UFC床版、鋼管集成橋脚、新たな継手セグメントを適用検討
2022年新春インタビュー③ 阪神高速道路 淀川左岸線、大阪湾岸道路西伸部がいよいよ本格化
阪神高速道路株式会社
執行役員建設事業本部長
宮口 智樹 氏
大阪湾岸道路西伸部 UFC床版、鋼管集成橋脚の採用は検討中
4件の設計、3件の工事を契約、進捗中
――次に大阪湾岸道路西伸部について教えてください
宮口 5号湾岸線と31号神戸山手線を接続し、大阪湾岸道路の一部を構成する道路となります。整備効果としては、阪神臨海地域の交通渋滞や沿道環境などの交通課題の緩和を図ることにより、物流が効率化し、国際戦略港湾である阪神港の機能強化に資するとともに、災害や事故などの緊急時の代替機能が確保されること等が期待されています。起点は5号湾岸線六甲アイランド北(神戸市東灘区向洋町東)、終点は31号神戸山手線接続部(神戸市長田区西尻池町)で、延長14.5kmです。構造比率は、高架橋が大部分を占め13.9km、トンネル0.4km、土工(掘割)0.2kmとなっています。トンネルは31号神戸山手線接続部にあります。
大阪湾岸道路西伸部概要および概要図
淀川左岸線延伸部よりも先に2016年4月に国の公共事業として事業化されています。2017年4月には有料道路事業との合併施行方式が導入されました。2017年9月には、大阪湾岸道路西伸部技術検討委員会を設立して、検討を進めています。2018年7月には、近畿地方整備局事業評価監視委員会の審議を経て港湾事業が参画し、道路事業及び港湾事業として国、有料道路事業として阪神高速道路の3者による事業となっています。
2018年12月には1回目の技術検討委員会の中間とりまとめを行い、長大橋の橋梁形式比較案の選定をしています。同月には起工式も行っています。2019年12月には2回目の中間とりまとめで海上長大橋の橋梁形式を選定しています。2021年9月には3事業者から経過報告をホームページで公表しています。
現在は、各橋梁の基本構造の詳細検討などを実施しているほか、阪神高速道路担当分として、駒栄地区では開削トンネル工事を行っています。また、六甲アイランド地区では橋梁上部工事を2021年3月に、下部工事を2021年8月に契約しました。
同事業詳細など
HP 「大阪湾岸道路西伸部 経過報告」より抜粋
――現在の状況は
宮口 設計を中心に進めています。東側から、「新港・灘浜航路部の橋梁構造検討及び概略設計業務」を大日本コンサルタント、「神戸西航路部の橋梁構造検討及び概略設計業務」を長大、「南駒栄地区橋梁設計業務」をパシフィックコンサルタンツ、「南駒栄地区開削トンネル及び土構造等設計業務」をオリエンタルコンサルタンツの各社にそれぞれお願いしています。
工事は3件契約しており、最初に契約したのが「駒栄工区開削トンネル工事」(清水・奥村・佐藤JV)で、開削トンネル工事、U型擁壁工などで、一部区間の掘削を行っています。東側の六甲アイランドについては上部工を先に発注し、「六甲アイランド東工区鋼桁及び鋼製橋脚その他工事」(日立・JFE・日ファブ・川田JV)については詳細設計中です。下部工事については2021年8月に「六甲アイランド東工区下部工事」(大成建設)を契約しました。
駒栄地区掘削工事の進捗状況
――長大橋の概略設計は阪神高速道路にて実施中とのことですが、駒栄工区や六甲アイランド東工区の地上部の一部も阪神高速道路の担当でいいですか
宮口 阪神高速に接続している両端は当社が担当しています。諸元は、西側の駒栄工区開削トンネル区間は、幅員構成と形式は左岸線と同様です。六甲アイランド東工区の橋梁部は、車線幅員が3.5mで片側3車線となっています。形式は、鋼8径間連続合成細幅箱桁橋で詳細設計を進めています。
――鋼管集成橋脚の採用についてどのように考えていますか、また、地盤が緩いので上部構造の死荷重を減らしつつ、疲労耐久性を上げるために、UFC床版(ワッフル型)を使うというコンセプトであったと思いますが
宮口 現在、検討中です。安全性向上やコスト削減などが期待できる新技術は積極的に活用していきたいと考えています。UFC床版、鋼管集成橋脚についてもメリットを発揮できるような対象があるか、検討中です。
――六甲アイランド東工区下部工事や六甲アイランド東工区鋼桁及び鋼製橋脚その他工事のなかで、鋼製橋脚工が出ています。これらに関しては鋼管集成橋脚を採用することはあるのですか
宮口 現在は考えていません。ここはすべて剛結構造で設計を進めています。
六甲アイランド地区全景
六甲アイランド東工区の現況、大型車交通量が多い
――RCではないですよね
宮口 六甲アイランド地区の阪神高速道路担当分では、鋼コンクリート複合橋脚が1基ありますが、その他は鋼製橋脚です。
――鋼管集成橋脚やUFC床版の採用は国土交通省との話にもなると思いますが、どのような話になってきてますでしょうか
宮口 UFC床版および鋼管集成橋脚については、本事業における適用箇所、規模、適用の可否について現在検討中です。現在の検討状況は、UFC床版では床版としての性能について試設計による検討や加熱実験による評価など行っており、鋼管集成橋脚では橋脚としての性能などについて既供用路線における鋼管集成橋脚の計測によるデータを蓄積して、構造としてのメリットが発揮できる対象において、今後、詳細に検討を実施していくこととしています。
鋼管集成橋脚施工例(いずれも井手迫瑞樹撮影)
神戸西航路部 1本斜張橋で支間長480mは世界最大規模
2つの新しいRCセグメント継手工法の開発に取り組む
――斜張橋部の構造的特徴について
宮口 中間とりまとめ(Ⅱ)で公表したとおりです。
新港・灘浜航路部は、鋼5径間連続斜張橋(4本主塔)で計画しています。最大支間長が約650mで連続斜張橋として世界最大規模です。鋼製主塔は橋軸方向にA型を基本として計画しています。上部構造は上下線をセパレートにした鋼2箱桁で計画しています。
神戸西航路部は、1本主塔斜張橋で計画しています。最大支間長が約480mで1本主塔斜張橋として世界最大規模です。鋼製主塔はダイヤ型を基本として計画しています。上部構造は鋼1箱桁で計画しています。
(左)HP 「大阪湾岸道路西伸部技術検討委員会 中間とりまとめ(Ⅱ)より引用/(右)HP 「大阪湾岸道路西伸部 経過報告」より抜粋
――技術的な話としては、基礎地盤におけるとう曲への対応について土木学会の年次講演会に御社の論文も出ていますね
宮口 新港・灘浜航路部には摩耶断層、神戸西航路部には和田岬断層が存在するということで、道路橋示方書の地震動に加えて、耐震検討のための地震動を策定し、また、とう曲変位に対する基礎の安全性検討も進めています。
HP 「大阪湾岸道路西伸部 経過報告」より抜粋
――1本主塔の位置選定の理由として、ポートアイランド側に1本主塔をもうける斜張橋のほうが復旧性が高い、つまり早期復旧が容易であるということが今回の論文で書かれていますが、具体的に説明していただけますか。
宮口 とう曲を外した位置に主塔を設置することを考えました。とう曲を外す事で、とう曲変位による主塔の傾斜が小さくなり復旧性を高められました。
――特徴ある形式あるいは工法適用の橋梁・高架橋、トンネルについて
宮口 淀川左岸線(2期)は、道路ボックスと河川堤防を一体構造とした構造物の安全性、施工方法、維持管理手法等について「淀川左岸線(2期)事業に関する技術検討委員会」において技術的な検討事項の審議を行い、2017年11月に取りまとめられた技術検討報告書に基づき設計・施工を進めています。
淀川左岸線延伸部は、大深度地下空間を活用した道路トンネルを予定しており、また、淀川河川堤防に近接したトンネルを計画しています。トンネル建設に際し、大深度地下空間でのシールドトンネルの設計手法やシールドトンネルが併設することの影響、また河川堤防への影響など技術的な課題を解決して進めていく必要があります。
――鋼、コンクリート形式問わず、防食などLCC縮減の手法について
宮口 LCC縮減の手法については、圧縮力の伝達機構を付加したRCセグメントの継手構造の開発に取り組んでいます。
――RCセグメントの継手構造とはどのようなものですか
宮口 先日の土木学会で発表しましたが、従来、継手部はRCだけで圧縮をもたせていますが、そこに鋼製部材を付け足して構造改良し、これによりシールド構造の合理化につなげられないか検討しています。共同研究をIHI建材工業とJFE建材の2件で行っています。
――どのように合理化ができるのですか。例えば、床版の継手構造で言うと、断面厚を小さくできますが
宮口 JFE建材との共同研究では、圧縮鋼材を継手面に設置することよりコンクリートの圧縮ひずみを約15%低減できる技術を開発しました。圧縮鋼材を鉄筋として考慮した場合の理論値と概ね一致することも確認しています。これにより、従来構造では継手部の圧縮力許容値を超えるような場合でも、圧縮鋼材を配置することによって圧縮力を許容値内に収めることができます。
圧縮鋼材/継手曲げ試験概要
曲げ荷重とコンクリートひずみの関係/圧縮鋼材によるコンクリート発生ひずみ
IHI建材工業との共同研究では、継手部において、孔あき鋼板ジベルを用いることでジベルがコンクリートと一体で挙動し、約10%程度コンクリートの荷重分担率を下げることが可能となる技術を開発しました。
これらの構造を用いることで、RCセグメントの桁高を小さくすることが可能となります。
補強構造/軸力導入継手曲げ試験の試験体と載荷方法
荷重分担率/補強なし継手部と補強あり継手部
――先ほどの離隔の問題など、どのように影響して、どのように技術解決をしようとしているのでしょうか
宮口 まさに検討を進めているところです。