成合第一高架橋張出架設では超大型移動作業車を採用して通行止め回数を削減
NEXCO西日本新名神大阪西事務所 新名神建設の集大成として複数の重要路線を跨ぐ難工事に挑む
NEXCO西日本関西支社新名神大阪西事務所は、新名神高速道路(以下、新名神)の淀川右岸から高槻JCT・ICまでの延長4.4kmの建設事業を担当している。延長は短いながら、構造物比率は8割を超え、事業量は非常に多い。さらに、高速道路、国道、新幹線、在来線、私鉄といった重要インフラを横過することから、難易度の高い施工となっている。新名神の通行止めを実施しながら進められている成合第一高架橋の張出架設や、想定以上の湧水が発生した高槻高架橋の基礎工など、所管事業の詳細について、徳田尚器所長に聞いた。
※建設中の構造物、JCT・ICはすべて仮称です。
事業区間内の橋梁は5橋、トンネルは1本
契約済み工事は9件で工事着手率は99%
――管内の概要からお願いします
徳田所長 新名神の八幡京田辺JCT・IC~高槻JCT・IC間延長10.7kmの建設事業を新名神大阪東事務所と当事務所で所管しています。このうち、当事務所の担当区間は、高槻市域の淀川右岸から高槻JCT・ICまでの延長4.4kmです。
八幡京田辺JCT・IC~高槻JCT・IC間概要図(NEXCO西日本提供。以下、注釈なき場合は同)
事業延長は短いですが、事業量は非常に多く、さらに重要インフラとの交差箇所が多いことが特徴です。新名神が交差する重要インフラは、淀川右岸側(東側)から国道171号、東海道新幹線、阪急京都線、JR東海道本線(京都線)、名神高速道路(上下線左右4ルート)、そして、延長約1.3kmの梶原トンネルを挟んで高槻JCT・IC部の新名神本線(名神高速との連絡路で暫定的に本線として運用)およびランプとなります。いずれも供用中の路線を新名神が横過する形となりますから、それぞれの事業者との協議に加えて、万全を期した施工が求められています。
重要インフラとの交差箇所が多い事業区間/高槻高架橋P18橋脚付近から撮影。東海道新幹線、阪急京都線、JR東海道本線(京都線)との交差が確認できる(撮影=大柴功治。以下、=*)
構造物比率は8割を超えていて、3課2工事区22人(技術12人、事務10人)の事務所職員と協力会社50人以上で事業を進めています。
――橋梁およびトンネルの数と事業延長に占める割合は
徳田 橋梁は5橋で52.3%(2.3km)、トンネルは1本で29.5%(1.3km)です(延長は下り線ベース)。
――現在の進捗状況は
徳田 八幡京田辺JCT・IC~高槻JCT・ICにおける用地取得率は96%で、工事着手率は用地取得が完了したところから順次発注していて99%となっています。上部工で未発注の橋梁がありますが、下部工の発注が完了したら着手済みとしています。
当事務所の契約済み工事は9件です。当事務所では名神高速との交差部で工事区を2つに分けていて、東側が高槻梶原工事区、西側が高槻成合工事区となります。高槻梶原工事区では、高槻高架橋東(下部工)工事、同(その2)、高槻高架橋西(下部工)工事、同(その2)、高槻高架橋東(鋼上部工)工事、高槻高架橋西(鋼上部工)工事の6件、高槻成合工事区では、梶原トンネル工事、成合第一高架橋工事、成合工事の3件が契約済み工事となっています。また、成合第二高架橋(鋼上部工)工事が2023年度第2四半期に発注予定となっています。
各課・工事区の所掌範囲と契約済み工事
橋梁一覧表(拡大してご覧ください)
トンネル一覧表
高槻高架橋 架橋地点に有馬-高槻断層帯が存在
橋脚天端拡幅などの落橋防止構造を採用
――構造物の詳細について。東側の高槻高架橋からお願いします
徳田 同橋は上り線1,288.4m、下り線1,277.4mの鋼7径間連続合成少数鈑桁橋+鋼11径間連続混合桁(鈑桁+箱桁)橋です。東側は新名神大阪東事務所担当の淀川橋と接続し、国道171号、東海道新幹線、阪急京都線、JR東海道本線と交差して名神高速との交差部の先が西端となっています。
高槻高架橋全景
高槻高架橋(上り線)橋梁一般図
高槻高架橋(下り線)橋梁一般図
同橋の特徴としては、架橋地点に有馬-高槻断層帯が存在していることが挙げられます。土質調査と文献等の結果からP15~P16間に断層帯があると想定しており、当社の大規模地震検討会で、地震が発生した時の新名神への影響を検討したところ、断層のずれにより上部工が橋軸直角方向に3m移動する可能性があるという結論になりました。先に挙げた複数の重要路線を横過していますので、万が一、落橋が生じた場合の社会的影響は非常に大きくなります。
P15~P16間に存在が想定されている有馬-高槻断層帯
そのため、P8橋脚~A2橋台の天端を左右に3mずつ(合計6m)拡幅して、上部工が3m移動しても落橋しない対策を行いました。断層帯を跨ぐP15とP16橋脚は天端の両側にずれ落ち防止のブロックを設置する変位拘束構造も採用しています。
また、連続桁のほうが落橋の可能性が少なくなりますので、重要路線を横過するP8~A2の11径間を、鈑桁と箱桁の混合桁橋ですが連続桁構造としました。
支承から桁が落ちると段差が生じますので、それを防ぐためにP8~A2の橋軸方向側の端部に段差防止構造として支承と同じくらいの高さのブロックを設置する対策も実施しています。
当区間では、有事の際にも上記のようなさらに一歩踏み込んだ対策をとることで、早期復旧を可能とし、東西を結ぶ大動脈として活躍し続けられる道路とするための取り組みを行っています。
断層変位に対する落橋対策
――鈑桁と箱桁の連続化はどのように
徳田 他の施工事例と同様に、横梁を介して双方の桁を接合していきます。
――6車線化対応は必要ですか
徳田 上下部工ともに片側3車線(6車線)での建設を進めています。
P2~P15橋脚の基礎工で想定以上の湧水が発生
止水対策として薬液注入工を実施
――施工状況は
徳田 下部工を施工中です。国道171号を境として東側のP2~P9橋脚を高槻高架橋東(下部工)工事が、西側のP12橋脚を除くP10~P16橋脚を同西(下部工)工事が、P17~A2橋台を梶原トンネル工事が、それぞれ担当して工事を進めています。P12橋脚は東海道新幹線と近接しているため、JR東海に工事を委託しています。
用地取得が早く完了して先行発注した東工事は、8基の橋脚が完成していて、8基が施工中です。西工事は2基が完成し、残り10基が施工中です。梶原トンネル工事で担当するP17及びP18は工事用道路を施工中で、A2橋台は未着手です。
淀川側の橋脚(左写真)とP7橋脚から梶原トンネル側(右写真)の橋脚施工状況(撮影=*)
同橋建設にあたっては、高圧線を約50m上げる必要があったため、関西電力に委託して鉄塔新設および高圧線移設工事を行った
――施工上の課題について教えてください
徳田 P2~P15橋脚の基礎形式は経済性を考慮して場所打ち杭となっていますが、淀川河川敷の細砂域に位置していることから、地下水位が高いことが計画時に分かっていました。設計・施工計画の段階では、ポンプアップして排水することで施工できると考えていましたが、実際に掘削を行うと底盤部から砂質土を含む大量の湧水が発生して、鋼矢板で土留めしている部分が完全に浸水しました。
ポンプアップでは施工進捗が図れないということで、止水対策として薬液注入工等を実施しています。施工量も多く、工程遅延の要因となりましたが、ポンプアップを続けるよりも効率的であることから採用することとしました。
湧水発生状況と止水対策前の状況
止水対策の概要/止水対策後
――P2~P15の全橋脚で止水対策を行う必要があったのですか
徳田 そうです。さらに、そのような地盤ですので、φ1,200mmの場所打ち杭を約30mの深さまで打込んでいます。それが1橋脚あたり約20~30本、上下線では約40~60本に達しますので、かなりのボリュームです。