市街部橋梁は両側拡幅、トンネルも様々な対策必要
NEXCO西日本佐世保工事 佐々IC~佐世保大塔IC間16.9kmを4車線化
西日本高速道路九州支社佐世保工事事務所は、佐々IC~佐世保大塔IC間16.9kmの4車線化工事を進めている。同区間は、構造物比率が56%と高く、橋梁は5.7km、トンネルも3.6kmに達している。佐世保市街地を通る高速道路高架橋の真下には市民の生活道路であり、昼間交通量が3万台と非常に多い長崎県道11号が走っており、この道路を規制しながらの施工は容易ではない。さらに場所によっては橋脚の梁を両側に広げ、さらにその後、県道を規制しながらトラッククレーンベントあるいは門型架設機を使って夜間架設しなければならない。また弓張、天神両トンネルとも坑口付近の課題を解消ながら施工せねばならず、口石大橋や沖新高架橋は非常に長いスパンを1夜間で送り出すことが求められる。また、竹辺1号橋付近の橋台基礎や切土では硬岩やボタがあり、その対策も行わねばならない。それらの詳細について大岡慶巳所長に聞いた。(井手迫瑞樹)
管内の進捗状況(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)
暫定2車線区間は約3万台の交通量
料金体系の見直しも
――管内の地勢的特徴と道路の整備方針及び構造物の整備の考え方について
大岡 西九州自動車道は、福岡市を起点にして、唐津市、伊万里市、佐世保市などを経由して武雄市に至る延長約140kmの自動車専用道路ですが、当事務所はそのうちの佐々IC~佐世保大塔IC間約16.9kmの4車線化事業を担当しています。
当該区間は暫定2車線で供用中ですが、1日当たりの断面交通量が約3万台と非常に多い路線で、4車線化完成後は、佐々IC~佐世保大塔IC間すべてを有料道路としてNEXCOが維持管理していくことになります。
料金徴収にあたっては、新たな料金所を新設するのではなく、各ICにETC無線アンテナを設置して効率的に料金を徴収する計画であり、ETC車両は距離に応じた料金となりますが、現金車両は全区間均一の料金となります。
――工事全体の進捗率と構造物比率について教えてください
大岡 土工・下部工・トンネル工事についてはすべて発注済であり、着手率が100%となっています。また、橋梁上部工工事も本年度中にはすべての工事を発注する計画であり、全線にわたって工事が本格化しているところです。
構造物比率は56%で、橋梁が5.7km(鋼5橋、PC7橋、※佐世保高架橋は鋼橋に含む)、トンネルが3.6km(2チューブ)です。
――道路の整備方針および構造物の整備の考え方について
大岡 佐々IC~佐世保大塔IC間の4車線化事業において、最も工事に時間を要するのは、佐世保中央IC~佐世保みなとIC間の連続高架橋箇所の拡幅工事です。
特にⅠ期線の橋梁を両側に拡幅する区間の工事にあたっては、西九州道およびその高架下の県道11号の通行止めが必要になってきますが、この区間における西九州道の日断面交通量は約2万台、県道11号が同約3万台と交通量が多く、地域の皆さんの生活道路となっているため、継続的な通行止め等が出来ない状況になっています。
このため、通行止めなどは全て夜間で実施する計画とし、県道11号のう回路確保を考慮した施工範囲を検討し、全体を9ブロックに分けて順次完成させていく施工計画を立案し、社会的な影響の低減を行っています。
交通規制の期間をできるだけ短縮するため、コンクリート橋脚張り出し部の構造に鋼製梁を採用したり、鋼橋の架設にジャッキアップによる一括架設を採用するなどの工夫も行いながら工事を実施しています。
佐々IC~佐世保中央IC間 弓張トンネルが最大の構造物
切土部 ブレーカーでは刃が立たずビッガー工法を使用
――各路線の特徴は
大岡 佐々IC~佐世保中央IC間は山間部に位置しているため、延長9.1kmの中に弓張トンネル(約2.7km)、および橋梁8橋(約1.8km)があります。また、残りの土工区間約4.6kmは、殆どが切土となっています。盛土は佐々IC付近だけです。
弓張トンネルは2020年12月から西側坑口より掘削を開始しており、22年5月末現在で約1,600m掘進しています。
現在、発破掘削により施工していますが、東側坑口部は土被りが薄く(40~60m程度)民家が密集しているため、そこに掘削箇所が近接してくる段階で、東側坑口の500mぐらい手前から制御発破、機械掘削などへの変更により、影響を低減させることを検討しています。
弓張トンネルの施工①
弓張トンネルの施工②
弓張トンネルの施工③
――坑口付近の抑止杭などは必要ありませんか
大岡 地山は頁岩と砂岩の互層ですが、地層はほぼ水平状態と安定しており、そうした補強の必要はありません。今のところ水も出ていない漏水対策や、集水井の必要もない状況です。
トンネルから生じたずりは、内部よりベルトコンベアで運搬して、明かり部に設けているずりピットにずりを溜めて搬出しています。土の運搬に当たっては西九州道本線を使って搬出しています。
――切土部分の施工についても難しいようですね
大岡 硬岩がほぼ主体で、種類としては砂岩で非常に硬い地層となっています。Ⅱ期線側での施工であり、発破が打てないので機械掘削していますが、岩に亀裂が少なく、ブレーカーによる掘削では1日10㎥ぐらいしか施工できないことから、試験施工を行い、ブレーカーで掘削できないところはビッガー工法を用いて機械的に破砕して、掘削しています。トンネルで水平打ちして使うような機械を土工部で鉛直に使用していると考えて下さい。
現場では、土工、トンネルが最盛期を迎えています。
ビッガー工法
また、竹辺2号橋のA1側で、ボタ(石炭カス)が積まれている個所が切土の一部に出てきています。N値が5程度と軟弱で、そこは範囲の特定を行ったうえで、長期的な対策も見据えて法面工をどのように行うか検討しています。
竹辺2号橋全体一般図(拡大して見てください)
ボタ山①(井手迫瑞樹撮影)
竹辺2号橋のA1側での地盤調査(井手迫瑞樹撮影)
ボタ対策にロータスアンカー工法を検討
須崎橋では古洞対策で杭深を約30mの深さに
――杭などは打たないのですか
大岡 現在は自立していますので、杭などの施工は考えていません。安定勾配で掘削するのが最も良いと考えますが、用地の制約もあり、ボタの安定勾配も施工実績が少なく、はっきりしていません。ただ、降雨などにより長期的に緩むことも考えられますから、ロータスアンカー工法により安定させることを考えています。佐々ICのあたりは昔炭鉱があり、その名残かと思います。工事で使用している工事用道路も、昔、石炭を運んでいたトロッコ列車の軌道跡を使ったりしています。
ボタ山②
――炭鉱跡というと基礎の構築に大きな影響を与える古洞の有無が気になりますね
大岡 佐々ICの近辺で古洞が確認されています。須崎橋の直下に古洞があるようです。国土交通省が施工されたⅠ期線では古洞を注入剤で埋めて施工したようです。
須崎橋の橋梁一般図(拡大して見てください)
ただ、我々は国交省の残している情報のみに依拠して施工するわけにはいきません。現設計では、杭の定着部は空洞の上に設定し、古洞を埋めるものでしたが、ボーリング調査等を実施し、古洞より下2m程度杭の定着部を延伸したうえで、コンクリートの流出対策の施工を検討しています。
須崎橋の施工予定地(井手迫瑞樹撮影)