高速道路リニューアルプロジェクトを計画的に進める
新コロナの影響、無視できない
――社長就任にあたっての抱負は
前川 現在は新型コロナの影響により交通量が非常に落ち込んでいます。5月は前年の約63%まで落ちました。6月は非常事態宣言の解除により客足は戻りましたが、それでも前年の9割に達していません。経営的には非常に厳しい状況と言えます。これから挽回しなくてはいけない局面ですが、それでも今年度は完全にマイナスを取り戻すことはできないと感じています。赤字決算を前提として経費の節減などもせざるを得ないと考えています。もちろん安全安心に関わる維持管理や必要な修繕費用は削ることはありません。安全安心に関わるもの以外で先延ばしせざるを得ないものが出てくると思います。
高速道路リニューアルプロジェクトも計画的に進めます。今年6月には、中国自動車道吹田JCT~中国池田ICにおいて、都市部としては初めてとなる約2週間の終日通行止めを伴う工事を渋滞緩和のための様々な工夫を施した上で実施しました。コロナのため通行量は2割ほど落ちており、なおかつ並行区間となる新名神が供用されていたということもあり、ほとんど大きな混乱なく施工することができました。こうした都市部の大規模リニューアルは、来年以降も行わなくてはなりません。今回の経験を生かして、社会的影響をできるだけ少なくしていくやり方を考えながら、続けていこうと考えています。
御堂筋橋のリニューアル(上写真:井手迫瑞樹撮影、下写真:NEXCO西日本提供)
床版損傷事例
床版の施工状況(右写真のみ井手迫瑞樹撮影)
床版架設後の高性能床版防水
新名神 大津~高槻間暫定4車線も6車線に切り替える
優先整備区間(約380km)について順次4車線化
――新設事業は
前川 新名神の大津~高槻間が残っています。大津~高槻は暫定4車線で整備する区間もあり、すでに工事に着手していましたが、今年の3月に6車線で整備して良いということになりましたので、設計等含めて6車線で切り替えることができるところは対応するようにしました。そのほうが手戻りもありません。
新名神大津JCT東工事/同西工事
上田上牧工事/上田上中野工事
田上枝工事/信楽西工事
城陽JCTIC/城陽高架橋鋼製門型橋脚
宇治田原第二高架橋/宇治田原トンネル東坑口
新名神の既に4車線供用している個所の6車線化も許可をいただいたので、効率的にできるよう優先順位をよく考えながら進めていきます。
また、昨年12月に安全性・信頼性・使いやすさのさらなる向上を図るため、「高速道路における安全・安心実施計画」を策定しました。この中で暫定2車線区間のうち、優先整備区間(約380km)について順次4車線化を進めて行くことにしています。優先区間を考慮しながら手戻りなどを生じさせることなく、効率的に整備していきたいと考えています。
新設例① 吉野川大橋(井手迫瑞樹撮影)
新設例②別埜谷橋(左写真:井手迫瑞樹撮影)
――佐世保工事のような暫定2車線の両側に1車線ずつ張り出して4車線化する工事や、和歌山工事のような完成2車線を4車線化する工区などは大変ですね
前川 当時の計画や景観上の配慮、そして4車線化を考えていたとしても遠い将来のものと想定されていたのだと思います。こうした箇所は難しい区間であるため、特に優秀な技術者を所長に配置しています。
この高架橋の両側に1車線ずつ拡幅しなければいけない(佐世保工事管内4車線化)
完成2車線を完成4車線化する区間がある和歌山管内の4車線化(右写真:井手迫瑞樹撮影)
耐震補強 高知自動車道など必要な個所で対応
高速道路はハイピアが多く、しかも現場に行きにくいという課題
――橋梁の耐震補強はどのように進めますか
前川 「さらなる耐震補強」ということで震度6弱以上の発生確率が26%以上の地域を現在優先的に施工しています。とりわけ四国は南海トラフ巨大地震も心配しなくてはなりません。特に高知自動車道については、地方整備局などから高知に至る最重要道路であるため、絶対に確保することを求められています。
工事用道路から作らねばならない
基本的に橋脚を巻き立てる補強であるわけですが、高速道路はハイピアが多く、しかも現場に行きにくいという課題があります。建設時は工事用道路や足場がありますが、建設後は管理用道路がないという構造物は、山間部を中心にかなりあります。そうした箇所はまず工事用道路を再び作るところから始めなくてはならず手間がかかります。設計も手が足りない状況と聞いており、時間がかかるのでは、と考えております。
こうした特殊橋の耐震補強も必要だ(左:中国道千種川橋、右:高知道のトラス橋、井手迫瑞樹撮影)
豪雨災害が起きやすい地域の高速道路がある
災害への即応はやはり経験が重要
――近年、災害が多発しています。西日本豪雨も記憶に新しいところです。今日も京都縦貫道の沓掛ICで土砂崩れが起き、車3台が巻き込まれました。幸いにして死者はおらず、軽傷で済みました。こうした災害への即応力強化は
前川 直接被災された方を含め、多くのお客さまに大変な迷惑をおかけすることとなりました。料金所横でこうした災害が起きることは思いもよりませんでした。
絶えず安全・安心な道路を提供するため、こうした斜面にも気を配らねばなりません。
当社が管理する高速道路は、九州、四国、紀伊半島といった豪雨災害が起きやすい地域に走っています。毎年、どこかでそのような豪雨災害が起きるという心構えを有しています。しかし2年前の西日本豪雨はあまりにも範囲が広く、さすがに予想外でした。大雨特別警報は西日本だけでなく岐阜県も含めて11府県に発令されました。50年に1回と言われる豪雨災害でしたので、同様の災害は暫く無いのではないか、と考えておりましたが、去年も東日本に大きな被害が出ました。今年も既に九州で大変な被害が生じています(インタビュー後に全国に広がった)。おそらく地球温暖化の影響ではなかろうかと考えておりますが、梅雨末期や台風シーズンには毎年こうした災害が起きる可能性があるのだと感じています。
西日本豪雨による中国支社管内の被害状況
復旧を迅速に進めた
完全復旧した高速道路
災害への即応はやはり経験が重要です。まだ解決していませんが、高速道路の敷地の外部から土砂が来ることもあり対応に苦慮しています。そうした箇所には自衛手段のため、高エネルギー吸収型のネットを張るようにしています。しかし大型の土石流が発生すれば、それでは防ぎきれない可能性が高いと思っています。そういう様々な経験をもとに、今まで考えられなかった事態でも対策や復旧を行えることが大事だと考えています。それらは保全サービス事業本部を中心にやっていきますし、技術本部が技術面を強力にバックアップしていきます。
例えば立川橋の被災状況と対応状況
同橋は約1年で復旧させた
関西空港連絡橋も発災から約7か月で復旧させた
――災害対策事業本部のようなものを常置することは考えていませんか
前川 それは考えていません。基本的には高速道路事務所が対応し、それを支社・本社がグループ各社も含めて保全サービス事業部(本部)を中心に支えていきます。その中で橋梁やトンネル、土工など各専門家を災害時に派遣して、適切で効率的な復旧を行っていきます。2年前の西日本豪雨では、土工担当の専門家は次から次へと災害が起きるものですから、ほとんど本社に戻らずに現地を巡回していました。
私は国交省に長くいましたが、国交省から見てもNEXCOは技術力の高い集団です。それでも経験したことのない土砂災害であったり、橋梁の耐震補強や災害対策などがあり、それらは技術力の高い経験豊かな専門家が中心となって当っていかなくてはなりません。そのためにも専門家を継続的に育てていくことが重要です。
5年前から採用を大幅に増やす
新技術の開発・採用で現場の省力化につなげる
――民営化の時には、仕事は減る方向にあり人員もかなりスリム化されました。しかし昨今は耐震補強、4車線化や6車線化への対応など仕事は増加傾向にあり、採用抑制時の影響もあり、人員的にはきつい状況にあると思いますが、どのように対応していきますか
前川 5年位前から当社は採用を大幅に増やしています。しかし、他の高速道路会社にも言えることかと思いますが、民営化前後にだいぶ採用を絞っております。30代後半が手薄です。若い人を教育するのに世代間ギャップが生じているのは否めず、苦労しています。そこで、OJTや実務的な研修を実施し、社員育成に努めています。
――グループ各社も含めた新技術の開発について
前川 グループ各社は、現場のニーズを踏まえた技術開発を進めています。現場を省力化するための技術が中心です。例えば点検における技術開発は、人間の眼の代わりに各種カメラを用いたものになります。ラインセンサカメラなど高性能なカメラや赤外線カメラ、さらにはドローンなどを使って撮影するなどし、その画像を自動計測・自動解析して、損傷判定図を作成できるようなシステムを構築することで、現場の省力化につなげていきたいと考えております。
またグループ全体としては、高速道路の維持管理の現場におけるタブレットPCのプラットフォームの構築、BIM/CIMなどICT技術を活用した工事の遠隔立会の導入など業務プロセスの効率化、高速道路の異常やその予兆の察知、日常の維持管理に3次元データを活用する研究も進めていきます。
遠隔立会の導入
トンネル覆工の自動施工化(右写真:井手迫瑞樹撮影)
――2年前にフジエンジニアリングを買収し、NEXCO西日本イノベーションズ(株)としましたが、同社の技術は今、社長が仰ったものを高い水準で満たしていますね
前川 ありがとうございます。
――高速道路以外の収益はどのように考えていきますか
前川 SAやPAなどの活用が主です。当社は料金収入が7,982億円(2019年実績)で、SA、PAの売上は1,613億円(2019年実績)に達しますが、当社はテナントからの営業料として、その一部を収受する形となるので、実際の額はこれより少なくなります。本業との差異は歴然です。今後高速道路の通行台数も人口減に比例して減っていく可能性もあります。こうした認識から売り上げの規模を追うのではなく、道路の質やサービスを向上させ、利益を追求して必要があると思います。
――海外事業は
前川 海外での道路事業への参入は莫大な費用が掛かり、当社だけではそのような費用は賄いきれません。当社の構造物の設計技術や高速道路の運用システムを欲しているようなインフラファンドと組んで、対応していくことになろうかと思います。
以上申し上げたような厳しい認識を踏まえて、本年は来年度にスタートする中期経営計画2025を策定する予定です。
無人隊列走行運転システムの普及を実現したい
――その一端を示してください
前川 例えば、自動車の進化する方向性として「CASE」や「MaaS」が提唱されていますが、5年後は多くの技術が実現していると思います。また、アフターコロナではさらに新しい技術やサービスが出現する可能性もあります。
その中でも技術的には無人隊列走行運転システムの普及を実現したいと考えています。多分自動運転が日本で実用化されるのは、高速道路上が中心となると思います。
――ありがとうございました
(2020年8月1日掲載)