道路構造物ジャーナルNET

土木研究所集中連載④

コンクリート構造物の補修の合理化に向けて

国立研究開発法人土木研究所
先端材料資源研究センター(iMaRRC)
上席研究員

古賀 裕久

公開日:2016.12.01

4.施工時の品質管理の留意点の整理(表面被覆工法)

 表面被覆工法が適用され、補修後に不具合が生じた事例を図-5に示す。不具合の原因は、調査時の劣化状況の判断が適切でなかったもの、設計時の材料選定が適切でなかったもの、施工時の現場管理が適切でなかったものに分類された。複数の原因が推定される事例もある。
 図-5(a)は、ASRを抑制するために橋台に塗布した表面被覆が剥離している事例で、橋台背面から供給される漏水が被覆材の接着性を低下させ、剥離の原因になっていると推定された。劣化状況に応じた補修工法の検討が不十分だったと考えた。一般に、ASRの補修としては、水分の浸入を抑制することが補修方針になりうるが、このように背面からの水分供給がある場合には、表面被覆工法で効果を得ることは難しく、橋面からの排水を改善するなどして、橋台に供給される水分を抑制することが考えられる、
 図-5(b)は、コンクリート表面に塗布したポリマーセメントモルタルの層間で剥離が生じた事例で、二層目のモルタルを塗布した際に、塗布したモルタルの水分が一層目に吸われて乾燥するなどして強度が不十分となり、剥離が生じていると推定された。乾燥に強い補修材料を用いたり、モルタルを打ち継ぐ際に吸水防止のための適切な前処理を用いたりすると不具合を回避できた可能性がある。材料の選定や、施工時の品質管理が不十分だったと考えた。
 図-5(c)は、塗装を塗り重ねた際に、塗り重ねの部分で剥離が生じた事例で、塗装間の接着性を確保するために塗布していたプライマーの塗布範囲を超えた位置まで塗り重ねを行っていた。このため塗り重ねた塗膜どうしの接着性が不十分であると推定された。施工時の管理が不十分であったと考えた。
 表面被覆・含浸工法編では、このような不具合事例や、種々の実験結果に基づき、施工前に水掛かりの状況の把握や適切な水処理を行う必要性を示した。また、作業環境や作業工程に関する管理項目などをまとめた(表-4)。



表-4 表面被覆・含浸工法:必要な施工管理項目の例

5.おわりに

 本稿で紹介した補修マニュアル(案)は、土木研究所先端材料資源研究センターのホームページから無償でダウンロードできる。補修マニュアル(案)を参考にすることにより、コンクリート構造物の補修によって課題となっている点の改善に役立ていただければ幸いです。
今後、維持管理に関する技術相談などを通じて本マニュアルの妥当性を引き続き検証し、各種技術基準等への反映を図っていく予定である。

【参考文献】
1)土木研究所:コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル(案),土木研究所資料,第4343号,2016.8
2) プレストレスト・コンクリート建設業協会:プレストレストコンクリート構造物の補修の手引き(案)[断面修復工法],2009.9
3) 片平博,渡辺博志:断面修復材の塩分浸透抵抗性の評価試験方法に関する検討,コンクリート構造物の補修,補強,アップグレードシンポジウム,第15巻,pp.313-318、2015.10
4) 片平博,川上明大,古賀裕久:断面修復材の付着性に関する促進劣化試験方法の検討,第16回コンクリート構造物の補修,補強,アップグレードシンポジウム,pp.233-238,2016.10

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