1. はじめに
日本の物流の大動脈である名神高速道路は2015年に全通後50年を、東名高速道路は全通後46年を迎えた。また、NEXCO中日本が管理する高速道路2,007㌔(2015年4月現在)のうち、6割以上は供用後30年をすでに経過しており、高速道路の高齢化は確実に進行しているといえる。橋梁における劣化と維持管理の課題については、これまでの連載の中で詳細に紹介されているが、土工構造物においても老朽化や劣化が顕在化してきており、今後、高速道路の長期的な保全事業(適切な点検と集中的な補修・補強)を効率的に実施していくことが急務となっている。
本稿では、高速道路における土工構造物の中から、グラウンドアンカー、盛土部および自然斜面からの土石流における保全上の課題について紹介する。
2. グラウンドアンカー
グラウンドアンカー工法は、引張り力を伝達する部材(以下、「テンドン」という。)を土中に設置し、不安定な土塊を押さえることによって斜面を安定させる工法である(図1)。 テンドンは一般的に鋼材が使用されており大きな引張り力を加えているため、鋼材が腐食等により破断すれば頭部の飛び出し(図2)や斜面の不安定化など、安全上重大な事象につながる可能性がある。そのため継続的に維持管理を行い、その機能を維持していくことが重要である。
グラウンドアンカー工法で保全上特に注意が必要なのは、平成3年頃までに設置された「旧タイプ」と呼ばれるものである。旧タイプアンカーは高速道路では昭和40年代から使われ始めていたが、防食機能が十分でなかったために、昭和60年頃から鋼材の腐食やアンカーの変状が一部に見られるようになっていた。高速道路ではこの旧タイプアンカーが約62,000本あると推定されている1)。
また、防食機能が強化された「新タイプ」アンカーについても、地盤の状況によってテンドンの緊張力が減少したり過度に大きくなったりすることがあるため、緊張力の管理を適切に行うことがアンカーの維持管理上重要な要素となっている。
グラウンドアンカーはその構造のほとんどが地中にあるため、目視による点検が可能なのはアンカー頭部だけで、鋼材の腐食状況や緊張荷重などを十分に把握することはできない。そのため、点検によって頭部部分、近接構造物、のり面などに何らかの異常や変状が確認された場合は、さらに詳細にアンカーの健全度調査を実施し、その結果大きく機能が低下していると判断された箇所については対策を行う必要がある。対策は単にアンカーの増し打ちだけを行うのではなく、当初設計段階に立ち戻り、すべり線の見直しや杭工・排土工などの地すべり対策工も考慮した検討を行うことが望ましい。