道路構造物ジャーナルNET

UFC床版、鋼管集成橋脚、新たな継手セグメントを適用検討

2022年新春インタビュー③ 阪神高速道路 淀川左岸線、大阪湾岸道路西伸部がいよいよ本格化

阪神高速道路株式会社
執行役員建設事業本部長

宮口 智樹

公開日:2022.01.01

100年、さらにその先においても健全で快適な状態を維持
 社会環境の変化にも対応が容易な構造」ということも着眼点

 ――大和川線など、これまで阪神高速道路として培ったものもあると思います。先生方の検討案のほかに阪神高速道路案もあると思うので、阪神高速道路として考えていることを教えてください
 宮口 大阪湾岸道路西伸部の計画コンセプトとして「災害時においても人流・物流ネットワーク機能を確保できる道路」「「みなと神戸」にふさわしい世界に誇れる景観を創出する道路」「将来にわたって健全な状態を維持し、時代の変化に対応できる道路」を設定し、形式あるいは工法を検討している段階です。
 開削トンネル工区については、既供用部分との取り合いや近接施工に配慮して詳細設計を進めている段階です。
「みなと神戸」にふさわしい世界に誇れる景観を創出する道路を実現するための景観検討フロー

HP 「大阪湾岸道路西伸部 経過報告」より抜粋
 疲労や環境作用に対して耐久性の高いUFC床版の適用について、LCC縮減も念頭に検討します。
 ――計画コンセプトの「将来にわたって健全な状態を維持し、時代の変化に対応できる道路」というのは、具体的にどのようなことを考えていますか
 宮口 100年、さらにその先においても健全で快適な状態を維持しやすいこと、また、将来の社会環境の変化にも対応が容易な構造とすること、それと維持管理しやすい構造であるとともに、先進的な技術の活用により高度化および効率化が図られた構造とすること、ということを掲げて、それぞれどういう構造を採用していくかといった検討をするときに、これらの視点も含めて、どの案が優れているか評価して、構造検討を進めている状況です。
 ――例えば、100年というのは、防食の方法もあれば、スーパーコアの25t以上のトラックが走行する可能性も出てきます。それと、とある高速道路の斜張橋や、若戸大橋などが頭に浮かびますが、そこは4車線でつくっていて、路肩が非常に広い。それは、6車線化される可能性を考えると4車線でつくると後々とんでもないことになるとのことでした。そのように、路肩や歩道部と称しながら将来のバッファをつくっておいて、平時においては点検がしやすいし、交通量が増えて必要になれば6車線化できる、という仕掛けを作ったということも関係者に聞いたことがあります。そのような感じですか
 宮口 そこまでのことは想定していませんが、「社会環境の変化にも対応が容易な構造」ということも着眼点において検討を進めています。
 ――UFC床版は軽いことも魅力であると思います。地盤のことを考えれば、死荷重を減らしたいということがありますし、長大橋においては鋼床版代替として考えられていると思うので、斜張橋部に使用することは考えていますか
 宮口 世界最大規模の斜張橋に適用するかどうかについては、慎重にならざるを得ません。和田岬地区以西について、新技術の適用箇所、規模、適用の可否を事業者において今後検討していくことになると思います。

ワッフル型UFC床版は軽い(阪神高速道路信濃橋入口での施工事例)

 --鋼床版は通常の鋼床版ですか、それとも疲労耐久性を上げるために、高耐久鋼床版を考えているのですか
 宮口 (鋼床版の種類は)まだこれからです。鋼床版を採用する場合は、疲労耐久性の向上について検討していく必要があると考えています。

求める技術 海上施工にあたり、環境影響・安全性に優れ、航行する船舶影響の最小化
 トンネル 高耐久な継手構造や止水性能を高めた止水構造に関する技術

 ――技術開発について、どのような技術を民間に対して要求したいですか
 宮口 まず、大阪湾岸道路西伸部の計画コンセプトに資する技術を求めています。具体的には、海上での施工にあたり、環境影響・安全性に優れ、航行する船舶への影響が最小となる技術で、水質への影響を最小とする基礎の施工技術や海面占有面積・期間を最小とし、海上交通への影響を最小とする基礎あるいは上部工の施工技術が挙げられます。
 淀川左岸線延伸部では、大半がシールドトンネルおよび開削トンネルなどの地下構造物となることから、高耐久な継手構造や止水性能を高めた止水構造に関する技術を求めています。
 そのほかでは、長大橋の建設や維持管理のDXを実現する技術開発といった取り組みも必要ですし、カーボンニュートラルに資する材料や工法などの技術の開発があります。また、目の前の話として、各工事現場において生産性向上や品質の向上につながるデジタル技術の積極的活用も各受注者にお願いしたいと考えています。
 ――止水性能を高めた止水構造に関する技術がなぜ必要なのですか
 宮口 トンネルの止水が重要であることはどのトンネルでも同じですが、淀川左岸線延伸部は大深度ですので、水圧が高くなることが想定されます。
 ――具体的にどのような止水構造が必要になりますか。単なるシール材ではないと思いますが
 宮口 高水圧に対応した止水構造とするためには、例えば水膨張ゴム等を用いた止水材の場合、設計水圧から求まる必要接面応力よりも高い圧縮反発力を止水材が有する必要があります。つまり、ふんわりとセグメントの止水溝に膨張するゴム材では地山側からかかる高水圧に耐えきれず止水できなくなります。大深度区間で想定される設計水圧は1MPaを超えるレベルの高水圧です。また、大深度区間のみならず淀川と並走する豊崎オンランプ開削トンネルとシールドトンネルの異なる構造の接合など、様々な構造や環境があり、維持管理の観点からも、それぞれの条件に適した信頼性の高い止水構造が必要だと考えています。

工事情報等共有システム「Hi-TeLus」により全工事でデジタル処理
 若手社員による橋梁模型研究会を立ち上げ

 ――各工事現場において生産性向上や品質の向上につながるデジタル技術の積極的活用ということで、国やNEXCOでは遠隔立ち合いを活用しています。トンネルにおいては、特に清水建設がうまく活用しています。阪神高速道路としてどのように考えていますか
 宮口 取り組みを始めているところです。遠隔立ち合いを行うためのマニュアルも作成しています。各現場で試行的に始めている段階です。ただ、技術者育成の視点では、若手技術者は現場に行くことも大切ですので、うまく遠隔臨場を組み合わせながら行っていけたらと考えています。
 ――施工者からは書類仕事が多すぎると聞いています。それに追われて、現場代理人や監理技術者がなかなか現場に行けない、と。遠隔立ち合いだけではなく、書類自体のデジタル化については
 宮口 国やNEXCOよりもあとから取り組みを始めたのですが、当社では工事情報等共有システム「Hi-TeLus」を導入して、全工事でデジタル処理を行っています。

Hi-TeLusのシステム概要及びコンセプト

Hi-TeLusのホーム画面/工程の共同管理/共有フォルダ

Hi-TeLusの書類の電子化と書類区分/申請画面イメージ

 ――自社の技術力維持について建設事業や更新事業を生かしてどのようにインハウスエンジニアの力を向上させようとしていますか
 宮口 新設改築事業が多いということは技術継承のいい機会なので、うまく活用していきたいと考えています。インハウスエンジニアの力を向上させるということで、技術系人材育成マスタープランをつくっています。そのなかで求める技術者像として、「QPMIサイクル」(Q:Quality、Question/P:Personal、Passion/M:Member、Mission/I:Innovation。質の高い疑問を持って、各個人が情熱をもって、メンバーと共有しながら目的として実行していくと革新を起こせる)のなかで、情熱を持つことと質の高い疑問・課題に気づくことを基本において、人材育成を進めようとしています。
 淀川左岸線延伸部事業では、長大トンネル建設にかかる技術開発、将来の舗装補修、交通規制等、維持管理を見据えた技術開発について、建設部門だけでなく、本社部門、維持管理部門の専門的知見を有する社員でプロジェクトチームを構成し検討を実施し、技術開発力の向上、ノウハウの共有を図っています。
 若手社員による橋梁模型研究会を立ち上げ、長大橋の構造を本質的に学ぶことを目的とした活動も実施しています。
 若手社員がベテラン社員とともに阪神高速の高架下を巡視し、直接自分の目で現場を確認、また、ベテラン社員からレクチャーを受けることで老朽化した既設構造物に対して、座学では得難い経験に根差した知識を修得することを目的とした取り組みも開始予定です。
 ――若手社員による橋梁模型研究会というのはおもしろいですね
 宮口 建設技術展近畿では橋梁模型コンテストが毎年開催されており、当社も13年連続で参加しています。これまでは年度ごとにチームを立ち上げ参加していましたが、模型をつくって終わりではなくて、通年で継続的に活動することを前提とし、十分な時間をかけて橋梁についての本質的な理解を深めるとともに、職種を超え、社員が一体となって物事に取り組む機会が得られる場として橋梁模型研究会を2020年に立ち上げました。メンバーは公募ですので、事務系社員も参加しています。
 ――若手社員とベテラン社員の巡視はこれからですね
 宮口 私が若かったころは、異常音調査などで夜間にベテラン社員と一緒に現場を回って、供用中の走行音を聞きながら、ジョイントの損傷などを耳で聞くということを行っていました。仕事が忙しくなり、そのような機会が途絶えていましたが、また復活させて、学びの機会を創出していきます。
 ――ありがとうございました

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