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2023新年インタビュー⑤ RC2層式アーチ、長支間の波形鋼板ウェブ橋、100m近いハイピア、難易度の高い6車線化

NEXCO西日本新名神大津 持てる技術を総動員して考え、施工する

西日本高速道路 関西支社
新名神大津事務所
所長

宮内 智昭

公開日:2023.01.26

天神川橋 RC2層アーチを採用 基礎を大口径深礎から直接基礎に変更
 充腹アーチ部 排水機構が重要

 ――次に天神川橋についての橋梁概要と進捗状況は
 宮内 天神川橋は橋長552mのRC7径間連続2層アーチ橋です。下が開腹アーチで上に充腹アーチが乗る構造です。


全体一般図

完成イメージ


天神川橋の進捗状況1

 ――2層アーチ構造にした理由は
 宮内 周りには琵琶湖疎水から始まって、オランダ人土木技師のヨハネス・デ・レーケ氏が指導された石積みアーチが特徴的な土木遺産の堰堤がたくさんあります。その様な土木遺産や地域に馴染むようにアーチ橋を採用しました。2層としたのは、床版の損傷を考えてPC床版にすれば耐久性は確保できるのですが、もっと耐久性の高い構造を考えた時に、床版が不要な充腹アーチとしました。土工管理ができる橋梁ということです。また、支承がないため、支承取替等の維持管理が不要であり、伸縮装置がないため、伸縮装置の劣化に伴う漏水による桁端の劣化を回避できるなど維持管理性に優れています。
 一方、充腹アーチの適用最大支間は35m前後であり、本橋のような幅の広い交差物件がある場合や、谷地形で地域分断が懸念される場合での適用事例はほとんどありません。また、中詰土の地震時慣性力が大きいため、本橋のように大規模かつ高橋脚を有する山岳地橋梁への適用実績もほとんどありませんが、下層地盤として開腹アーチを構築し、上層に小さい充腹アーチを造る構造を採用することにより地形的な条件をクリアしました。

 ――開腹アーチのスパン割は
 宮内 側径間72m、中央径間で84mとなっています。
 ――どのように施工するのです
 宮内 下層アーチについては、メラン鋼材(鋼製の箱桁)を支保工として設置し、メラン材に型わくを設置し、コンクリートで覆う工法を採用しました。上層アーチはプレキャスト部材として工場製作し、支保工設置して架設する計画です。


天神川橋の進捗状況2

 ――施工上の工夫点や気を付けるべきことは
 宮内 開腹アーチのステージングですが、打設した部材の自重による支保工の変形を抑制するために支保工に工夫をしなければなりません。そのためジャッキで支保工の高さ調整をすることや、タイロッドによる変形拘束を行っています。
 ――基礎形式はどのように考えていますか
 宮内 計画時点では橋軸方向に30mの楕円形の大口径深礎杭でした。架橋地が硬質な花崗岩だったことから掘削において課題がありました。そこで、掘削量を減らすために地盤状況が安定していれば直接基礎でも可能ではないかと考えて、複数の平板載荷試験を行った結果、安定した支持地盤が確認できたことから、設計時の大口径深礎から直接基礎へ変更することが可能と判断しました。これによりコスト縮減と工期短縮が図れました。


基礎施工状況

 ――充腹アーチ施工時の気を付ける点は
 宮内 上層アーチは支間長16mであり、プレキャスト製品であることから輸送及び架設能力を考慮し、橋軸方向に2分割(約8m)、橋軸直角方向に13分割(約2m)で分割し、下層アーチ上の中間梁上に設置します。クラウン部は場所打ちで一体化します。直角方向は横締め材で一体化します。上層アーチの中詰め材は良質な現地発生土を使用する計画です。しかし、アーチの付け根部は狭隘で締固めなどの施工性を考慮し、流動化処理土を使用することはできないかと考えています。
 ――兵庫県内のある充腹アーチ橋では土の部分に水が入り、路面が沈下している個所もあります。排水も重要になってきます
 宮内 床版はありませんが、RCの舗装版がありますので、それが梁として保つことにより、路面の小さな不陸が顕在化することは少ないと思います。しかし、RC版の下に空洞が生じているか否かについてはチェックできる体制が必要です。例えば、トンネルの周辺はコンクリート舗装が多くなっており、その舗装下に空洞が生じ路面に穴が空くといった事例もあります。電磁波レーダーなどで損傷を速やかに見つけ、すぐに補修できるような体制は必要です。


通常の橋と天神川橋の違い

 排水も重要です。路面水はすべてアーチの中に入るものとして対策を考えます。うまく導水して、速やかに外に出さないと、中詰め土の流出につながります。
 ――導水はどのようにするのですか
 宮内 表面排水については路肩側に設置した円形水路を設置して橋脚ごとに橋下に導水します。上層アーチ内に雨水が浸入することも想定できますので、地下排水溝のような構造で積極的に導水することを計画しています。なお、雨水が万が一アーチ内に帯水した場合を想定して、アーチ部材に防水工の設置、上層アーチの一部には鉄筋に代わる材料として腐食しない炭素繊維強化プラスチック(CFRP)ロッドを採用する計画です。
 ――景観の問題もあると思いますが、排水管はどのように収納するのですか
 宮内 維持管理性もありますので、必要最小限以外は、構造物の表面に設置する計画です。上層アーチ内には最小限の排水管が埋設することになります。そういいつつも景観にはこだわりたいので現在付属物等については検討しているところです。

充腹アーチのスプリンギング部にCFRPロッドの使用を検討

 ――RCアーチ部の具体的な鉄筋代替の検討はどうなっていますか
 宮内 上層アーチについては、雨水の浸入による腐食環境を想定して、腐食しない部材を採用しました。そこで鉄筋代替として炭素繊維強化プラスチック(CFRP)ロッドの採用を考えています。
 現在、CFRPロッドを補強材として適用することに関して、必要な技術的検討を概ね完了し、設計手法の整理を行っているところです。


CFRPロッド(筋)の補強材としての適用を行う

信楽川橋 DP3のピア高97mは新名神最高
 足場型わく一体セルフクライミングシステムを用いて建設

 ――信楽川橋について橋梁概要から
 宮内 信楽川橋は上りが橋長609m、下りが橋長665mのPRC5径間連続波形鋼板ウェブラーメン箱桁橋で下部工は逆T式橋台、柱式橋脚となっています。地盤は花崗岩が主体で硬質な岩盤帯であり、また、傾斜も30度から40度の傾斜地形であることから施工環境は極めて厳しい箇所です。基礎工法は大口径深礎及び深礎杭を採用しています。
 ――橋脚高は
 宮内 最も高い橋脚は、信楽川橋DP3の97mとなります。新名神高速道路では、供用区間で最も高橋脚である川下川橋の95mを超え、最も高い橋脚です。地上から路面までの高さは100mを超えます。現在はDP3とUP3を含む2橋脚の施工が、上部工で打設する脚頭部の10mを除き完了しています。橋脚は全て中空橋脚となっています。
 ――DP3は97m、UP3も92.5mあります。どのように施工したのですか
 宮内 足場型わく一体セルフクライミングシステム(オーストリアのDOKA製、杉孝が運用)を用いて施工しています。型わくは高さ5mロットでコンクリート打設していき、その上で鉄筋を組み立てられるよう足場が一体運用されています。足場全体の高さは21.5mに達します。これを用いてDP3、UP3の場合、18ロット打設しました。効率的であるうえに、高所での足場の組み換えを少なくできるので安全面でも向上しているといえます。



クライミング足場組立状況

スランプ15cmで打設、プツマイスターを使用してポンプ圧送

 ――DP3やUP3は、図面のようにDP2、UP2で使うようなインクライン(後述)を設置できる地形にありません。また、LEED工法のようなプレキャスト型わくを地組できる広さのヤードもありません。どのように打設したのですか
 宮内 深礎杭の部分についてはスランプ12cm、橋脚部についてはスランプ15cmに設定して下からポンプ圧送してコンクリートを打設しました。鉄筋もSD490のD51を使い、過密配筋を回避しています。


鉄筋組立状況

生コン打設状況

 ――それにしてもこの高さをよくポンプ圧送できましたね
 宮内 能力の高いポンプ車(プツマイスター(ピストン式 BSF28.16H))を50m以上の高橋脚に使用しました。スランプを15cmに緩和し、さらに持ち込み時だけでなく、筒先でも頻繁にスランプを確認しながら打設しました。また打設時期にも恵まれました。暑中コンクリートとなる2021年8月に低いところから施工をはじめ、22年6月に施工を完了させたため、温度環境的にも良い環境でコンクリートを打設できたことが良好な打設品質の確保につながったと思います。


能力の高いポンプ車を50m以上の高橋脚に使用

大規模な仮橋やインクラインを設置
 支保工にはパラミックス工法を採用

 ――ほかの下部工については
 宮内 残り6橋脚(UP1、DP1、UP2、DP2、UP4、DP4)、2橋台(UA1、DA1)に着手済みで、2橋台(UA2、DA2)は掘削を完了し、基礎杭の着手前です。
UP1、DP1は大口径深礎杭の掘削を完了、鉄筋構築中、UP2及びDP2は躯体の施工に入っています。UA1、DA1は基礎の施工中です。UP4、DP4は掘割式土留めの施工中です。
 ――UP1、UP2、DP1、DP2は仮橋やインクラインを組んでいるため、UP3、DP3よりは幾分施工が楽になりそうですね
 宮内 インクラインは高低差60mのものを採用しました。インクラインを使うことで仮桟橋に比べて距離と手間を大きく短縮できます。また、トンネルに隣接しているため、貫通まで待って工事用道路を作った上で仮桟橋や橋脚の施工では時間がかかりすぎます。P3方向からP2方向へ進むことのできるインクラインを使うことで工期はぐっと短縮できます。
 仮橋工の高さは55m程度の非常に高い箇所になるものもあります。インクラインおよび仮橋の支保工には鋼管支柱パネル式鋼管桟橋架設工法(パラミックス工法)を採用しています。


インクラインおよび仮橋の支保工には鋼管支柱パネル式鋼管桟橋架設工法(パラミックス工法)を採用

 同工法は、仮設桟橋構築に必要な支持杭を地表面付近で打ち止め、上部支柱と桁材などを地組パネル化したものを取り付ける工法です。従来では地表面から相当な高さの支持杭の突出による品質・安全性の低下が懸念されていましたが、同工法では杭位置管理をより高精度に施工でき、かつ地組パネル化のため溶接などの作業が大幅に減少します。山岳地域において、できるだけ山林を伐採せず環境負荷を少なくできる工法としても有効です。
 高橋脚のコンクリート打設の際のポンプ圧送も足場を使えるため、圧送距離はずいぶん短くできる状況です。



インクラインおよび仮桟橋の施工状況

 ――他の仮桟橋工法との違いは
 宮内 鋼管支柱パネル式鋼管桟橋架設工法で杭を打ち込むのはGL5~10mで、その杭頭に基礎梁を作って、その後は約10m高さごとに水平梁と鉛直材からなる籠状のパネルをクレーンで吊り上げ、高力ボルトを用いた添接によって接合することを繰り返していき、最後に覆工板を載せて完成となります。工場で高精度に部材製作を行って現場に搬入するため、ずれはほとんど生じず施工できます。添接構造ですので溶接のような手間もかかりません。
 ――上部工の支間長および桁高は
 宮内 信楽川橋が180mで、先ほど紹介した大戸川橋が160mです。波形鋼板ウェブ橋の実績のなかでは最大級のスパンです。桁高は柱頭部で11m、中間部で5mに達します。上部工はUP3、DP3の脚頭部の施工に着手しています。

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