東名多摩川橋 5分割による床版取替
固定規制による通年施工実施へ
――具体的には
浦 半断面施工だけでなく、複数の断面施工も考慮しなくてはならないでしょう。その上で昨年度発注した東名多摩川橋の床版取替工事では、発注方式としてデザインビルド形式を採用し、床版取替工事期間中もできる限り既存の車線数である6車線を確保する方向で設計を進めています(床版を断面方向に5分割すなわち1/5断面ずつ施工)。
東名多摩川橋床版取替施工検討図
――規制はどのようなやり方で行うのですか
浦 極力車線を確保した通年施工を考えています。そのため、規制にあたっては、機動的な運用ができかつ頑丈な防護柵を用いる必要があります。
通年施工することにより、特に近年進められている建設業における週休2日制の実現なども可能になり、工事会社や工事にあたる皆さんへの負担は減少します。
東名多摩川橋
施工状況
――東名多摩川橋は、大林組・大林道路のJVが受注しています。大林組はNEXCO東日本で、新設パネルの床版上面に薄膜のUFC層をあらかじめ作った形でプレキャスト床版を製作することでその後の防水工を不要にする技術を実装しています。こうした手法を採用することはありますか
浦 提案は実際に上がってきており、検討を進めているところです。
トンネル大規模修繕 インバートの設置は不要
炭素繊維シート補強工などが主な対策
――次にトンネル関連の大規模修繕工事について
浦 支社管内では2件が進捗しています。東名の清見寺トンネル他4トンネル覆工補強工事と、小田原厚木道路の風祭トンネル他3トンネル覆工補強工事です。幸いなことに管内のトンネルではインバートの膨れ対策が必要な個所はなく、インバートの設置を行う必要はありません。
風祭トンネル他3トンネルの覆工補強工事は、同トンネルの上下線(㊤805m、㊦806m)、坂下トンネルの上下線(㊤128m、㊦128m)、二宮トンネルの上下線(㊤483m、㊦445m)で、WJで脆弱部を斫った上で、ひび割れにはエポキシ樹脂注入を施し、ポリマーセメントモルタルで断面修復した上で合計25,000㎡の炭素繊維シートを貼付けて補修補強します。
風祭トンネル他3トンネル覆工補強工事概要
清見寺トンネル他4トンネルの覆工補強工事でも同様の補修補強を行うと共に、同工事範囲で覆工背面電磁波調査の結果、22スパンで背面空洞が確認されたため発泡ウレタンによる背面空洞注入工も行います。炭素繊維シート補強工は33,000㎡で、監視員通路工も1,600mほど設置する予定です。風祭トンネルは工事が本格化しており、清見寺トンネルも一部で着手しています。
清見寺トンネル他4トンネル覆工補強工事概要
土構造大規模補修 グラウンドアンカーやのり面排水施設の更新
集中豪雨対策は今後の課題
――土構造物の大規模補修工事の進捗状況は
浦 事業が開始された2015年度から計画的にのり面排水施設の工事を実施しており、2020年度までに29か所を完了しています。現在は3件のグラウンドアンカーの更新工事や4件ののり面排水施設の更新工事を進めており、今後も未発注の盛土法面工事も含め、引き続き工事を発注していきます。
グラウンドアンカーの更新工事は東名 大井松田IC~御殿場IC間(左ルート)の切土のり面工事でグラウンドアンカー工240本、切土補強工200本、同上石山地区切土法面補強工事でグラウンドアンカー工400本、同堂山地区切土のり面補強工事でグラウンドアンカー工400本をそれぞれ施工しています。
さらにのり面排水施設工事では、東名 大井松田IC~御殿場IC間(左ルート)のり面排水施設更新工事、同裾野IC~沼津IC間のり面排水施設更新工事、同静岡IC~焼津IC間小坂地区グラウンドアンカー補修工事、同菊川IC~掛川IC間西方地区のり面排水施設工事を進めています。
――のり面排水施設工事というのは具体的にどのようなことを行うのですか
浦 のり面にある縦溝や小段排水などの取替や新規設置などです。
――それは吐水量を増やすということですか
浦 排水構造物が劣化し、排水不全を起こしてそれが原因となってのり面で損傷が出るということも多く起きているものですから、そうしたものを直したり、新規設置して排水量を確保しようとしています。あと、縦溝排水などでも跳水対策などを施さなくてはならない箇所も出てきています。現地の状況に合わせて、しっかりと補修していきます。ただ、最近の非常に激しい集中豪雨ということに対してはどうしていくのかというのは今後の課題です。
支承取替 2020年度 1,600基を施工
伸縮装置は同34基取替え
――支承取替えは
浦 鋼製をゴム(免震)支承に取り替えるもので、2020年度は約1,600基を取替える工事を発注しました。21年度は約2,100基の取替工事を発注予定です。
支承取替実施例 下町屋高架橋
――伸縮装置は
浦 2020年度は34基を取替える工事を発注しました。東名 横浜町田IC~厚木IC間、同清水IC~相良牧之原IC間、小田原厚木道路小田原管内などです。21年度は約100基取替える工事を発注予定です。
――伸縮装置の損傷はどのような? 疲労なのか、水なのか。ジョイント本体なのか、間詰め部か
浦 伸縮装置からの漏水などによる補修が主です。
2020年度は約27万㎡を塗り替え
火災事故を踏まえて各種安全対策を徹底。言語の壁も打破
――塗装について2020年度の塗替え実績と21年度の予定は
浦 鋼橋塗替え塗装は大規模修繕工事の一環として、素地調整程度1種とし、塗替え工事を実施しています。主に床版取替工事に含め発注しています。床版取替を伴わない単独工事としては、東名高速道路惣領橋他1橋塗替塗装工事、同(特定更新工事等)村松高架橋他1橋鋼橋補修工事、同(特定更新工事等)小坂川橋他3橋鋼橋補修工事などを契約しており、2020年度は40橋で約270,000㎡の工事を発注しました。21年度は約50橋で340,000㎡分の工事を発注予定です。これは大規模更新とあわせての数字です。
塗替え塗装施工状況(惣領橋)
中吉田高架橋の塗替え施工状況
――東名高速道路で生じた火災事故などを踏まえて、塗装の際の安全対策の強化策を教えてください
浦 中吉田高架橋の火災事故などを踏まえた火災に対する対処を強化しています。リスクアセスメントの実施としては、例えば2方向の避難路を設け、火災を知らせるような報知機を増設するなどです。また、塗膜剥離作業中に現場で火花が出るような機器を持ち込まないことなども徹底しています。
次いでアルコールなど有害物質の中毒による労働災害というのが出ていることも認識しています。厚労省などから示された一連の文書や指導を踏まえて防護服、防護マスク等の適切な使用と管理対策を進めています。例えば防毒マスクの管理ということです。呼吸缶の破過時間の認識や、その交換および管理をしっかりすることも徹底しています。また、塗膜剥離剤を塗布する際は、送気マスクを装備する必要があることも示されましたので、そうした指摘も現場で徹底しています。
また、作業箇所の適切な換気とその管理、可燃性ガス・有毒ガスの測定と超過・異常を察知した場合の適切な措置、体調不良者発生時の適切な対応なども徹底しています。
抜き打ち検査も実施 火災安全ハンドブックもまとめる
――安全面の強化は元請への指導だけでは徹底しません。一次下請けなどへの指導も必要になってくると思います
浦 実際の安全装備交換の台帳などを確認することはもちろん、実際の作業手順書にもとづいてできているかということを、現地で抜き打ち確認することも行っています。
――抜き打ちをやりますか、よいことですね
浦 はい。加えて、中吉田の火災の時も感じましたが、現場で作業される方に「怖がっていただく――安全面で慎重になってもらう」ことが必要だと痛感しました。そのため塗装塗替え工事の塗膜除去工における注意すべきポイントを作業にあたる皆さんにもわかりやすい内容とし、『火災安全ハンドブック』として取りまとめ、日本語版と英語版を作成しています。また、最近日本語や英語が分からない外国人労働者の方も多いので、中吉田塗装塗替え工事の現場では、英語版をベトナム語版に翻訳し、ベトナム人作業員に配布しました。また、外国語表記の現場内注意喚起の写真提供を行うなど、現場の状況に応じて工夫しながら安全対策を強めています。
――例えば首都高は、消防とか警察とかと一緒に安全教育をやっており、場内に入る業者に対する安全教育の徹底に努めています。さらに一罰百戒じゃないですけど、事故事例があったら本当に、入札に制限を加えるとか、そういう罰をきちんと与えて、逆に安全に配慮してきちんと作業を行っている業者を元請だけでなく下請けに至るまで優遇したほうが良いのではないでしょうか。そうすれば勝ち残った業者が安全性の向上や効率的な施工を進めて、結果的にコストも下げられるようになるのではないかと思います
浦 当社としては、やはり事業に貢献していただいている皆さんに傷害事故や死亡事故があってはならないことだと思っています。下請けの皆さんも含め、同じ方向を向いて力を合わせ事故を撲滅したいとの思いです。
――次に耐候性鋼材を使った橋梁の損傷状況について。
浦 東京支社管内では磐田IC橋のみの1橋であり張出床版鋼製型枠からの漏水による主部材及び鋼製型枠に錆が生じているのと、目地部からの漏水により主桁上フランジに腐食が生じています。しかし、ただちに直さなければならないほど損傷には至っていません。
プレキャストPC床版の縦締め構造の採用もケースバイケースで実施していく
クレーンを用いない床版架設機も使っていく
――新技術やコスト縮減対策は
浦 大規模更新における床版取替分野ですが、金沢支社などでも採用実績が増えている2方向PCを東京支社でも既に2橋で採用しております。
――これはプレキャストPC床版パネル同士の継手構造を使わない縦締めPC構造を採用していくということですね
浦 そうです。また、同じ分野ですが、床版取替を行う現場などで、施工地上空に高圧電線などがある場合や民家や生活道路が近接している場合、クレーンが使えない、あるいは使い辛い個所が存在します。そうした箇所において、門型の床版架設機を用いるといった工夫も行っています。
――床版架設機は全断面だけでなく、半断面など分割断面でも施工可能な機械はありますか
浦 そうした現場でも使えるようにしていきたいと考えています。
加えて、これも床版取替分野ですが、床版取替工事の準備工事の際の仮設防護柵として、当社とケイコン、丸治コンクリートで開発したSSS(スリーエス)ガードや、当社のグループ会社である中日本高速技術マーケティングと日本ピーエムアールが米国より導入したバルカンバリアを使用していきたいと考えています。
現場で使いやすい仮設壁高欄・防護柵も採用
SSSガードとバルカンバリア
――まずSSSガードについて教えてください
浦 3つのSは、「Speedy、Spike、Sjoint」から取っているものです。コンクリート製の壁高欄ですが、置くだけで設置できる接続金具を用いており、さらに左右対称の形状にしているため位置、向きに影響されることなく設置・撤去・移動が可能であり、設置スピードを向上(Speedy)させています。
壁高欄下面には特殊な鋼製スパイク(Spike)を仕込んでおり、これが摩擦抵抗性を向上させて製品の軽量化を可能にしました。軽量化により、大型トラック1台による製品の運搬が最大28m分可能になりました。
最後にSjointですが、これは特許申請中の金具Sjointを壁高欄両側面に取り付けることで、製品を設置するだけでかみ合う構造になっており、ボルトで締める構造が不要で後工程が必要なく、作業速度や作業員の安全性向上に寄与します。
SC種以上の場合は、製品とアスファルトをアンカーで繋ぎ、車両衝突時の抵抗力を向上させるずれ止めアンカーも用意しています。
SSSガード設置例
――バルカンバリアは
浦 鋼製の架設防護柵であり、1基4m単位が約470㎏と同種のコンクリート製防護柵に比べて17%も軽量であることが特徴です。また、バルカンバリアは下部に移動用のタイヤがあり、専用装置を装備したホイールローダーで1km250基のバルカンバリアを10分程度で平行移動させることができるため、分割断面施工などの車線変更に有利です。タイヤは移動後は収納し、防護柵はきちんと地面に設置させることができます。出入口部はキャスターを装着したバルカンバリアにより、2人程度の人力で短時間に開閉可能です。
また専用移動装置は、冬季の雪氷作業で使用する既存のホイールローダーに専用移動装置を装着するだけで平行移動作業が可能であるため、新たな特殊機械の導入は不要です。
長期間、規制を存知する場合は専用アンカーで固定することにより、安全性が向上します。
バルカンバリア設置例と設置作業状況
――他には
浦 鋼桁の疲労き裂予防対策にショットピーニング処理を採用しています。
無数のピーニング材(特殊鋼球)を高速度で鋼桁の表面に打ち当てて表面近傍だけを塑性変形させ、表面層に圧縮残留応力を与えることにより、疲労等級を2等級以上向上させることが可能な技術です。東名の下長窪橋、上長窪橋で採用しています。
――ありがとうございました