道路構造物ジャーナルNET

土木研究所集中連載④

コンクリート構造物の補修の合理化に向けて

国立研究開発法人土木研究所
先端材料資源研究センター(iMaRRC)
上席研究員

古賀 裕久

公開日:2016.12.01


共著者
同上席研究員
西崎 到 氏

共著者
国立研究開発法人土木研究所
寒地土木研究所
寒地保全技術研究グループ耐寒材料チーム
上席研究員
安中 新太郎 氏

1.はじめに

 我が国では、1970~80年代にコンクリート構造物の塩害やアルカリ骨材反応による早期劣化が社会問題となった。これを受けて建設省総合技術開発プロジェクト「コンクリートの耐久性向上技術の開発」(1985~87年度、以下、耐久性総プロ)が産学官の研究者によって遂行された。コンクリート構造物の補修に関する技術文書には、現在でもこの耐久性総プロ時の検討成果に基づくものが少なくない。
 しかし、補修に関する研究は、その後も継続されており、耐久性総プロ時の検討から約30年が経過し、補修材の品質試験方法や施工管理方法について、新たな知見が得られつつある。そこで、土木研究所では、最新の研究成果を盛り込んだ「コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル(案)」1)をとりまとめ、2016年8月に提案した。本稿ではその一部を紹介する。

2.コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル(案)の概要

 コンクリート構造物の補修対策施工マニュアル(案)(以下、補修マニュアル(案))は、共通編、表面被覆・含浸工法編、断面修復工法編、ひび割れ修復工法編、不具合事例集からなる(図-1)。各編の特徴および主な提案を表-1に示す。
 補修した箇所に不具合が生じた事例を見ると、その原因として、調査時の劣化状況の判断が適切でなかったもの、設計時の材料選定が適切でなかったもの、施工時の現場管理が適切でなかったものがあると考えられた。これらの知見に基づき、共通編では、まず、劣化状況について調査した上で補修の方針を定め、方針に沿った材料や工法を選定する必要性を述べた。補修の方針を整理した技術情報として、ISO 16311 (Maintenance and repair of concrete structures) がある。これを参考に、補修方針やそれに該当する対策の例を示した(表-2)。
 補修の施工を行う際には、構造物の現況と補修設計条件の整合を確認し、設計条件と施工条件とが整合しない場合は、補修設計を変更する必要があることを示した。共通編では、このように補修工法に共通する一連の検討の流れについて示した(図-2)。
 コンクリート構造物の補修対策として適用事例の多い表面被覆・含浸工法、断面修復工法、ひび割れ修復工法については、不具合が生じた事例や近年の研究成果に基づき、補修材料選定や施工時の品質管理などについて提案した。


図-1 補修マニュアル(案)の構成



図-2 補修工法検討の流れ

3.補修材に求められる品質の整理(断面修復工法の例)

 断面修復工法はコンクリート構造物の補修工法の一つとして古くから実施されているが、要求品質や評価試験方法に関して、国内において統一した基準が確立するには至っていない。そこで断面修復工法に必要な品質およびその試験方法を確立することを目的に研究を行い、その成果をとりまとめた。
 補修の方針には様々な考え方があるが、断面修復工法が選択される場合としては、(1)劣化因子の遮断、(2)鋼材の不動態被膜の保護、(3)劣化部分の断面の確保、(4)構造体としての耐力の確保が考えられる。この補修マニュアル(案)では、これらの(1)~(3)を念頭において、補修材料に求められる品質を整理した(表-3)。なお、(4)については、「プレストレストコンクリート構造物の補修の手引き(案)[断面修復工法]」2)を参考にすると良い。
 次に、表-3に整理した品質を確認するための具体的な方法を整理した。ここで、断面修復には、補修用途に開発されたモルタル(プレミックス品)と高流動コンクリートがあり、品質管理上の留意点が異なることから、これらを分けて示した。例えば、塩分浸透抵抗性については、図-3のように三種類の照査方法を提案した。このうち浸漬試験は、塩分の浸透状況を模擬する方法で試験のメカニズムが明確であるが、結果が得られるまでに最低でも91日間の浸漬を要し、品質の良い補修材ほど塩分が浸透しにくいため評価に時間がかかる。そこで、電気泳動法(非定常法)の活用を提案した。この方法では、通電により塩分を浸透させ24時間程度で評価が得られる。さらに、試験によらない方法として、水セメント比による確認方法も示した。土木研究所で行った試験の結果、補修用のモルタルについては、粗骨材がないためコンクリートよりも塩分浸透抵抗性に劣る場合があるが、コンクリートに要求される水セメント比から5%以上低下させた場合は、十分な抵抗性を有すると判断できる3)。
 ひび割れ抵抗性については、耐久性総プロ時の検討では、補修材の乾燥収縮度が定められていたのみであったが、付着を模擬した状態で試験をすることが重要であることを指摘した。土木研究所で検討した屋外暴露試験および各種促進試験(図-4)の結果、ENで制定されている断面修復材のサンダーシャワー試験やドライサイクル試験では、ひび割れが生じない補修材でも、屋外暴露や試験規格比較的サイクルの長い乾燥湿潤試験を行うとひび割れが生じる場合があった4)。これらの知見から、断面修復材の乾燥湿潤試験方法について提案を行った。



図-3 断面修復材の塩分浸透抵抗性の照査方法

図‐4 乾燥湿潤繰返しに関する促進試験

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