4. 工事計画の立案
修繕工事の具体的な計画の立案と設計のための詳細調査、修繕工事の推進には次のような視点での検討が必要と考える。
1)全体把握の視点
担当する区域全体を概観し、推測できる原因の推定、原因の確認、概略の対策工、変状発生による危険性や社会への影響等を総合した技術的な優先度と、さらに工事のため交通規制による渋滞など社会的な影響などを考慮した修繕の必要性や優先度など、区域全体の視点で調査項目を含めて計画する。
2)工事内容の技術的検討の視点
優先順位の上位の幾つかのトンネルに対して、具体的な優先順位の評価、変状原因の確定、変状の緊急性、対策工の施工範囲、対策工の詳細、施工時期や施工期間を含めた変状対策詳細設計のための調査計画を立案・実施し、詳細設計に向けた検討を行う。検討結果から工事内容や狭義の施工計画を確定する。
3)工事による社会的影響軽減の視点
施工法に必要な工事区域を確保するには交通規制が伴い、高速道路だけでなく迂回路となる一般道等にも渋滞が生じる。これら地域社会の生活や経済活動への影響を最小化するためには、他の道路管理者だけでなく、国や自治体等の行政機関や警察を含めた関係機関と連携を広げ、路線の性格(物流のための道路、観光の道路、生活道路等)から求められる工事を避けるべき時期と期間、渋滞などの軽減策や工期短縮策、広報計画等、幅広い視点での検討が必要となる。工事の必要性や交通規制を含む工事の進め方への社会的な理解と地域関係機関の合意形成に至るロードマップが求められる。
さらに、近接する同種の他の修繕対象トンネルや修繕対象となる他の構造物を工事に取り込むことによる長期的視点から社会的な影響を大きく軽減する方策、通常の補修作業を工事に取り込む方策、高速道路のダブルネットワーク化が進む中でのこれらの利活用等、全体を俯瞰した進め方と詳細な施工計画が求められる。そのためにも、調査や詳細設計を行い対象工事のストックを用意することが必要となる。
おわりに
修繕工事を継続的に円滑に進めるには、「4.工事計画」で述べたことだけでなく、施工速度向上への技術開発、開発技術や工事のノウハウの蓄積を通じて、社会的影響の小さい交通規制計画の採用、工期短縮の実現を目指す必要がある。また、本修繕工事は確実に長期耐久性のある構造物であることが求められ、それに応える長期耐久性を保証する発注方式や積算方法等の工夫、調達材料や施工管理手法の技術的な確認も必要となる。これらを支え実施する実施体制や人材育成など、幅広い技術支援が求められるものと考える。
これら先を展望した修繕工事の計画的な実施が期待され、日本道路公団にはじまり約60年にわたる建設と保全の時代から、建設の経験の上に大規模修繕により得られる知見を共有し計画的に保全を進める「建設的保全」へ移行することとなる。
出典
1)高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会 報告書 平成26年1月
2)トンネルの維持管理、土木学会、トンネルライブラリー第14号、H17.7、p106
3)三木幸三、岩盤力学入門、鹿島出版会、p206
4)山岳トンネル覆工の現状と対策、土木学会トンネルライブラリー12号、H14.9、p65
5)河野他、供用トンネルにおける変状と対策、第30巻6号、1999.6、p18
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