生コン製造大手の横山産業グループが子会社化 「インフラ再生分野」のコア担う
横浜システック コンクリート橋を中心とした一次専業として5年後には20億円の売上げ目指す
株式会社横浜システック
取締役会長
重松 伸也 氏
国土交通省、NEXCO各社や首都高、名高速、JR、神奈川県内の民鉄などで補修補強の専業者(一次下請)として知られる横浜システックの会長に重松伸也氏が就任した。同氏は大手建設コンサルタントの橋梁設計技術者として活躍し、同社グループ内の取締役や社長などを歴任し、さらに近年では橋梁保全工事会社の技術部長を務めるなど、主に橋梁の新設から補修、設計から現場の様々な分野に精通しており、その知見を同社の発展に生かす。同社は生コン製造大手の横山産業が既存の「生コンクリート事業」「不動産事業」に次ぐ、第 3 の柱として「インフラ再生」をキーワードとした事業を展開するために100%株式取得をしており、同氏は横山産業の取締役新規事業部長として、「インフラ再生分野」の事業立ち上げも担っている。その構想について聞いた。(井手迫瑞樹)
インフラ再生分野を担うビジョンと企業の成長を図る意思が一致
横山産業グループが株式買収
――横浜システックとはどのような会社ですか
重松会長 国土交通省、NEXCO、首都高、名高速などが所管する道路構造物やJR、民鉄などの鉄道構造物の橋梁・トンネルなどのコンクリート構造物のメンテナンスを一次下請けとして担っている会社です。20年前に大手構造物保全会社にいた技術者が独立して作られた会社ですが、人手や資本力の状況から、近年は売上11億円程度、純利益も5%程度で推移しており、同社がこれからの成長を図るためという事と、横山産業の新たなる柱である「インフラ再生分野」を担うというビジョンが一致して、株式取得に至りました。旧経営陣や従業員も今まで同様働いていただいており、円満な株式取得となっています。
新幹線高架橋の補修状況(横浜システック提供、以下同)
――そもそもなぜ専業者(一次下請業者)の株式取得をしたのですか、元請を担える業者の株式取得することは考えていなかったのですか
重松 これは自論ですが、現場で「本当に」施工しているのは専業者(一次下請業者)だと考えています。その技術力を整備しなければインフラの保全はできません。その思想に基づき、今後も横山産業グループは「インフラ再生分野」の事業拡大のため、積極的にM&Aを進めていきますが、その対象は専業者(一次下請)で技術力のある会社に絞っています。
道路や鉄道などのコンクリート構造物補修補強が中心業務
5年後には技術系人員を20人純増させる
――よくわかりました。さて、維持管理ということですが、横浜システックの事業対象は主にコンクリート構造部ということですね。鋼構造分野はどのように考えていますか
重松 横浜システックの売上に占める割合はコンクリートが9割、鋼が1割というところで、鋼構造物の補修補強は現状では積極的に動くことは考えていません。
――コンクリート構造物の補修補強技術はどのようなものを有していますか
重松 タフガードQ-R工法、SR-CF工法、Hiper-CF工法、リフリート工法、PCM吹付工法、テクノクリートなどのコンクリート構造物に関する補修補強技術を有しています。また、施工着手前は必要に応じて、再調査・診断を行い、現場にあった補修補強提案を元請け様に対して行うことにしています。
様々な補修補強工法を施工している
――売上、利益は年11億円強、純利5%程度という事ですが、現在の会社の人員状況とこれを中期的にはどう伸ばし、増やしていきますか
重松 現在の人員構成は技術者・施工員が30人、役員・事務が10人という体制です。役員は私や社長のような技術者もいますから、9割程度が技術系の人員といえます。5年後には技術系人員を20人純増させ、60人体制にし、売上は20億円の大台に乗せたいと考えています。
また、現在は1級土木施工管理技士が9人、同2級が5人いますが、そうした資格者を増やすと共にコンクリート診断士や技術士の有資格者も増やし、頭数だけでなく個々の技術力も増強していきたいと考えています。
経験不問で人材獲得し、自社で育てる
新技術 床版裏面のPCM吹付の自動化は図っていきたい
――20人増やすという事ですが、有能な技術者はどこも取り合っており、キャリアのある人材は採用が困難な状況です
重松 キャリア人材の採用は進めていきますが、なかなか難しいことも認識しています。そのため、老若男女を問わず経験も不問にし、土木に興味のある人材を受け入れ、意欲を有する人材を当社が独自の教育カリキュラムで速成していく方針としました。カリキュラムの内容は、土木とは、土木工事とは何かから始まり、施工管理の4大管理を教えるなど基本的必須項目を講義した上で、大学で学ぶコンクリート工学や構造工学も教育・実習をします。またメーカーにも協力していただき、各種補修補強材料の適用範囲や条件なども叩き込んでいきます。
土木業界の経験がない人材も、やる気があれば採用し、一から育てる
――なるほど、自社で人材を教育していくという事ですね。では独自技術開発の方針などはありますか
重松 改良の面では吹付工法の自動化、特に床版裏面のPCM吹付の自動化は図っていきたいと考えています。仕上げ面での熟練工の腕(コテ仕上げなど)が非常に高いことは承知していますが、それは誰もが出来ることではありませんし、人手も足りません。できれば施工フローのほとんどの部分まで吹付で行うことが出来、最後のディテールだけ熟練工の手を借りるということが出来ればと考えています。
――コンクリート構造物の補修においては塗った貼っただけではなく、その前のはつりや表面処理も重要ですが、その分野においてはどのように考えますか
重松 重要性は認識しています。WJ機械自社での購入やその機械を用いた自社もしくは協力業者の技術者の育成が出来ないか検討しています。
既存工法のみではなく、新たな材料・施工方法を各メーカーさん・大学と共同して開発していきます。キーワードは省力化・自動化です。
建設コンサルタント時代はPCエクストラドーズドなど長大橋の設計に従事
火災現場復旧の技術提案と復旧工事もプロマネとして担当
――さて、重松会長自身のご経歴を少し教えてください
重松 私は大手建設コンサルタント会社で、グループ子会社の代表も含め、26年間、大学(徳島大学工学部建設工学科/宇都宮英彦教授(風工学))を卒業してから知命になるまで主に橋梁設計を行う技術者として、さらには人事総務・経営も含めた役員としてのマネジメントも含めて勤めてきました。
――建設コンサルタント時代の代表的な設計構造物は
重松 心に残っているのは岐阜の徳山ダム(世界一のロックフィルダム)の湖面を渡る橋梁として建設された徳之山八徳橋です。同橋は橋長503mのPC3径間エクストラドーズド橋で中央径間は実に220m、側径間も140m弱という超スパンの橋です。さらに橋脚高も約100mに達する橋であり、大口径深礎もφ19,000mmと実に設計のやりがいがある橋でした。
徳之山八徳橋の設計も担った
――中央も側径間もかなりの長さですね
重松 同橋が通過する箇所には活断層があり、それを避けなくてはならないため、長支間化しました。施工を担当した会社が、実に見事に仕上げてくれました。
――建設コンサルタントグループ退職後は
重松 ドイツに本社のある災害復旧サービスの世界的大手企業の日本法人でセールスエンジニアとして5年間勤めました。
――どんな業務を行ってきたのですか
重松 火災現場復旧の技術提案と復旧工事です。主に民間の工場・プラントやビルが対象で、損保会社からオファーが届き、それから動いて現場を見て復旧の仕分け(何が使えて使えないか)を行い、技術提案を行う業務でした。技術提案といっても、単に設計・工程管理を行うだけでなく、施設をどれだけ早く復旧して生産や利用を再開するか、資金回収業務などまでまかされたプロジェクトマネージャーとして、現場を一気通貫するため、非常に面白い仕事でした。
――そして近年は橋梁保全工事会社で技術部長を務めていました
重松 2年間勤めました。在職中はRCプレキャスト床版などの開発業務や同社の技術的な面の向上に努めました。同社とは現在もアドバイザリー契約を結んでおり、RCプレキャスト床版の設計業務や、ほか全般的な橋梁保全工事の技術的助言を行っています。
――さて、最後に横浜システックの近年の構造物実績について教えてください
重松 現在、一次専業として施工中の主な橋としては国道1号BPの浜名大橋があります。同橋では主桁の断面修復などを行っています。さらに近年では新幹線構造物や高架橋の補修工事など重要路線の比較的大規模な業務を行っています。元請け工事会社様・施設管理者からの信頼も厚く、毎年5件前後の表彰を頂いています。
国道1号BPの浜名大橋
今後も社会インフラを長寿命化して後世に残す持続可能な社会を目指すために努めていきたいと考えています。
――ありがとうございました