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2023新年インタビュー⑤ RC2層式アーチ、長支間の波形鋼板ウェブ橋、100m近いハイピア、難易度の高い6車線化

NEXCO西日本新名神大津 持てる技術を総動員して考え、施工する

西日本高速道路 関西支社
新名神大津事務所
所長

宮内 智昭

公開日:2023.01.26

「砂防の聖地」に高速道路を作るため緑化には細心の注意を払う
 国産の在来種の種を使うことにこだわる

 ――切土、盛土、のり面の対策などで特徴的な施工について
 宮内 田上地区は奈良時代に神社仏閣建立のための木の伐採が盛んに行われていました。乱獲により山の表面の花崗岩が風化した真砂土が流れ出し、災害が頻発していました。伐採は止まりましたが、信楽焼の土の供給源ともなっていたので、緑化が進みませんでした。そのため、明治時代から直轄事業で山腹工などによる砂防事業が行われていて、「砂防の聖地」と言われている地域となります。その地域に高速道路を建設するにあたり、有識者を交えたのり面検討会を開催して地域にあった緑化を決めてきました。

 ――具体的にはどのようなことを行うのですか
 宮内 通常、盛土構造では種散布などが基本になります。その際には主に外来種の種で行いますが、この地域では地域に合った植栽をすることを基本に考え、国産在来種の力芝や蓬、風草の種を使って吹付けを行います。また、切土部では、地域に自生している草木を従来の種吹付けの後に苗として植栽し、早期に地域に馴染むようにすることを考えています。
 ――それらは地元で植生しているものですか
 宮内 地元というよりも国産の在来種の種を使うこととしています。

6車線化 つめた谷橋で拡幅完了、ほか3橋で工事が進む
 増桁 床版の新規張出 各橋個別の対応が必要

 ――6車線化の進捗状況は
 宮内 工事が完了したのはつめた谷橋の1橋(下り線)、工事中が佐治川橋(下り線)、神保第二高架橋(上下線)の3橋(桁増設もあり)、工事契約済みが文蔵谷橋(上下線)の2橋ですが、同橋は単純ポータルラーメン橋のこともあり、土工工事に含めています。杭も増やして上下部一体型で拡幅するといった難しさがあります。


つめた谷橋一般図

 ――つめた谷橋は
 宮内 もともとがPRC2主鈑桁橋ですが、拡幅のため内側にもう1本主桁を増設し、床版を施工して拡幅しました。施工中の佐治川橋はPC連結桁、神保第二高架橋もPC2主鈑桁ですが、同様に1本主桁を増設し、床版を施工して拡幅しています。5万台の交通量の真横で施工していく難しさがあります。


つめた谷橋 拡幅のため内側にもう1本主桁を増設

佐治川橋の施工状況

神保第二高架橋の施工状況

 ――他の橋も同様に桁を増設して、床版を拡幅していく手法ということですね。特徴的な橋はありますか
 宮内 すべてが特徴的といえます。例えば、杉谷川橋(上下線)、土立谷橋(下り線)と取谷橋(下り線)については、現在、波形鋼板ウェブの外側に斜めストラットを設置して両側拡幅を行う計画としています。
 ――斜めストラットの材質は
 宮内 構造は設計中なので、コンクリート製または鋼製になります。死荷重から考えれば鋼製ですが、防錆の課題があります。コンクリートを主体とした材料の場合、重量物なので取り回しに課題があります。供用している2車線を活かしながらの施工となるので、特殊な台車を設置しないとストラットをセットできません。今後、検討して最適な構造にしたいと思います。
 ――高欄を抱えこむような台車を両端部につける訳ですね
 宮内 抱え込むようにするのか、片持ち形式にするのかは検討中です。ただ、その台車で斜めストラットと拡幅部の床版を施工していきます。
 ――ストラットはどのような形状ですか
 宮内 円形または矩形の形状になるものと思います。
 ――6車線化のための取付け部はもともとあったのですか
 宮内 杉谷川橋(上り線)土立谷橋(上下線)と取谷橋(下り線)には下床版がコンクリート構造であり、設置できるものと考えています。杉谷川橋(下り線)については、波形鋼板で、下床版部が桁内部にある状態で外側に面した波形鋼板にストラットを取り付ける構造になるものと考えています。詳細構造は詰めていくことになります。
 また、その他の橋梁でも1BOXに対して、2BOX目を構築したり、PCも箱の形を変えて付けたり、このような難しい橋が27橋あると言うことです。いずれにしても、既設橋の拡幅は簡単ではありません。

 ――上下線で形状が違ったり、外側だけ拡幅が必要だったり、内外両側に拡幅が必要だったり、いやはや……
 宮内 拡幅を行う条件として、本線運用が内側運用、中運用、外側運用の3種類あります。そのため、拡幅も内側拡幅、外側拡幅、両側拡幅の3種類となります。それに、メタルとPC、箱桁、鈑桁の組み合わせが出てきます。
 ――紫香楽橋下り線は開断面箱桁に桁増設するわけですか、これもまた難しいですね。元々の既設桁の設計自体が攻めてますね。開面面箱桁構造でありながら桁幅をスレンダーにして、上下2本のストラットで支えているとは凄い
 宮内 この構造を生かしつつ拡幅するために横桁と、現在の既設床版を支えているストラットの接合部に変則的な鋼桁の仕口を張出し、剛結させることを考えています。

 ――剛結のための張出ですか
 宮内 床版をもたせるために、これくらいの箱が必要になります。ただ、まだどのような形になるかわかりません。
 ――定着部がもともと作ってある橋梁もあれば、杉谷川橋のように定着部がない橋梁もあると。さらに、箱桁を拡幅しなければならない池田高架橋や高野高架橋、杣川橋みたいな橋梁もあれば、横梁を設置しなければならない紫香楽橋みたいな橋梁もあるということですか
 宮内 そうです。そのため、技術提案交渉方式で施工者のノウハウをフルに活かしながら、一緒に進めていくというイメージです。形状が決まっても、新名神の交通を確保しながら架設ができるのか今後安全面を第一にしっかり検討していきたいです。


紫香楽橋

杣川橋

 ――現場環境も施工の難しさを左右すると思います。例えば、紫香楽橋は
 宮内 同橋は信楽ICにありますが、文化財の紫香楽宮が高架下にあり、ベントの基礎杭が施工できないなどといった制約があります。
 ――ベント構築できない橋梁は多いですか
 宮内 山間部で高橋脚となります。送出しができればいいのですが、できなければヤードを確保して施工していきたいと考えています。
 ――架設計画から考えないとなりませんね
 宮内 そうです。

新治橋など下部工を増設する橋梁も
 PC床版拡幅部 既設定着部と新設PC鋼材をカップラーでつなぐ

 ――下部工を増設する橋梁もあるのですか
 宮内 先ほどのポータルラーメン橋(文蔵橋)と新治橋です。橋脚を拡幅しますが、増杭の可能性もあります。ただ、その実績はありますので、あまり難しいとは感じていません。
 ――前回の取材で、つめた谷橋と神保第二橋では既設高欄を切断して、新しく桁と床版をつなげて一体化させるとの話を伺いました。PC床版部はどのように一体化させるのですか
 宮内 つめた谷橋の拡幅について申し上げますと、まず、既設の桁は既設高欄を切断し、既設床版端部の横締めPC鋼材定着部を斫り出しておきます。本橋は拡幅主桁についてプレキャストコンクリートを採用したため、主桁を架設、2次床版施工前に既設のPC床版定着部と新設する拡幅部のPC鋼材をカップラーでつなぎ、拡幅部の一方の定着部を形成しておきます。さらに2次床版を打設し、横締め鋼材の緊張を行うことで新設主桁との一体化となります。


つめた谷橋の既設壁高欄撤去状況

既設床版端部のはつり(左)、セグメント製作状況(中、右)


横締めカップリング施工状況

使用した接続具

横締め緊張およびグラウト状況

間詰部の打設及び縦締め緊張

壁高欄工

 ――床版は3車線が一体化したプレストレスが働いている状態になるのですか、それとも拡幅部と既設床版部とは別々にプレストレスが働く状態になるのですか
 宮内 後者です。新規床版境界の定着部にはひび割れを防止するために鉄筋を配置しています。
 ――高野高架橋は池の中に門型RC橋脚があり、そこに剛結されているPC箱桁があります。この増桁が、新設当時は桁幅の内側の舗装幅を増桁すればできるのではないかという発想でしたが、橋脚の補強などが難しいという話を前回の取材で聞きましたが、現在、どのようになっていますか
 宮内 この橋梁も同様に主桁の増設が必要です。剛結部に主桁をどのように取り付けるかについては、今後の詳細設計で検討していきます。
 ――橋脚の補強や張出も必要ないということですか
 宮内 必要ない構造として計画しています。
 ――支承が新たに必要になるだけですね
 宮内 既設支承については拡幅重量に対して考慮されたサイズになっています。詳細設計により必要に応じて交換する可能性はあります。
 ――前回の取材でも思いましたが、ひとつとして簡単な橋梁はないですね
 宮内 ないと思います。
 ――高野高架橋の現状は
 宮内 技術提案交渉方式の設計を契約した段階です。工事契約はまだです。

防食 溶射は重交通路線との交差箇所や鋼板ウェブの一部に使用

 ――新設、6車化ともに鋼橋の防食はどのようなものを採用する予定ですか
 宮内 鋼橋については重防食塗装や金属溶射を採用しています。金属溶射は重交通路線との交差箇所やPC波形鋼板ウェブ橋の鋼材とコンクリート境界部にも施工しています。

遠隔立会を積極的に取り入れる

 ――和歌山の現場では、i-conのひとつとして遠隔立会を実施していました。その際に、立会いの監視カメラの位置が正しいかなどを監視するカメラを設置していました。各現場では遠隔立会いは実施していますか
 宮内 実施しています。
 ――橋梁、トンネルを問わずですか
 宮内 和歌山などを参考にしてすべての工事において積極的に取り入れています。とくに、本事務所で特徴的なのは、切土やトンネルの岩判定について、副所長を頭にして判定委員会を行いますが、それを現地に複数人が判定会を行っていましたが、それも遠隔にして全員で行くのではなくて、あらかじめキャリブレーションを行って、必要最低人数でカメラを持って現地に行って、あとは事務所で判定を行います。
 ――カメラを持って現地に行くのは
 宮内 事務所の人間と受注者の両方です。
 ――大勢で行くわけではなくて、代表が行って、ウェアラブルカメラで確認する形ですね
 宮内 完全な遠隔は難しいですが、少しでも業務量を削減できる取り組みは行っています。
 ――ありがとうございます

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