トンネル施工で遠隔立会を採用
月に30時間も時短する効果
――トンネル分野の新技術採用について
北川 まず、遠隔立会の採用があります。これは当社と清水建設で開発したものです。我々発注者側から見れば、現場を確認するために、和歌山市内の事務所から、日高川町の川辺(第一、第二)トンネル現場まで片道1時間かけて通わねば立会ができないわけです。現場からすれば、事務所の人間が立会に来るまで待たなくてはならない時間的ロスが生じます。
そのため、タブレットと外付けカメラを使って、タブレット上で検査できるものを作りました。例えばシステムの中で、覆工厚を確認し、タブレット画面上で承認ボタンを押すと、それがWebにアップデートされて自動的に写真と調書が出てくるようなものです。
あとは現場に近づけるハード設備として、外付けカメラを用いて近接撮影を実行し、細かいところを撮影しています。また、坑内通信環境の改善のため無線アクセスポイントを設置し、通信環境を改善しています。
従来、施工者は写真を撮ったデータを現場事務所にもってかえって、帳票の作成を行わなくてはなりませんでしたが、Web上でシステム化することによって、双方の時間に余裕をもたらすことができるようになりました。今は川辺第二トンネルだけで施工していますが、色々な業務の効率化を検証して、月に30時間ぐらいの時短につながっています。これにより、今までできなかった他の業務へ手が付けられるようになりました。何より施工者にとって重要な、現場をより見る時間が取れるようになりました。
現場だけでなく、覆工コンクリートの圧縮試験も、現在、我々の立ち合いが必要となっていますが、試験現場までは片道30分以上かかりますので、これも遠隔立会をしています。
遠隔立会はトンネルだけでなくほかの工事にも展開できます。明かり工事、具体的には橋梁の下部工事の品質、出来形(日高川橋A1橋台)、補強土壁の品質確保にも遠隔立会を技術導入していきたいと考えています。
――施工者を信用しないわけではありませんが、施工者側のカメラ任せだと、どうしても恣意的な運用が懸念されると思うのですが、そうした点はどのように考えておられるのですか
北川 現場の測点はNEXCOが全部決め、さらにその測点には、工事長の判子がつかれています。現場には別に360°回るカメラを置いており、その測点に撮影用の外付けカメラがあるという確認を取ってから撮影を始めます。場所が特定できるため、不正は起きにくいと考えています。
我々は、現場立会が大幅に減り、施工者の自主検査も約15%減るなど検査業務の効率化に寄与しています。しかし、現場立会が完全になくなるかというとそうではなくて、2割ほど残っています。これは抜き打ち検査による品質の確保を行うためです。
覆工コンクリートの自動施工システムを採用
品質向上、省力化、安全性の向上などに大きく寄与
――トンネル覆工コンクリートの自動打設の採用とは
北川 川辺第二トンネルで試験的に導入している技術です。
覆工コンクリートの打設は、これまで技能労働者の経験に依存する締固めが行われており、施工品質の確保が重要な課題となっています。具体的には、上から下に中流動コンクリートを流し込み、スプリングラインから下は、人力によるバイブレータが必要で、どうしても締固めが難しい状況にあります。コンクリートは上から下に投入されるため、材料の分離も懸念されます。
また、狭い施工空間の中で打設配管を切り替えていかなければなりませんが、それにも少なくない時間を要します。安全面でも課題があります。
そこで、コンクリートの打ち込み、自走締固め作業を自動化することにより、覆工コンクリートの高品質化と省力化に大きく寄与することが期待した自動打ち込み装置と自動締固め装置によるシステムを開発しました。
マニピュレーター方式の自動打ち込み装置はコンクリートの圧送、配管の切り替え、打ち止めを制御します。自動締固め装置は、適正なエネルギーで締固めが行われるように、型枠バイブレータ制御します。これら2装置は覆工作業の進捗を自動制御可能なPCシステムにより集中管理し、打ち込みと締固めの可視化施工を可能とします。
マニピュレーター方式は、2本の打ち込みノズルを備え、自動で移動させながら配管を切り替えます。打ち込みノズルと打ち込み口の接続は、打ち込みノズルに装着された接近検知センサと高さ調整センサにより自動的に行われます。打ち込みノズルに接続後、コンクリートポンプ車を用いて、中流動コンクリートを自動圧送し、噴き上げ方式でコンクリートを打ち込みます。各打ち込み口から圧送されたコンクリートは、所定の打ち込み高さに達したことをセンサが検知すると打ち込みが完了し、型枠バイブレータが自動で起動して、15秒間締固めを行います。締固め状態はモニター上に可視化され、それを基に次施工を判断します。また、天端コンクリート圧力をリアルタイムで計測し、打ち止めを判断します。覆工の自動施工はコンクリート感知センサと型枠バイブレータ、コンクリートポンプを集中制御することで実施します。具体的にはセントルにはコンクリートセンサを装着しており、生コンの温度や圧力を計測しています。セントルの下には沈下計を付け、セントルの沈下量で、所定のコンクリート量が打ち込まれているかどうかを、打ち込みブロックごとに確認し、次の打ち込み口に移動するようにしています。
――得られる効果は
北川 大きく2つの効果が得られます。
1つ目は覆工コンクリートの高品質化です。生コン打設を下から上に噴き上げ方式による打ち込みと定量的な指標に基づく締固めにより、施工ムラのない密実な覆工コンクリートが実現できます。
2つ目は飛躍的な省力化です。人力作業は機械作業に置き換わり、覆工コンクリート作業の仕方が大きく改善されます。施工に起因する不具合や技能労働者不足という課題を解決し、山岳トンネル覆工の自動施工の道を開いたものと考えられます。最終的にはワンマン施工による高品質な覆工コンクリートの施工を目指します。山岳トンネル覆工の共通技術として発展し、覆工自動施工の技術として貢献するものと考えています。
――養生は
北川 後ろから後追いで養生台車により養生しています。
――大きな省力化が期待できそうですね
北川 近い将来に従来6人で施工していたのを2人でできるようにしたいと考えています。打設中のブロックから次の打設ブロックへは、必要な各数値を確認した上でタブレットのボタンを押せば、移行できます。これは土工部にも使用可能であると考えます。打設も早くできますので、養生時間も長くとることができ、コンクリート品質の向上に寄与しています。これらは全て当社が中流動コンクリートを採用しているということが前提にあります。
――ありがとうございました
(2020年5月18日掲載、5月26日一部修正)