新しい床版防水工法を開発
複合防水を今年度にも正式採用へ
――4番目の一般補修技術の開発ですが、床版防水、床版上面補修など、首都高がかなり力を入れています。床版防水であれば複合防水をやっています。床版上面補修は今までSFRCを使った増厚、同厚補修を行っていたのを、最近、ポリマーセメントモルタルに代えてきています。母材も相当ダメージを受けているので、そのうえに硬いものをやっても層間剥離を起こしたりするので、同じように挙動するものをやったほうが補修できるのではないかということで、ポリマーセメントモルタルを使っているわけですけども、そういった一般補修技術でどういったものを開発しているのかを教えてください
加賀山 RC床版は下面からは鋼板接着をして補強しています。上面側は連続高架橋ということもあり、増厚は行っていませんが、防水性能を確保することが大事だと考えています。また、舗装の打ち替え時に切削機で少なからず床版コンクリート上面を削り取っており、建設当時の床版の品質、施工管理もあまりよくなく、厚さが一定していません。
そのため、通常の塗布系のアスファルト防水を行っていますが、床版自身が削られているということと、削られたうえに塗布してもムラができて、長期的な防水性能を維持できない傾向にあり、エポキシ樹脂を含浸させた上で、エポキシ樹脂とセメント粉体を混ぜ合わせたものを塗布することでコンクリート床版の凹凸を減らし、防水層との接着性能を高めました。その上層はこれまでどおりアスファルト系の防水材を塗布します。
複合防水材料の開発
問題は、施工の手間と時間がどの程度余分にかかるか、です。既に、昨年度の秋に実施した湾岸線のリニューアル工事の一部で複合防水層の試験施工を実施しており、一定の目途はついたことから、今年度の舗装工事でも適用を検討していく状況です。
――完全なスペックインは来年度ということですか
加賀山 昨年度に実際のフィールドで仮のスペックに基づいた施工を実施し、試験施工での効率性が確保できているか確認のうえ、今年度に正式スペックインを目指します。
――舗装の撤去~防水~再舗装に至る時間的あるいはその他の施工能力的な要求性能というのは何か考えられていますか
加賀山 舗装の切削は大きな音が発生するため、阪神高速道路では昼間しか施工ができません。舗装切削後、夜間に舗設することになり、切削から舗設までを防水工も含めて夜間規制時間時間内に収まるよう施工したいというのが当社の要求です。床版防水は養生も含めて3~4時間というオーダーで施工できれば理想的です。
――そうすると材料だけ良いというのではだめですね。施工体制も確立されてないと……
加賀山 その通りです。
既存塗膜除去はⅡ種ケレン相当で対応
塗膜剥離剤+パワーツールによるケレン
――次に塗装塗り替え、とりわけ、鉛やPCBを含んだ既設塗装の撤去についてのマニュアルの策定はどのように進んでいますか
加賀山 現時点では検討中です。
――と、すると鋼橋の塗り替えの発注もままならないのでは
加賀山 Ⅰ種ケレンによる塗装塗り替えは難しいという状況です。剥離剤とパワーツールによるケレンでⅡ種ケレン相当のランクで対応しており、昨年度は湾岸線大和川橋(斜張橋)など約 22,000㎡、今年度は湾岸線の鋼桁を約27,000㎡発注済みです。今後、どのような方策をとるかは未だ決まっていませんが、そろそろ判断すべき時期には来ていると考えています。
大和川橋主塔部を塗り替えた
剥離剤の塗布/塗膜掻き落とし
2種ケレン/下層1層目塗装
下層2層目塗装/中塗り/上塗り
阪神高速道路が所管する鋼桁下部の損傷事例(当サイト記事より抜粋)
――以前取材した際に、阪神高速道路の構造物のうち、3分の1ずつ鉛クロムフリー、鉛入り錆止め塗料、鉛丹入り塗料に分かれていると聞きました。特に毒性の強いのは鉛丹塗料ですが、これが阪神高速道路の中でも都心部に位置する橋梁に多いようにも聞いています
加賀山 そうですね。
中長期的な防食への影響も考慮する必要あり
無機系塗料なども一部で採用
――長期間放置すると、いかに安定性がある鉛丹とは言え劣化していくわけで、どこかで踏ん切りをつける必要があると思うのですが……
加賀山 鋼橋の塗り替えの必要性は痛感しています。実際、Ⅰ種ケレンで乾式ブラストに代わる効率的な塗膜除去および素地調整技術を検討してきましたが、環境面や安全基準面および要求性能の面から、満足できる技術を選択するには至っておらず、次善の策として剥離剤+パワーツールで現在対応しています。そうすると素地調整はⅡ種ケレン相当になるわけですが、Ⅰ種ケレンを行わずに塗り替えてしまった際、中長期的に鋼橋の防食にどのような影響が出てくるかを考慮しなくてはいけないと考えています。
――有機系重防食塗料だけでなく無機系塗料や水系塗料などの採用はどのように考えていますか
加賀山 全面的に塗り替えるための塗装としては、そうした新しい塗料に手をつけていません。しかし、グループ会社の阪神高速技術では、点検時に発見された部分的に損傷が激しい箇所に対し、応急的な補修が行える材料について継続的に試しています。その一つが無機系塗料や厚膜型2回塗りタイプの塗料です。
一部で試験的に採用している無機系塗料
ドクターパトで取得したデータをAI技術で判定
連続すべり抵抗測定車(RT3-Curve)の導入を検討
――橋梁点検技術の開発に関しては
加賀山 路面点検車「ドクターパト」を使って得たデータをAI技術を活用して判定する研究を行っています。これまでは現場の写真は撮影できても、損傷の判断は人の手で行っていました。これをAIの技術を用いてひび割れなどを自動認識できるようにしようというもので、現在、認識率は93%に達しています。また、作業時間は人力の5分の1まで短縮されました。
ドクターパト(阪神高速技術提供)
舗装ひび割れの自動検出
――首都高速道路ではディープラーニング技術を用いることで、将来的には損傷状況に対して、どのような補修補強工法を充てるべきか、まで選定できるようにしようという研究を進めていますが、阪神高速道路ではその辺はどうですか
加賀山 現時点ではそこまで検討していませんが、今後の課題かもしれません。
その他の技術開発として、寒地土木研究所の協力を得ながら連続すべり抵抗測定車の開発も進めています。既存のすべり抵抗測定技術、例えば振り子スキッドレジスタンステスターやDFテスターでは車線規制が必要でした。そのため規制が不要な連続すべり抵抗測定車(RT3-Curve)の導入を検討しているものです。
規制が不要な連続すべり抵抗測定車(RT3-Curve)の導入を検討
他には、鋼板接着補強しているRC床版を対象とした非破壊検査技術の開発を進めています。
――具体的にはどのようなものですか
加賀山 京都大学との共同研究でAEトモグラフィやアンカーセンシング技術を応用した非破壊検査技術の開発を進めているものです。当社が知りたいのは、鋼板接着補強されたRC床版のコンクリート内部の状況です。現状は、打音による補強鋼板の浮きの有無と目視による漏水の有無であり、床版の母材の状況をきっちり把握できているとは言えません。撤去した既設床版を見れば、砂利化や水平ひび割れは確認できますが、供用している床版を詳細に調査することはなかなかできません。供用している状態で詳細な調査結果により近づけることはできないか、AEトモグラフィを活用することで、水平ひび割れのような空洞の有無を確認できるようにしようというものです。あと2年間での実用化を目指しています。
鋼板接着補強しているRC床版を対象とした非破壊検査技術の開発
AEトモグラフィ技術を援用することによる床版の損傷(劣化)領域の可視化
――ありがとうございました
(2018年4月18日掲載)
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