1. はじめに
最初の高速道路、名神高速道路が開通して50年が過ぎ、それを構成する各構造物(橋梁、土構造物、トンネル)は老朽化が顕在化してきた。そこで、高速道路資産の長期保全及び更新について有識者の参画を得て、大規模な更新と修繕の計画(平成26年1月報告書1))として取まとめた。
この計画を基本とした工事は、日本高速道路保有・債務返済機構法の中で「特定更新等工事」と位置付けられ、構造物の更新(本体構造を再施工)と修繕(補強して当初の性能・機能を回復させる)の工事が可能となった。平成27年3月には特定更新等事業として、NEXCO3社は大規模更新・大規模修繕の事業許可を受けた。
トンネルでは、橋梁のように床版や桁を架け替える「更新」に該当するケースはないが、「修繕」として舗装路面に盤膨れが生じている区間やその懸念がある区間では「インバートを設置する」、地山の風化に伴い覆工への影響が有る場合には「覆工を補強する」、この2つのケースを対象とした。他の覆工コンクリート片などの落下防止対策(第三者被害防止)や内装板等の変状については、通常の補修の範囲であると区分した。
以下に、トンネルの修繕に関する2つのケースについて、計画の概要と進め方について述べる。
2. 変状と大規模修繕の内容
2.1 大規模修繕の概要と問題となる地山
2.1.1 修繕の概要
(1)修繕工事の内容
通常のトンネル工事では、コンクリート片・塊の剥落や覆工内への湧水流出に対応した補修が多いが、地山(注-1)の風化や強度低下による「塑性圧」が作用する場合や地山の緩みによる「緩み土圧」等の外力が作用する場合の工事の頻度は少ない。大規模修繕では、後者に類する以下の工事を対象とした。
1)路面隆起に対してインバートの設置
イ)現象
トンネル周辺では、長期的な吸水膨張等により強度低下が生じ、地山の塑性変形によりその影響が図-1に示すように路面隆起として現れることがある。路面隆起が生じると必要となる建築限界高さが不足する等支障をきたすとともに走行性を著しく阻害する。
ロ)対象とする区間
インバートが必要となる区間は、以下に示す区間を対象とした。
・現在、路面隆起が顕在化しているトンネル区間
・表-1に示す長期的な風化や強度低下が懸念される岩種で、インバートに対する設計上の考え
方の経緯(平成10年以前の建設が目安)によりインバートが設置されておらず、健全度が低下している区間。
なお、各トンネルの地質等関連情報は、建設時の図面やトンネルデータベースから得た。
ハ)対策工
図-1に示すように路面隆起に対して、路盤下にインバート(以下、インバート)で全体を円形状に閉合することで効果的な外力への抵抗力が生まれる。
トンネル内の全幅員に対し、1車線分の通行帯を確保(車線規制)したうえでトンネル中央付近の開削が可能なトンネルでは、通常のコンクリートを2分割しで施工する。これが困難なトンネルでは、図-2に示すようにトンネル中央部分を開削しない(例:横から非開削で施工等)工夫が必要となる。上記の場合、全面通行止めによる方法を採用すれば、工事のステップは簡略化され施工速度も速いが、地域や地方全体の社会活動に大きな影響を与えることとなる。工事の計画は、施工法と交通規制による社会への影響等の相互のバランスを検討して立案することとなるが、一般の交通の用に供し動脈として機能する高速道路でインバートを追加設置する作業は非常に大変な工事となる。
2)外力に拠る起因するクラック等の変状のある覆工の補強
イ)現象
同様に地山が強度低下や劣化して、覆工コンクリートに外力として作用し、覆工面には「ひび割れ」や覆工面の内空側への「変形」と建築限界を侵す形で影響が表れる。
トンネル周辺の地山を、風化して強度低下を起す地山とそうでないものに分け、個々の覆工の健全性(表-3参照)の推移を分析した結果を図-3に示す。風化しやすい岩種①の方が覆工の健全度の低下速度が速いことが判る。なお、覆工の健全度は、覆工に生じた変状と進行性の程度で評価している。塑性圧以外の想定される外力の例を図-4、図-5に示す。
塑性圧や偏圧による変状は、矢板工法でもNATMでも発生する可能性があるが、緩みによる鉛直圧に起因する変状は、支保工の背面に空洞が生じやすい矢板工法で見られる。
※矢板工法とNATM:NEXCOでは、矢板工法は昭和58年以前の標準工法、NATMはそれ以降にロックボルトと吹付けコンクリートを支保工とした標準工法。図-10参照。
ロ)対象とする区間
表-1に示す風化しやすい岩種のトンネルで、覆工スパン(覆工コンクリートを打ち込む単位、通常10.5㍍)毎に得られる覆工の健全性の悪いスパンを対象とした。
ハ)対策
覆工に対して外力により生じたひび割れ等の変状であるので、力で対抗できる内面補強工、高強度の繊維シートやロックボルト等で補強することとなる。変状とそれに対応する覆工補強の例を写真-12)に示す。
(2)修繕工事の全体規模
技術検討を進めた段階で、対象とした高速道路トンネルの本数はNEXCO3社合計で1,677本、延長1,559㌔であった。2.1に示したように個々のトンネルを地質毎に、また覆工スパン毎に照査し、「インバート設置が必要となる区間」と「覆工補強が必要となる区間」を抽出した結果、NEXCO3社合計延長で130㌔のトンネル区間を対象とした。