トンネル 東名と小田原厚木道路で健全性の診断区分Ⅲ
軸方向4割、軸直角方向2割、混在4割と軸方向のひび割れが多い
――トンネルについては
浦 東名と小田原厚木道路で国交省定期点検要領における健全性診断区分Ⅲが出ている状況です。東名は矢板工法により施工されたトンネルが多くなっています。矢板工法は、NATMと比べて打ち継目が多く、打ち継目からの漏水が顕著に発生しており、漏水防止樋を設置している状況です。小田原厚木道路も同じような状況です。
――矢板工法の場合、道路軸方向の内空断面の影響による道路軸方向のひび割れが発生するとかなりナイーブになると言われていますが、そのような損傷はありますか
浦 軸方向4割、軸直角方向2割、混在4割と軸方向のひび割れが多くなっています。小田原厚木道路の風祭トンネル、二宮トンネル、東名で言えば日本坂トンネルなどでそうした変状が生じています。
――トンネルの覆工コンクリートの補修はどのような方法で行いますか
浦 基本的に裏込め材の注入や炭素繊維補強材による剥落防止工を行います。トンネル内層のタイル貼り部が劣化している個所については無機塗料(トンネル内装塗装)などを用いた補修を日本坂トンネルで試験的に採用しています。
――耐震補強の進捗状況をまず、東京支社管内のロッキングピア数から教えてください
浦 東京支社管内には34橋あり、全てが東名高速道路にあります。内訳は本線・ランプ橋16橋と跨道橋18橋ですが、橋脚については昨年9月に全数の補強を完了しました。現在は引き続き該当橋の橋台の耐震補強を行っています。
――補強の仕方は
浦 コンクリート巻き立て(ラーメン化)もしくはブレース(横つなぎ斜材)で補強をしました。
耐震補強優先対象は55橋 31橋が発注済み
段差防止対策は91橋中29橋で工事発注済み
――長大橋、特殊橋を含めての耐震補強の進捗状況は
浦 昭和55年道示(1980年)より前の設計で建設された橋梁は、平成7年(1995年)の兵庫県南部地震の被災を受けて2005年度からの橋梁耐震補強3カ年プログラムで対応し、下部工の耐震補強や免震支承への取替え、一部で落橋防止装置の設置などを行って、完了しています。平成8年道示より前の設計で建設された橋梁については、地震による損傷が限定的なものにとどまり、橋としての機能の回復が速やかに行いうる耐震性能2への対策を行っています。
今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率が26%以上の地域にある橋梁55橋の耐震補強を優先して実施します。
加えて地震時に上部工が支承を逸脱することで路面に大きな段差が生じると速やかな交通確保が困難になることから、上下線のいずれかを優先して支承の補強や取替などの対策が必要な橋梁91橋のうち29橋について工事を発注済みです。
橋脚耐震補強例1 岡野宮橋(左写真:施工前、右写真:施工後)
橋脚耐震補強例2 鳥坂橋ロッキングピア(左写真:施工前、右写真:施工後)
橋脚耐震補強例3 下町屋高架橋
――前者の55橋についてはどの程度進捗していますか
浦 下町屋高架橋など31橋を発注済みです。
――残り24橋は
浦 発注を順次進めています。
――これらの優先すべき橋は2021年度完了を目指す予定ですが、厳しい状況ですね
浦 非常に厳しい状況ですが、2021年度完了を目指し進めております。
――名古屋支社では設計も遅れており、自社でコンサルを買収してしまおうかという話も持ち上がったと聞きます。つまり、NEXCO西日本におけるNEXCO西日本コンサルタンツみたいに。東京支社は、そこまでには至らない感じですか。
浦 耐震補強に関する設計は、発注済ですが、大規模更新等の橋梁の設計を出しても、ほぼ受注してもらえない状態になっているので、なかなか前に進めないというところは間違いなくあります。
――この24橋の未発注の橋梁は、設計は全て終わっていますか
浦 すべての橋梁では終わっていません。発注は何とか全ての橋梁で出せていますが、新型コロナの影響などもあり、遅れています。
――名古屋支社のような橋脚に関しては先行で炭素繊維シートを巻いて最低限の耐震性能を加え、後日完全な耐震性能2を実現する段階的な処方も実施しています。東京支社では名古屋支社のような方策を取ることはないのですか
浦 今後の発注状況などを見据えつつ、そのような段階的な対策ということも今後考えていかなければならないのではないかと思っています。
支承取替に関しても橋梁の段差が生じなければ済むところもありますので、簡易な段差防止構造の設置を優先することも考えています。
――NEXCO西日本が開発した簡易段差防止構造をとりいれることは考えていますか
浦 まずは既定のやり方で行うことを考えていますが、次善策としてそうした工法も検討していきたいと思っています。
桁のかけ違い部においては高低差に対応するため支承交換や落橋防止ケーブルの設置で対応していますが、それでも不足し、桁衝突が懸念される箇所については、小田原厚木道路の観音寺高架橋などが該当しますが、1,000kNの制震ダンパーを設置して吸収することで対応しています。
小田原厚木道路の観音寺高架橋では、1,000kNの制震ダンパーを設置して吸収することで対応
長大・特殊橋梁 トラス・アーチなど40橋
1橋が完了済み契約済みは17橋
――長大・特殊橋梁については
浦 トラス橋とアーチ橋などで40橋あります(右表)。1橋(諸渕橋)が完了済みです。2020年度は、補強工事契約済みが21橋、そのうち14橋が現地着手を開始しています。
――昭和31年鋼示で設計されている東名藤沢川橋、中村川橋、柳橋などは大変そうですね
浦 現在行っているのは特殊橋梁全体系の補強ではなく、地震が起きても橋梁が機能を速やかに回復できるための支承交換や逸脱工事などが対象です。橋脚については、東名は完了しています。
諸渕橋のブラケット設置状況
諸渕橋の落橋防止装置設置状況
――上部工全体の補強というわけでは
浦 必ずしもありません。全体系の補強は、当面の対策が終わったのちに改めて行うことも考えています。
――これらの橋梁は部材も相当スレンダーです。沓を変えるにしてもまず格点部の補強から始めなければなりませんね
浦 そうですね。ここはSMCシビルテクノスが受注し、現在詳細設計を進めています。格点部付近の部材補強を進めています。
――東名の記録映画では必ず出てくる酒匂川橋の耐震補強も着手していますね
浦 はい。ここは床版取替工事に合わせた契約の中に含めて検討を進めています。ここでは鋼桁の補強なども行う予定です。三井住友建設・日本ファブテック・極東興和のJVで工事が進められています。
酒匂川橋でも耐震補強を進めていく
酒匂川橋での床版取替状況
――皆瀬川橋でも一部で着手されましたね
浦 同橋は上り線と下り線左ルートで着手しました。上り線は、IHIインフラシステムが受注し詳細設計を進めています。
皆瀬川橋
――トラス橋が多い中で新湘南バイパスの湘南ベルブリッジでも耐震補強が始まったのですね
浦 同橋は橋長246.5mの鋼単弦ローゼアーチ支持式3径間連続鋼床版箱桁です。橋桁を横架したローゼアーチから伸びる斜張橋ケーブルにより橋桁を支持する特殊な形式です。吊材と沓の補強を行います。
湘南ベルブリッジ
小田原港橋(PCエクストラドーズド)でも耐震補強を行っていきます。
小田原港橋
――耐震補強に際して鋼橋の錆や孔食、疲労による損傷は、現状どのようになっていますか
浦 疲労や老朽化による顕著な変状はありません。また、錆による変状も東名では計画的に塗替塗装を行ってきた橋梁が多いため、大きな変状は確認されていません。
塗替え塗装施工状況
耐震補強を実施しなければならないトラスなどの特殊橋梁は、御殿場の東名下り線左右ルートと改築でつくった上り線の区間に集中していますが、左右ルートに分かれることにより交通が分散していることや改築事業として平成4年に開通していることもあり、比較的大きな変状が発生していない理由の一つと思われます。
橋梁点検は2巡目に入るも予防保全への転換は道険し
2020年度は233橋を点検、修繕対象は7橋
――橋梁の長寿命化修繕計画に基づいた対策の進捗状況は
浦 診断区分Ⅲに対して次回の点検までに補修するということで計画を立てて行っています。
――Ⅲの橋梁数は
浦 診断区分Ⅲの橋梁数は、18橋(2021.3末時点)です。
2020年度は点検を233橋で実施し、(診断区分Ⅲ対象の)7橋で修繕工事を行いました。
2021年度は点検を282橋実施予定で、10橋で修繕工事を行う予定です。
――診断区分Ⅲの橋梁ではどの部位が損傷しているか
浦 伸縮装置などの橋梁付属物や桁端の損傷が多く見られます。西湘バイパスでは、飛来塩分による影響で、桁のフランジが腐食して桁補強をしなければならないものもありました。具体的な事例として、東名の久能高架橋において、主桁フランジと支承接続部にき裂があり、支承取替を実施します。
鋼部材の疲労亀裂例
――現在、点検は2巡目に入っていますが状況はどうですか。目論見通り予防保全へのカーブが描けていますか。それとも損傷度の高い方への転移(損傷の悪化)などがありますか
浦 予防保全への転換には引き続き努力が必要です。当初は2巡目に入れば損傷数は減るという目論見で補修計画を立てていたのですが、点検をしていくと新たな視点が加わることもあり、実際は1巡目と同じぐらいの損傷が見つかっています。
――熟練することで見逃さなくなったということですね
浦 点検のレベルが向上しているということで、そこは前向きに捉えています。補修については、もうちょっと辛抱強くやっていかないと、損傷の数が減り、予防保全に移転するようなところには到達しないと感じています。
――つまり1巡目Ⅱが2巡目Ⅲとなっている個所も
浦 残念ながら生じています。
大規模更新 2020年度は6万6,600㎡実施
今後は、都市近郊での取替が増え工夫が必要
――大規模更新修繕事業のここ数年の実績と今後の予定は
浦 実績では、2016年度の用宗高架橋(東名・下り線P7-A2)が最初です。これまでに赤渕川橋(東名・下り線)、川端高架橋(小田原厚木道路・上り線)など24橋の床版取替を施工しました。
現在は、基本契約方式により5件42橋の床版取替工事を契約済みで施工を進めています。
――具体的には
浦 東名 大井松田IC~沼津IC間(左ルート)で約25,000㎡、同裾野IC~沼津IC間で6,500㎡、同沼津IC~富士IC間で16,000㎡、富士IC~清水IC間で10,100㎡、小田原厚木道路川端高架橋で9,000㎡をそれぞれ取替えます。大井松田IC~沼津IC間(左ルート)床版取替工事は、大井松田IC~御殿場IC間の左ルートを閉鎖して実施しました。それ以外の床版取替工事は、床版取替を行う車線の反対側車線を対面通行規制にして、実施しています。
床版取替例 大井松田IC~御殿場IC間酒匂川橋床版取替工事
床版取替例 裾野IC~沼津IC間 富沢第二橋(下り線)床版取替工事
床版取替例 小田原厚木道路川端高架橋床版取替工事
――床版取替方法ですが、東名高速は短トリップでも4万台の交通量があります。これをさばきながら施工するのは大変だと思いますが、今後はどのように考えていますか
浦 ダブルネットワーク区間での床版取替の工事の状況としては朝夕に重方向のみに渋滞が発生します。
今後の床版取替は都市間にある高架橋から都市近郊に移っていきます。そうした箇所ではう回路を確保するのも難しいことが予想されます。そのため車線数をできるだけ維持し、交通容量を確保しながら工事していく必要があると考えています。