3-3.鋼製ジョイントの重交通下における疲労損傷とその対策
旧日本道路公団において、1996年~2004年間に建設された伸縮桁長が長く伸縮量が大きい橋梁の伸縮装置には、鋼製ジョイントの1つであるビーム型ジョイントが数多く採用されてきた。当時は、東名高速道路において発生した鋼製フィンガージョイントの破損事故により、新たな鋼製フィンガージョイントの使用を一時見合わせ、有識者による委員会において原因と対策の検討をしていたこともあり、この時期に万博前の全通に向けて工事を進めていた名古屋支社管内の伊勢湾岸自動車道及び東海環状自動車道では、連続径間数の多い高架橋の設計・施工において、大伸縮量に適用可能であったビーム型ジョイントを多数採用していた。この内、伊勢湾岸自動車道で採用したビーム型ジョイントにおいて供用後10年程度経過した段階でビームの損傷が多数見られるようになった他、一部の高架橋で用いられた鋼製フィンガージョイントにおいてもフィンガーの櫛部の折損が発生した。(写真-6、写真-7)
このため、名古屋支社において有識者の方々による委員会を設け、損傷原因と対策について検討を行っている。損傷状況としては、損傷したビームの破面を観察し、破壊の起点、破壊の方向、破壊性状を確認した結果、疲労亀裂と推定された。疲労損傷の原因となる大型車交通量を2014年の伊勢湾岸自動車道でみると、表-1のとおり日平均断面交通量が約7.3万台/日に対し大型車混入率が約37%で、大型車の日平均断面交通量が約2.7万台/日と非常に多い路線である。また供用からの累計大型車交通量(1方向)を試算すると、東海環状自動車道 豊田松平IC~豊田勘八IC間(供用年数 約10年)が約9百万台に対して、伊勢湾岸自動車道 名古屋南IC~大府IC間(供用年数 約17年)が約101百万台と約11倍となっている。(表-3)
抜本対策としては、ジョイントの取替えを考えているが、大遊間で大型のジョイントであること、使用箇所が多いこと、交通量が多く規制が容易でないことから、全ての取替えを完了するには期間を要することから、延命対策として、解析や疲労実験から疲労強度増加の効果が確認されたミドルビームとサポートビーム交差箇所の溶接部について溶接補修+R加工等を行うこととしたが、この部分がすみ肉溶接の場合は延命効果が期待できないので、早期の取り替えが必要である。(図-7)
また、延命対策については、現場でのビーム型ジョイントへの適用性を確認するべく、実橋で試験施工を行ったところ、狭隘な空間での施工となること、更に夏季は遊間が狭くなるため施工困難なケースが想定されること、施工には本線規制を伴い交通量の多い伊勢湾岸自動車道では夜間施工となり規制日数が少なくても8日間は必要となることが確認された。このためジョイント取替えと延命対策の優先順位を検討し、延命対策は厳選し対策を進めることとした。
4.特殊橋梁の耐震補強について
名古屋支社では、アーチ橋、方杖ラーメン橋、斜張橋等の橋梁が多数あるが、これらの特殊橋梁の耐震補強工事を計画的に進めている。構造が特殊なため一般的な耐震補強では対応できないことから、特殊橋梁の耐震性の照査・検討にあたっては有識者の方々による委員会を設けて検討し、必要な対策の基本方針を定めて設計を行い、耐震補強工事に着手している。以下に工事が完了もしくはこれから工事を行う3橋の耐震補強の概要について述べる。
4-1.鋼方杖ラーメン橋の耐震補強 (図-8)
中央自動車道 日吉川橋は1973年に供用した橋長84㍍の鋼3径間連続方杖ラーメン橋である。この橋梁の耐震性能を照査したところ、レベル2地震時に橋軸・直角方向ともに脚柱と補剛桁が降伏することが判明した。このため、橋梁全体を免震構造とすることにより地震力を低減することとし、具体の補強内容としては、①支承改良(端支点部の直角方向を可動化)、②ダンパーの設置(橋梁全体の橋軸方向の動きを抑制し、脚柱及び補剛桁の応答を軽減するため桁端部にせん断パネル設置)、③方杖橋脚部へのPCケーブルの設置(上揚力抑制装置)と④あて板補強(脚柱及び補剛桁の降伏対策)を行った。
4-2.鋼逆ローゼ橋の耐震補強 (図-9)
中央自動車道 落合川橋は急峻な谷地形を活用して架けられたアーチ支間166㍍の鋼逆ローゼ橋であり、1975年に供用した橋である。この橋梁で耐震性能を照査したところ、レベル2地震時に橋軸方向では補剛桁と支間中央付近の鉛直材が降伏し、直角方向ではアーチリブと鉛直材および横桁が降伏及びアーチ支承部に上揚力が発生することが判明した。このため、橋梁全体を制震構造とすることにより地震力を低減することとし、耐震補強の内容としては、アーチクラウン付近の降伏対策としてアーチクラウン部の剛性強化を図る補強工(①)、鉛直材の降伏対策のためのあて板補強(②)、端部鉛直材並びに近傍部材の橋軸直角方向の振動を抑制しアーチ下端での上揚力を軽減するためせん断ダンパーを設置(③)、アーチ支承部に発生する上揚力による鉛直材取付ボルトとアーチリブ取付ボルトの破断対策として上揚力抑制装置を設置(④)、補剛桁の降伏対策として端支点部に制震ダンパーを設置(⑥)、さらに支承取替え(⑦)を行うこととした。
4-3.斜張橋の耐震補強(図-10)
伊勢湾岸自動車道 名港西大橋(上り線)は橋長758㍍の3径間連続鋼斜張橋である。名港トリトン3橋のうち、名港西大橋Ⅰ期線として昭和60年に開通させており、他橋に比べ設計時点が古く構造細部の作りも異なるため、先行して耐震検討を行った。この橋梁で耐震性能を照査した結果、レベル2地震時に主桁支間中央部付近で下フランジの一部が塑性化。また、全体系の変形が大きく主塔の柱基部が塑性化するとともに、端橋脚はペンデル支承に引っ張られてせん断耐力の超過や鉄筋段落とし部の降伏並びに許容変位を超過、さらに桁端部では桁遊間量を大幅に超過することが判明した。このため耐震補強の内容としては、橋軸方向地震時の変位を抑制し、主桁端部と主塔柱の損傷を低減するため全橋脚に制震ダンパーを設置(①)、直角方向地震時の主塔柱及び下段梁部損傷対策のため中間支点は免震支承に取替え(②)、名港西大橋の構造的な特徴である弾性拘束ケーブルが抵抗することで長周期化を妨げ主塔の橋軸方向変位を大きくすることから、変位を抑制するため弾性拘束ケーブル定着部を免震支承を設置(③)、橋軸方向地震時に端橋脚柱に大きな曲げ及びせん断力の作用による損傷対策のため端橋脚の補強(④)、橋軸直角方向の水平荷重に対し水平支承の終局耐力を超過するため支承改良(⑤)、ペンデル支承が損傷した時の桁の浮き上がりを防止するためアップリフト防止ケーブル設置(⑥)を行う計画とした。