面側を起点とする疲労損傷と考えられる。土砂等の堆積等によりフィンガーの先端が浮き上がった状態となった場合、車両通行によりのフィンガー先端部に負荷がかかり、その付根近傍に想定以上の曲げ応力が作用する。これが繰り返され疲労亀裂が発生したと推測される。また、フィンガー下面では腐食による減肉が認められたものもあり、これも疲労損傷を助長していると考えられる。ただし、フィンガー下面においても亀裂の発生が認められたものもあり、損傷メカニズムについてはさらなる検討が必要と考える。
フィンガーの折損はお客様へのリスクも考えられることから、発見後は直ちに合材等で埋め、出来るだけ早期にフェースプレートの交換を行う。伸縮遊間が小さい場合は簡易鋼製伸縮継手に交換する場合もある。
支承
平成7年の兵庫県南部地震以降、阪神高速ではゴム支承の採用が標準となった。平成9年竣工の反力分散型ゴム支承において、平成19年にオゾンクラックと思われる亀裂が見つかった(図15)。平成22~23年にかけて、機能上の問題があると判断された箇所は、亀裂を除去後、加硫補修を行い、機能上の問題がないと判断された箇所にはオゾンクラックの予防に対して保護するコーティング剤(HBコート)塗布による補修を行った。その後、平成27年の点検においてコーティング材塗布箇所においてもきれつ長の伸展が確認されたものが一部見つかったため、平成28年に程度の悪いものは加硫補修、そうでないものは再度コーティング材塗布を行った。
金属支承については設置時期が平成初期以前と古いものが多く、伸縮継手からの漏水等設置環境も厳しいことから、腐食事例の報告が多い(図16)。これらについては程度の悪いものから計画的に支承取替を行っている。
その他
長大橋
斜張橋やアーチ橋等で主構が路面の外側に位置する箇所においては、主構上にゴミや土砂等、路面からの飛来物が堆積するケースもあり、主構の断面形状によっては問題を引き起こすケースもある。図17に斜張橋主桁トラス弦材上の土砂堆積と、土砂除去後に発見されたボルトの腐食状況を示す。当該箇所は通常の路面清掃の範囲外であり、弦材がH型断面であることもあって土砂が堆積しやすいことから、当面は当該箇所の清掃頻度を上げて土砂堆積を防ぐことで対応していくものとする。
図17 斜張橋主桁トラス弦材上の土砂堆積に伴うボルト腐食
架設時仮部材に起因する損傷
最後に特異なケースとして、架設時の仮部材に起因する損傷を紹介する。
FC船による一括架設を行った鋼床版箱桁橋で、鋼床版上の保護を目的としたと思われるセッティングビームあて板がデッキ上に隅肉溶接で設置され、架設後も撤去されずにそのまま舗装されていた。供用後20年を経てあて板の隅肉溶接部が割れ、挙動したことで舗装に損傷が生じ、補修のため舗装を撤去したところで明らかになったものである(図18)。周辺の舗装を除去後、あて板を撤去し再舗装して補修完了とした。また、類似の箇所も調査し、舗装に異常が見られる箇所については同様の対応をした。
特殊なケースとはいえ、このように存置された架設部材は図面に残されない場合もあり、建設時の知識がなければあて板撤去にも躊躇するところであった。今後、維持管理の現場において建設の経験がない人が増えることが予見できるが、このような知識・経験の継承の重要性を示唆する事例であったので敢えて紹介するものである。
おわりに
以上、前回に引き続き阪神高速道路の鋼構造物その他の劣化と維持管理の課題について事例からの紹介を行ったが、前回と同じく紹介できたものまだまだ一部であり、毎月の定期点検結果報告では、毎回のように新たな損傷が報告されている。
今後も寿命とともに確実に増え続けていく損傷に対し、確実かつ早期の発見に努め、より効果的・合理的な補修方法を追求していく所存である。