新幹線、在来線、私鉄、高速道路を横過
NEXCO西日本新名神大阪西 延長4.4kmも日本の大動脈を跨ぐ難工事を担当
新名神大阪西事務所は、建設中の新名神大阪府域の内、淀川右岸部から高槻JCT・IC間の延長4.4kmを所管している。延長は短いながらも日本において重要な鉄道・道路インフラを横架することから、施工の難易度は非常に高い。構造物は橋梁が5橋(上下別換算では10橋)で2.3(4.6)km、トンネルは1TN(2チューブ)(6車線断面)で1.3(2.6)kmと合わせて比率は81.8%に達する。また、有馬高槻断層帯もあり、上部工も落橋防止構造の工夫を施している。さらには事業途中での4車線から6車線への変更であるため、それにも対応しなくてはならない。徳田尚器所長に詳細を聞いた。(井手迫瑞樹)
路線図と特色(NEXCO西日本提供、以下注釈なきは同)
工事および組織状況
用地取得率は9割を超える
高槻高架橋は一部の橋脚が立ち上がりつつある
――管内の概要からお願いします
徳田所長 新名神建設事業(八幡京田辺JCT・IC~高槻JCT・ICまでの一部京都府域を含む)10.7kmについては新名神大阪の東西事務所で所管しています。
新名神大阪西事務所は、そのうち、淀川の右岸部から高槻JCT・ICまでの高槻市域4.4kmの区間を担当しています。大阪東所管は住宅密集地が多いのに比べ本事務所は、インフラ密集地に新名神を建設することを担当しています。
淀川の右岸部から高槻JCT・ICまでの高槻市域4.4kmの区間を担当
インフラ密集地というのは横架するインフラが多いことを示す意です。
東側から国道171号(国土交通省)、東海道新幹線(JR東海)、阪急京都線、さらにはJR京都線(JR西日本)、名神高速(梶原トンネル南側坑口付近)の上下線左右4ルートの上空を横架します。さらに山に突入し、1.3kmのトンネルを抜けた後、今度は約3年前に開通した新名神神戸~高槻間の新名神の本線上を横架して、神戸までつながる新名神にドッキングします。さらに近隣には、関西電力送配電変電所があることから、多数の鉄塔および高圧線が存在しており、新名神建設の支障となるため、鉄塔などの移設が必要となるなど、重要なインフラが密集する箇所を通過するルートであるため、4.4kmと延長的には僅かですが、お客様を抱える様々な事業者との協議が必要になる区間と言えます。
橋梁・トンネルといった構造物比率は8割を超えています。
路線概要
構造物一覧(拡大してみてください)
――現在の進捗状況は
徳田 用地取得は約9割を超えています。残りの1割弱についても細心の注意を払いながら、地権者の理解を得つつ、用地買収を進めて行きます。
工事発注済みは5件です。大阪西事務所は工事区を2つ設けています。一番東側が高槻梶原工事区、次いでその西側が高槻成合工事区です。工事区は名神高速(梶原トンネル南側坑口付近)との交差部で分けておりまして、東側の名神と淀川にはさまれる高槻梶原工区は高槻高架橋(橋長1,287m、逆T式橋台、柱式橋脚、鋼7径間連続鋼製少数鈑桁橋+鋼11径間連続混合桁(鈑桁+箱桁))西の下部工(五洋建設・あおみ建設JV)と同橋東の下部工(錢高組)、同橋東の上部工(瀧上工業)の3件の工事を進めています。同橋西の上部工についても工事公告中で、4月中にも受注業者が決定する予定です。
工事が一番進んでいるのが高槻高架橋東下部工で3割程度です。基礎杭を施工している状況で、やっと1つの橋脚が上に姿を現してきたところです。上部工は未着手です。同西下部工は、周辺の付け替え道路などの環境整備工事や埋蔵文化財の確認も合わせて行っています。先ほど申し上げた関西電力送配電の鉄塔などの移設工事も同社に委託して工事を進めています。
高槻梶原工事区空撮状況(2020年11月)
高槻高架橋上り線(側面図および平面図)(拡大して見てください)
高槻高架橋下り線(側面図および平面図)(拡大して見てください)
関西電力の鉄塔などの移設工事も必要(井手迫瑞樹撮影)
支持地盤は約30mの深さ
山間地の一部で竹割式土留め工法
――地盤は如何ですか
徳田 淀川の河川敷の細砂域に入っていまして、どこも支持力を得るには30mぐらいの場所打ち杭を打ち込む必要があります。あまり良くはありません。
地盤はあまり良くない(高槻高架橋P7橋脚では対策工法を採用している)(井手迫瑞樹撮影)
――新名神京都ではこうした箇所で鋼管ソイルセメント杭を使っていました。そうした選択肢はなかったのでしょうか
徳田 高槻高架橋のP2から西側を大阪西事務所で工事を進めておりますが、そこでは、鋼管ソイルセメント工法を採用していません。場所打ちの方が、コスト的にも構造的にも適していると判断しました。場所打ち杭の径はφ1,200mmです。
――高槻高架橋の一部では竹割式土留め工法がありますね
徳田 JR京都線を超えて、名神との間、特に名神に近接した所でその脇に山がありまして、その斜面辺りにP16橋脚があり、斜面に設置する大口径深礎を施工するに際し、竹割式土留め工法を採用しました。
――高槻高架橋上部工の床版形式は
徳田 鋼・コンクリート合成床版も採用しています。
高槻成合工区 梶原トンネルと成合第一高架橋の工事に着手
成合第一 波型鋼板ウェブを採用 桁高は最大9.5m
――名神から西側の高槻成合工事区は
徳田 2件の工事が進んでいます。トンネル延長1.3kmの梶原トンネル工事(清水建設)と成合第一高架橋(上り線:橋長697m、逆T式橋台、柱式橋脚、PRC6径間連続波型鋼板ウェブラーメン箱桁橋、下り線:橋長757m、上下部形式は同、大成・極東興和・村本JV)です。さらに同区間では土工工事の発注も公告済みで、これも4月に契約する予定です。
高槻成合地区の現況空撮写真
高槻成合地区の現況空撮写真(2020年11月)
成合第一高架橋(上り線)
成合第一高架橋(下り線)
――成合第一高架橋は上下一括で施工するということですかね
徳田 新名神開通済み区間と複雑に交差し合うルートになっているため、開通させた後に建設することが困難な近接する橋脚は、開通する時に合わせて事前に建設していました。同橋は10橋脚建設する必要があるのですが、5橋脚は平成29年の新名神神戸~高槻開通に合わせて、施工済みです。残りの5橋脚、4橋台と付属する土工部、上部工の建設が大成・極東興和・村本JVの施工範囲となります。
施工前には様々な防護工を設置した
仮桟橋用のガーダー橋の架設
成合第1高架橋付近のパノラマ写真(一番右は梶原トンネル坑口付近)
――張出し施工のワーゲンスパンは
徳田 1ロット4mのものと移動時の通行止め規制を減らすため、1ロット8mの大型ものを使用する予定です。
――桁高は
徳田 最大が下り線の柱頭部で9.5m、最小でも4mあります。
――梶原橋と金龍寺川橋、成合第二高架橋については
徳田 梶原橋と金龍寺川橋の下部工については梶原トンネル工事の範囲に入れて、一緒に施工するようにしています。両橋の上部工や成合第二高架橋(上り線:橋長118m、下り線:150m、上下線とも鋼3径間連続箱桁)の上下部工は未発注で、両橋の床版形式はPC床版、成合第二高架橋は合成床版も考えています。
――梶原橋はPRC2径間ラーメン箱桁、金龍寺川橋はPRC単純箱桁橋ですが、昨今のプレキャストセグメントの技術向上を含め工夫することはありますか
徳田 特に際立った工法は考えていません。プレキャスト化もせず通常の場所打ちで施工する方針です。ただ、現場までの作業道路もできていない状況ですので、受注者からの技術提案などがあれば施工方法などについて柔軟に対応していきます。