PCグラウト充填不良 PC鋼棒が高い充填不良率
広帯域超音波法などにより充填状況を判断
――PCグラウト充填不良に対する予防保全対策について
⻑⾕ PCグラウトの充填不良については、PC鋼材は腐食や破断のリスクがあり、PC橋の安全性にも影響を与える場合があります。「高速道路資産の長期保全及び更新のあり方に関する技術検討委員会」において、PCグラウト充填状況の調査結果が分析されており、調査された4,087本のPC鋼材のうち約2割に充填不良が確認されたことが報告されています。特にPC鋼棒を使用しているものが充填不良の高い割合を示しています。NEXCO3社では、大規模リニューアルプロジェクトの事業対象としてPC鋼材に対する予防保全対策も進めていく計画です。
――点検方法としてはどのようなものがありますか
⻑⾕ PCグラウト充填状況の調査技術としては、レントゲンなどで用いられるのと同様なX線を用いた放射線透過法、打音振動法、広帯域超音波法、インパクトエコー法があります。広帯域超音波法は、シース直上のコンクリート面に一対の探触子を配置し、広帯域超音波を受発信して波形を収録するもので、得られた波形から、シース反射波の周波数特性を分析することでグラウトの充填状況を判定できます。
PC鋼材の腐食や破断を調査する方法としては、鋼材が強磁性体であることを利用して、コンクリート表面からPC鋼材を着磁し、漏洩した磁束を測定することにより、PC鋼材の破断を測定する手法と、放射線透過法、削孔調査があります。
鋼製シースの内外径差3mmを模擬した供試体を仕様
11 種類の材料と施工方法の組合せを試験により確認
――さて、予防保全対策としてのPC グラウト再注入はどのように
⻑⾕ グラウト再注入による予防保全対策については、鋼製シースの内外径差3mmを模擬した供試体を使用して細径管試験と二重管試験を行い性能評価する試験案を検討中です。
材料や施工方法の組み合わせによって充填性能が変わるため、各種の施工条件に対応できる性能評価試験法を制定することを目指しています。現在、現地で使われているものを含めて11種類の材料と施工方法の組合せを試験により確認している状況です。
――細径管試験とは
⻑⾕ PCグラウト充填不良が最も多いケース(PC鋼棒φ32mmに対しスパイラルシースφ38mmの隙間)を想定した直径3mmの供試体に圧入または真空圧入工法を想定したスクイズ式ポンプで下方から上方へ角度30°、長さ3,000mmのシースの中に充填できるかを試験するものです。細径管内の既設グラウト材はいずれの実験室でも再現が容易な絶乾状態としています。
――二重管試験とは
⻑⾕ 試験体底面および外径と内径に3mmの隙間を作り、自然流下方式でグラウト材を注入する試験です。上端の漏斗から再注入グラウトを注入し、静置します。内外管の充填高さの差が小さいほど、自然流下方式における再注入PCグラウトとして良好な充填性を有するものとして評価します。水頭差が少ないものほどうまく充填できます。
また、PC鋼材の継手部を模擬した注入試験も行っています。試験条件は、図13に示す①から④のケースで比較を行い、性能評価試験法の妥当性を確認しています。
最も厳しい条件としては図14の⑤に示すPC鋼棒を手締めで緊張しカプラーによるシース閉塞が起きているケースも実験しており、注入方法は、圧入、真空圧入方式だけでなく自然流下方式による再注入も想定して検討しています。
以上の性能評価試験法の評価や試験法の改良などの追加検討を行いながら、グラウト再注入の材料と施工方法の妥当性を確認するための施工条件や実施する試験法の選定などを検討しており、ご紹介した試験方法をすべて性能評価基準とするものではありません。
既設PC橋の残存プレストレス量 表面ひずみ法について研究
破壊を伴わない計測、実橋(PCT桁)で適用性を確認
――既設PC橋の残存プレストレス量の評価に関する研究について
⻑⾕ 残存プレストレスを予測する方法としては、コア応力解放法、鉄筋切断法、スリット応力解析法などがあります、いずれも微小な破壊を伴います。図15に示すとおり,コア応力解放法,スリット応力解放法,鉄筋切断法による比較を行った結果,コア応力解放法が設計値と推定値が概ね一致し精度よく評価できる結果が得られています。
そこで新たに微破壊を伴わない表面ひずみ法についても研究を進めています。
表面ひずみ法は、構造物に既に発生しているひび割れを利用し、非破壊で残存プレストレス量を推定する方法です。車両走行時における活荷重作用時にひび割れが再び開く際に、桁の下縁で引張応力がゼロになることに着目し、残存プレストレス力を推定する手法です。既に桁長20.75m、全幅17.4mのPCT桁橋の実橋で適用性を確認しています。東京理科大学(加藤佳孝教授)、飛島建設㈱、東電設計㈱との共同研究を実施中です(図17)。