NEXCO3会社は、7月1日付で2年ぶりに技術基準の改定を行った。橋梁分野では大規模更新の現状に配慮してプレキャストPC床版接合部分の性能試験方法、プレキャストコンクリート壁高欄の性能照査の改定を行った。また、大規模修繕に該当するものとして床版上面断面修復工法における施工方法や施工規模の選定方法を追加し、床版防水の現在の製品動向を踏まえてグレードⅠ規格Bを廃止した。ゴム支承の耐オゾン性能評価に関する規格値についてはH29道路橋示方書の改定に合わせて耐久性向上を図る見直しを行った。
一方で、鋼橋の既存塗膜の剥離方法、新しい塗装材料の研究、コンクリート床版におけるグースアスファルト防水や鋼床版における高剛性舗装の研究、グラウト充填不良対策の維持管理手法の確立に向けた研究、中空床版橋の上面補修や打替え方法の研究等について、各検討を進めている。そうした研究動向について、NEXCO総研の長谷俊彦橋梁研究室長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
PCaPC床版の接合構造について統一的な要求性能を示す
荷重と回数を明確に示す
――プレキャストPC 床版(以降「PCaPC 床版」)の接合部の性能試験方法について
⻑⾕室長 NEXCO3社で特定更新工事が始まり、多くの鋼橋の床版取替が計画、実施されています。プレキャストPC床版相互の接合構造は、各施工会社により開発されていることから統一的な要求性能を示すこととなりました(写真1)。(写真、資料は全てNEXCO総研提供)。
――NEXCO では橋軸方向の接合構造の標準をループ継手にしていましたが、現在は様々な継手構造が考案され、実際に使われていますね
⻑⾕ ループ継手を用いたPCaPC床版での輪荷重走行試験の結果を援用して、様々な継手構造に対応するように要求性能と試験方法を規定したものです。
具体的には、PCaPC床版相互の接合部の疲労耐久性に関する要求性能として、設計要領第二集[橋梁保全編]で耐用年数100年間を確保できることを確認するものとしました。その解説においては、接合部を有する実物大供試体の輪荷重走行試験により得られた現時点の検討結果として、耐用年数100年間相当の荷重(250kN)と繰り返し載荷回数(100,000回)の事例を(4-8 橋軸方向の接合構造)の解説に示しました。
【設計要領第二集】[橋梁保全編]「5章 床版」(4-8)より 解説 表4-5-2)
JIS認定工場を追加
新規参入を容易に
――構造物施工管理要領に追記された内容は
⻑⾕ 構造物施工管理要領(Ⅲ保全編)では、PCaPC床版の受入検査項目(表4-1-2)や接合部の性能照査項目(表-4-1-3)を定めています。PCaPC床版の製作工場を実績のある個所に絞っていましたが、それでは新規参入が難しいため、JIS表示認証工場を追加しました。接合部の照査項目では、輪荷重走行試験の規定走行回数後に漏水試験を実施し、漏水が無いことを要求事項としています。
半断面床版取替から幅員方向分割取替に改訂
交通振動を考慮しコンクリートの流動性や骨材の分離抵抗性を検討
――道⾕第二橋や高瀬橋などでは、幅員方向に半断面、3 断面に断面分割して施工するケースも出てきています。こうした幅員方向の継手の要求性能や照査方法については
⻑⾕ 要求性能と試験方法は本線方向の継手部と同様の方法としていますが、幅員方向継手の実績が少ないことから幅員方向で接合する場合は施工条件に応じて検討が必要であることや安全性の照査に関する留意事項を示しました。
――半断面もあれば三分割断面もあります。繋ぐ位置を主桁上にするのか否かでも力のかかり方は相当に異なります
⻑⾕ 今回の改訂では「半断面床版取替」から「幅員方向分割取替」と改訂し、現在までに得られている断面分割施工(上長房橋、道谷第二橋や高瀬橋など)の知見を盛り込みました。幅員方向の接合部は、輪荷重走行試験においては、床版供試体継手部と輪荷重載荷位置を特に指定していませんが、想定される厳しい位置条件で検討するように留意事項を示しました。また、幅員方向に場所打ちコンクリート区間を設ける場合は継手長を確保することや、交通振動の影響を考慮して、場所打ちコンクリートの流動性や骨材の分離抵抗性を検討するものとしました。
――FEM やCOM3D などを用いての疲労照査は考えないですか
⻑⾕ PC床版の設計照査においては活用できますが、PC床版の疲労耐久性照査には、まだ疲労実験の実績が少ないこともあり、プレストレスされた床版の劣化解析モデルや解析精度向上のための実験結果とのキャリブレーションが必要と思います。
PCa壁高欄 接合部について要求性能と性能照査試験法を制定
――大規模更新などで採用事例が増えているPCa壁高欄の性能照査について
⻑⾕ プレキャスト壁高欄本体の性能照査については前回の改定で触れていましたが、今回はプレキャスト壁高欄の接合部について、要求性能と性能照査試験法を制定しました。
【設計要領第二集】[橋梁保全編]「7章 付属物」(5-5 プレキャスト壁高欄)の項を新設し、壁高欄の接合構造について、防護柵が保有する性能や耐久性の弱点とならないよう設計することや、防食性の観点から十分な被り厚や腐食の影響を受けにくい素材を使うほうが良いことを記しています。
【構造物施工管理要領】[Ⅲ保全編]に(6-3プレキャスト壁高欄)の項を新設し、材料や接合部の要求性能、照査方法について明記しています。実車衝突試験で衝撃安全性を確認しているフロリダ型の形状を基本とし、台車または重錘を用いた衝突試験により、接合部の一体性の照査をするために「NEXCO試験法441」を制定しました。