中日本高速道路東京支社は、東名、新東名などで1498橋の橋梁・高架橋(総延長344km)と129チューブのトンネル(同143km)を管理している。40年以上経過している橋梁は50%を超えている。特殊・長大橋の数も40橋と多く、大規模更新や大規模修繕、長大・特殊橋の耐震補強など対応しなければいけないことがたくさんある。浦敦保全・サービス事業部長にその詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
1498橋344kmの橋梁を管理
東名・新東名で8割を超える
――現在の管内における構造物の状況について
浦部長 東京支社では1498橋、全長344kmの橋梁を管理しています(右グラフ参照)。40年以上経過している橋梁が54%に達しています。路線としては開通50年を経過した東名で多くを占めています。路線別橋梁数では、東名が50%。新東名が30%となっており、東名と新東名をあわせて8割を超えます。東京支社の仕事のほとんどは、交通量を含めて東名、新東名が占めています。その他の路線は圏央道が8%を占めています。
――橋種別では
浦 橋種別橋梁延長でみると、鋼橋が47%と突出しています。
――延長別では
浦 新東名は橋長が長い橋梁が多いので、路線別橋梁延長では新東名が42%を占めています。新東名は構造物比率そのものも高くなっています。次いで東名が28%、圏央道が15%となっています。
129チューブ143kmを管理
東名は矢板工法が多い
――トンネルは
浦 東京支社では129チューブ、143kmを管理しています。
40年以上経過しているトンネルは24%で、東名はそのうち7割を占めています。工法別では、NATMが83%、矢板工法が16%。トンネル延長は、新東名が63%を占めます。工法ではNATMが多くなっていますが、東名および小田原厚木道路は矢板工法により施工されたトンネルが多く、老朽化が進んでいます。
――橋長別とトンネル延長別は
浦 橋長50m以上の長大橋が75%、トンネルでは延長1km以上が67%を占めます。
東名と小田原厚木道路は健全性の診断区分Ⅱ、Ⅲが見られる
東名はRC床版や鋼部材の疲労、小田原厚木道路は塩害など
――点検を進めてみての損傷状況は。東名の経年劣化状況について名古屋支社では疲労と床版の損傷が各地で出てきていると話を聞きました。対傾構やリブなどのメタルの疲労、コンクリートの床版防水をしていなかったことによる疲労と水、塩の複合劣化が進んできているとも聞いています
浦 東名と小田原厚木道路については、国交省定期点検要領における健全性診断区分Ⅱ、Ⅲが見られています。特に東名は大型車の交通が多く、その影響によりRC床版の疲労損傷が出てきており、床版健全度の状況が悪い橋梁から、リニューアルプロジェクトにおいて床版取替を計画的に実施していく必要があります。
――床版防水工をしていなかったことによる影響は
浦 その影響は大きいと思います。現在、床版取替工事を行っている橋梁は建設時に床版防水工をしていなかった橋梁です。床版上面のひび割れから水が入って鉄筋腐食が発生している、もしくは繰り返し荷重で床版の土砂化が進んでいます。
――床版以外の損傷は
浦 東名において、高速道路上を通行する大型車などの影響により、溶接部の応力集中による疲労き裂が発生しています。その中でも支承の可動不良により発生するソールプレートの疲労き裂は、き裂が発展すると、主桁下フランジを貫通し、主桁ウエブまでつながる可能性があります。そのため、応急対策として、変状箇所へ速やかにストップホールを実施します。恒久対策としては、鋼板当板補強などを実施すると共に、主原因である可動不良の鋼製支承の取替等を行っています。
――そもそも交通量や大型車混入率の推移は
浦 現在、交通量が一番多いのは東名の横浜町田IC~海老名JCT間で15万台に達します。東名の東京IC~豊川IC間で1日交通量が59,000台、大型車混入率が32%、新東名の御殿場JCT~新城IC間で60,000台、47%となっています。しかし以前は、例えば東名の静岡IC~焼津IC間が80,000台で36%(新東名静岡県区間開通前の2011年)もの交通量がありました。こうした過去の疲労が効いてきています。ちなみに同区間は今でも40,000台、26%の交通量があり、並行する新東名の新静岡IC~静岡SAスマートIC間の61,000台、48%を合わせると交通量はむしろ増えています。
――東名で対傾構の疲労き裂が見つかっている個所もあります
浦 主桁や横桁の溶接部について振動による疲労き裂が生じている個所もあります(右写真)。それは床版取替などに合わせるなどして、緊急の場合は単独で随時対応していきます。上長窪橋では、ウエブとフランジの溶接部において、ショットピーニングを用いて補修および予防保全を施している個所もあります。
ショットピーニングの施工例(上長窪橋など)
一方、海岸線に近い西湘バイパスでは、飛来塩分による塩害が発生しています。鋼材が腐食して剥落している個所もあります。滄浪橋のポステンT桁では、電気化学的に脱塩する工法の塩害対策を実施し、さらにPC桁の外ケーブル補強も行います。東京支社では脱塩工法の採用は初事例で、全国の高速道路でもほとんど使われた実績はありません。今回の結果を検証して全線に拡大していく予定です。
滄浪橋で脱塩工法を採用
約8週間通電して塩化物イオン濃度を1.2㎏/㎥以下に
――脱塩工法の詳細は
浦 コンクリート構造物の表面に設けたチタンメッシュおよび電解質溶液を陽極(+)とし、コンクリート中の鋼材を陰極(-)として、一定期間通電することにより、電気泳動でコンクリート中の塩化物イオンを外へ排出させる方法です(右模式図参照)。
脱塩工法の長所としては、塩化物イオン濃度を低減させ腐食の進行を抑制する効果や、鋼材周辺のpHの増加により防錆環境を改善させる効果があります。ただ、それで本当に腐食の進行が抑制できるかどうかはやってみないと分からないところがあります。
――脱塩の場合は腐食の進行抑制というよりも、腐食因子をなくすということですか
浦 そうです。飛来塩分がコンクリート内に侵入するので、あわせてひび割れなどの補修もしっかり実施していきます。
――脱塩にあたっては、ずっと通電をするのですか
浦 桁ごとに通電させ、移動しながら施工をしていきます。電流はコンクリート表面積あたり直流電流で1.0~2.5A/㎡、約8週間通電させて塩化物イオンを1.2㎏/㎥以下を目標としております。
脱塩工法施工フロー
――由比海岸近くの由比付近の高架橋も同じような損傷が起きていると聞きますがどのような対策を行っていますか
浦 薩埵(さった)高架橋で電気防食による補修を行っています。
――滄浪橋に戻りますが、外ケーブル補強が必要な理由は
浦 グラウト充填不良と塩害でPCケーブルが損傷する可能性としてのリスク対策として採用しているものです。
――実際のグラウト充填不良というのは、何%ぐらいあったのですか
浦 滄浪橋の現場では充填不良はありませんでした。コンクリートの剥離から鉄筋の損傷はありますが、PC鋼材の腐食はないですね。
――滄浪橋は供用後40年を経過していますが元々の被り厚は薄いのではないですか
浦 現行の基準から比べると薄いですね。
――脱塩工法とは別に被り厚を厚くするなどの対策も必要なのではないですか
浦 被り厚は厚くしませんが、表面保護塗装を行う予定です。
――橋梁及びトンネルの変状部位別の割合は
浦 橋梁では上部工が全体の58%で、次いで伸縮装置が23%と多くなっています。トンネルは覆工が70%を占めます。
――下部工の損傷は
浦 現状では目立った損傷はありません。
――東名の冬季の凍結防止剤散布量は
浦 凍結防止剤散布量が一番多いのは御殿場ですが、東京支社管内6事務所あわせても年平均156t程度(H29~R1年度)であり、金沢支社や名古屋支社の高山及び彦根の重雪氷地域にある事務所で使用する凍結防止剤の1事務所分にも満たない量です。そのため、凍結防止剤の橋梁への影響は他の路線と比較すると少ないといえます。